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厨二が異世界に迷い込むとこうなる  作者: 長谷川ししゃも
イーステンフェルト地方編
6/28

5話 スクリーミング・ショウ

聖騎士様を連れてギルドの裏手、少し開けた場所までやって来た。

七哉頑張れーと呑気な声援を送る杏里と、ギルドからついて来た幾人かの野次馬も一緒だ。


「私が勝利した暁には、この街の住民に一切の危害を加えぬまま、速やかにここから立ち去れ!」

「ほう、命までは取るつもりはないということか?

 で、俺が勝った場合、どのようなメリットがある」

「私は魔力しか知覚できぬが、ここまで規格外な化生(けしょう)にであったのは初めてだ……。

 それを相手に容易に勝てる、殺せると思っている程能天気ではないが、決闘時の決まり文句だ。

 やれるのなら刺し違えても殺す――!

 そして、貴様が勝った場合か……、私を好きにするがいい――魂でもなんでも好きに喰らえッ!!」


杏里が「いやぁ!七哉くん鬼畜ぅ!お姉さんと言うものが在りながらー!」と棒読みで叫んでいるが、

違う、そうじゃない……というか解って言っているだろう……。


「いや、別に魂とか要らないんだが……。

 好きに出来るというのは色々都合が良さそうだが……見ての通り杏里が煩いので、

 その代わりに今後は俺たちの事を一切詮索しない、あと一食二人前を奢るというのを追加してくれ。

 その条件なら、お前が敗北した場合でも正当な理由なく街の人間を傷つけないことを確約しよう」


元からこの街には活動拠点の確保と情報収集に来ているだけで敵意とか全くないからな……。


「そうか……私の魂は1食にも満たぬという事か……何を喰らうつもりかわからぬが、最小限の被害で収まるだろう事には違いない……良かろう!

 だが、決して約束を違えるなよ、魔族!」


えええ、別にそんな魂を軽く見ているとかそんなのじゃないんだけどな……。

激しい思い込みにどんどん置いていかれながらも、聖騎士様はさらに1人で盛りあがる。


「では……これ以上の言葉は無用! 最初から全力で往かせてもらうぞ――!!

 身体強化(フィジカルブースト)――!速度加速(アドスピード)――!」


おっと、元から高いステータスにさらに強化(バフ)を重ねるのか。

予め自分のステータスを多めに盛っていて正解だったな……。

この後すぐにでも飛びかかって来そうな勢いだ。

どれだけ上昇したかを確認する時間よりも、こちらも強化して備えるのが得策だろう。


「研ぎ澄ませ――加速体感(クロックアップ)


少しの間、俺の思考や体感速度を通常の30倍にするイメージで編んだ魔術だ。

身体の動き自体には加速を加えてはいない。

制限時間や加速速度は身体への負荷やマナ効率と実用性でゆくゆく調整しよう。


「奥義――! 雷光十二連閃!!」


俺の魔術が発動すると同時にエルザが突っ込んでくる。

普通の人間から見ると砲弾が発射されたような速度に見えただろう動きだ。

それを俺は棒立ちのまま、視線だけで捉え続ける――。

構えから見るに、突きを連続で繰り出す技のようだ。

さらにご丁寧に十二連撃と技で教えてくれているので、これから展開される動きは想像に難くない。

最小限のマナ操作で完璧に防ぎきってやろうではないか!

俺はエルザが構えたロングソードが刺突するであろうポイントに、視線だけで超圧縮した空気のシールドを張っていく。


ひとつ、――二つ、三つ――。


「ハァ――!!」


エルザが目に見えないモノに阻まれた驚愕と、突いた感触に狼狽しながらも、声を上げ、気合いを増して突いてくる。


四つ、五つ、六つ――七つ。

こうして余裕を以て猛るエルザを観察すると、限界まで息んでいる表情だというのにとても美しい――。

金髪、美女、甲冑、激しい剣撃というのはここまで魅力的に映るものなのか……。

何故だか、こう……無性に一撃くらい貰っても良いのではないだろうかという気持ちになってくる。

いや……むしろこの世界でのダメージのレベルを図るためにも本当に一撃貰っておいた方が良いのではないだろうか……?

高めに盛っている耐久と、加速体感(クロックアップ)による見切りで急所への攻撃さえ回避すれば大事は無い気がするな……回復も魔術で問題なく編めそうだ……。

(い、いや。何を馬鹿なことを考えているんだ俺は――!)

何故このような思考に陥ったのか自らの深層心理を解析出来ないまま、最後の十二閃目をシールドで受け止める。

ちょっと惜しいような気持ちになってしまったのは気のせいだと思いたい。

防ぎきると同時に、加速体感(クロックアップ)の効果も切っておく、長時間の連続使用は慣れないうちは止めておいた方がよい気がするからな。


「はぁ……はぁ……まこと、化け物か貴様はッ!

