0/純然 ②
昔はこんな風に分類できなかったんだけどねぇ。今から百年ぐらい前にユーゴーの奴が「突然変異」を学術的に発見して命名したもんだから、ボクもそれに倣ってるわけさ。いやぁ、あの時ばかりは学者と付き合いを持ったことを後悔したよ。
それから数十年後にボクらのような突然変異体のことは、変異血種なんて名称がついたわけなのだけども。今では基本となっているように自然変異型・人工変異型・天然変異型の三つに分類されるようになったのは、本当にここ最近のことだね。
ようするにだ。変異血種なんて大層な名称がつけられていても、結局のところ、こんな風に種類分けが出来てしまうのさ。
それはボクだってそうさ。この分類で言うと天然変異型か、自然変異型――ひょっとすると、その両方かな?
こうも長生きしていると、何がきっかけでこうなったのが記憶が曖昧でね。
ただ確実なのは――生まれたときから、完全な変異血種ではなかったということだね。物心ついたときには、身体の半分ほどが変異血種として適合していたけれど、それでも半分はまだ人間だったことは覚えているよ。
繰り返すけれど、天然変異型の変異血種は、別に珍しいものじゃない――だけどそれは、あくまで種を越えた変異をした部分を持った突然変異体が生まれることがあるというだけだ。
その全身が、生まれた時点で種を越えた変異をしているなんてことは、普通は有り得ない。
通常では有り得ない先天的な変異を起こした突然変異体の、さらに有り得ない超越的変異を持った変異血種の中でも、なおのこと有り得ない完全な変異を与えられた究極的とも言える突然変異体。
そんなものは、いるはずがない。いてはいけない。
そもそも、突然変異なんてものはプログラムで言うところのバグだ。バグなんてものは、プログラムを狂わせたり、意図せぬ過程や結果を生み出してしまうだけで、普通は存在しないほうがいい。
変異血種は、そのバグが偶然プログラムに対して良いように作用し、正規プログラムに組み込まれるようになったようなもの。
ボクの場合は、そのバグが長い時間をかけて正規プログラムに成り代わった――という風に例えるとわかりやすいかな。
つまり、だ。もし先天的に全身が変異血種と呼ばれるほどに変異しているのなら――それはバグそのものが、正規プログラムとして初期入力されてしまっているようなものさ。そして、そのバグしかないプログラムが、何故か正常に作動している。
それは、流石に有り得ないとわかるだろう?
もしそんなものがこの世に存在しているのならば、それはこの世界の法則そのものに対する叛逆だ。