 私の最大威力の技を……、瞳の動きだけで完封、するとは!」


初速から全力で撃ち込んできたエルザがロングソードを杖にし、

息も絶え絶えになりながら、睨みつける。

圧倒的な戦力差を体験しても戦意は折れていないようだ。

なかなかに気高い騎士様らしい。


「否――。良い剣技だったぞ聖騎士よ。

 では、今度は此方の手番とさせて貰おうか――!」


大技の反動から未だ立ち直れていないエルザに向かって悠々と歩を進める。

一歩近づくごとに僅かに恐怖に揺れる瞳と、それを恥じて隠そうとする姿が実に嗜虐心を掻き立てる。

杏里から「お、七哉くんのスイッチが入っちゃったぽいなー。可哀想に……なむなむ」などと聞えた気がするがそっとしておくことにする。


「――武装奪取(アームドラブリー)!」

まずは何とか立て直し、構えなおしたばかりのエルザからロングソードを取り上げる。

「ああッ――!」

自分の手元からキンッと音を立てて俺の脇の地面へと弾け飛んでいく様を見て、エルザが思わず声を上げて俯く。

「――影縫い(シャドウスティッチ)

今度は武器を失って本能的に足腰が引けてしまうのを強制的に踏みとどまらせる。

今や彼女は影が動いてしまうような動きは一切封じられ、自分では身動きとれない状況だ。

「くっ――、そんな……」

「よもや、聖騎士様が武器を失ったくらいで逃げ腰になったりなどはせぬだろう?」

俺はくつくつと嗤いながら目前の彼女の顎をそっと指先で持ち上げ、無理やり上を向かせ、至近距離で目を合わせる。

それでも彼女の瞳は恐怖に染まることは無く、目尻に涙を光らせながらも強気な瞳は崩すことは無い。

実に美しく、気高い。

「っ……わ、私の負けだ。殺せ――!」

「ふむ、そうか。 お前がそう望むなら――」

そこで一旦俺は言葉を切り、ゆっくりと彼女の耳元に顔を寄せ、声色を強めて続ける。

()()

パチンッ――。

そして指を鳴らし、――影縫い(シャドウスティッチ)を解除した。

「はっ……ああああああああああああああああ!!!」

彼女を縫い支えていた拘束が無くなり、恐怖で力の入らなくなった身体が崩れ落ちる。

最後の最後で、本当に殺されると思って恐怖が気概の限界を超えたのだろう。

地面に伏してなお、カタカタと甲冑が音を立てて震えている。

彼女にもう立ち上がる気力は残されていないだろう。


……ここまで来てようやく我に返ってきた。

「や、やり過ぎてしまったかな……?」

聖騎士様を子供のようにあしらっただけでなく、心までもポッキリ折って行きやがった……。

や、やべぇぜアイツ……。

この街はもう終わりだ!!

などなど様々な声が野次馬から聞えてくる。

頭を抱えてうずくまる人や、跪いて許しを乞う人すら出てきている。


「七哉くーん……? お姉さんは女の子をこんな風に扱っていいなんて教えてないんだけどなー」

「ひぃ――あ、杏里。 これは違う! 意図した事じゃなかったんだ!

 本当はもっと安全で健全な解決方法を考案していたのだが、思いのほか昂ぶってしまって――!」


お、おい……あの黒衣の魔族があんなに怯えてるぞ。

まさかあの女の方がさらにヤベェのかよ……。

強さってのは見かけによらねぇモンなんだな……。

どうなっちまうんだこの街は!

などなど、また野次馬さん方が大賑わいである。


「だけど違うの、七哉くん。お姉さんが一番怒っているのはソコじゃないの」

「へ? 誇りを完膚無きまでに叩き潰して女の子を再起不能にした事より怒っている事があるのか……?」


なんだ?

思いつかない……何か知らずの内に杏里を怒らせる事を他にやってしまっていたのだろうか?


「顎クイよっ!! 顎クイっ!!

 お姉さんもやって貰ったこと無いのに!ちょっと綺麗で金髪で聖騎士でくっころ映えしそうだからって!

 出会って5分で顎クイなんて!! お姉さん絶対に許さないんだからね!!」

「………………………………えええええええええええ」


何かもう、くっころって何?とか、出会ってから5分以上は経ってるのでは?とか突っ込みどころが満載だが、何よりモースト怒りポイントがソコなのか?

昔から杏里は理解できない事で怒ったり拗ねたりする事が多々あったのだが、この点に関しては未来永劫、俺が理解する事はなさそうだ。

あと、怒っていたり何か含む感情がある時はくん付け呼ぶのも条件付けみたいに緊張してしまうようになっているので止めてほしいのだが……。


「罰として、後でお姉さんの気が済むまでクイクイやって貰います。 いいですね七哉くん?」

「わ、解らんが解った……それで杏里の気が済むのなら……」

「よろしい。 ではとりあえず、そこで震えている聖騎士ちゃんが落ち着いたらご飯食べに行こっか

 ……この怯え具合だったら、ご飯奢らせた上で宿代とかこの世界の情報とか諸々全部引き出せちゃったりするんじゃないかしら?」

「あ、悪どい。さすが杏里、悪どい……」

「あら、七哉くん何か言ったかしら?」

「い、いや! 何も言っていない!!」

「……まあ色々頑張ってくれたし、今回は顎クイだけで許してあげましょう!

 じゃあ野次馬の皆さんの誤解とか解きながら聖騎士ちゃんの復活を待ちましょうか!」


言うが早いか、怯えて逃げる事も出来ていなかった野次馬に対してフレンドリーに話しかけに行っている。

実は全然魔族とかじゃなくて、腕に覚えのある旅人だーとか口から出まかせ思いつく限りの友好的な設定を吹き込んでいく。

元から対人スキルというか、コミュニケーション能力が異様に高い杏里の手腕で完全とまではいかないが、この街を生活拠点として問題なさそうなくらいには警戒を下がっていっているのを感じる。

ある意味これも魔術のようなものなんじゃないだろうか……。

俺も真似して意識こそ失っていないが涙を零して突っ伏したままのエルザに対して誤解を解こうと試みる。

……その前に、恐怖とか色々極限状態にあったからか、汗やら何やらで色々ぐずぐずになってしまっているのを魔術で浄化しておく。


「あー、済まなかった。

 杏里が言っている通り、というか元から俺も言ってた通りで別に俺たちは魔族とかじゃないんだ」

「……ぐずっ……ほんとうか……? うそじゃない……?」

「ああ、真実だ。 元からこの街の人をどうこうしようなんて、微塵も考えていない」


ああ、何という事だ。

あんなに気高く凛々しかった聖騎士様が心を折られ、恐怖に晒された挙句、幼児退行した感じになってしまっている……完全に俺の責任だ……。

同年代の女の子をこんな姿にしておいてなんだが、胸に少しクるものがあるのは何なのだろうか……。


「……えぐっ……そうか……ならば、よいのだ……」

「ああ、何だ、その……街を護ろうと身体を張る姿はとても立派だったぞ、称賛に値する」

「……んぐっ……そうか……むだだったが、いみはあったのだな……」

「そうだ、肯定する。

 ああ、ちなみに何だが、魔族の定義とはどういったものなんだ?

 魔族で無いと証明する方法は何かあったりするか?」


意外と話せる状態なので情報を探っておく。

もし魔族で無いと証明する方法があるのなら、それで安心を保障しておいたほうがいいだろう。


「……ひぐっ……魔族とは……魔物をしたがえて、人をおそうものだ……明確なていぎはない……

 最後のあらそいは……もう数百年前で……この街のひがしの……大森林をこえた地にすむとされている……」


おお、ちょっと回復してきたらしい。

滑舌が戻ってきている。


「……証明方法っ……だが……王都までいけば……鑑定士がいる……相応のたいかをしはらえば……種族やしょくぎょうのてきせい……などを教えてもらえる……」


なるほどな。

よくよく聞いていくと、鑑定士にも等級みたいなのが存在し、高位になればなるほど金額が上がるが、より詳しいことまで看てもらえるらしい……下手に個性とかまで鑑定されるとやっかいそうだな。

依頼する時は意図して等級の低い、種族がぎりぎり鑑定できるくらいの鑑定士を探したほうが良さそうだ。


「良し。 そろそろ立てそうか?」

「……うむ、問題っない」


まだ若干ぐずっている雰囲気は残っているが、大分凛々しさを回復させているようだ。

これなら大丈夫だろう。


「おっ、聖騎士ちゃん復活した?

 そうそう、ちゃんとアフターケアも大事よ」


遠目で見ていたのが杏里も戻ってくる。

もう大方の誤解は解けている様子だ。


「聖騎士ちゃんでは無いっ! エ、エルザだっ!」

「はいはい、エルザちゃん。 気丈に振る舞うのは良いけど、ウチの七哉より強くなってからね?」

「くっ……好きに呼ぶがいいっ!」


ちゃん付けだが、一応名前で呼んであげるのは優しさなのかどうなのか……。


「じゃあ、エルザちゃん!

 復活したてで悪いんだけど、さっそくご飯奢ってもらおっかなーお姉さんお腹空いちゃった」

「うむ……そういう条件だったからな……。

 だが、その……聖騎士とはいえ王都から左遷された身だ……。

 見た目ほど懐に余裕があるわけじゃないので高級な料亭などは容赦してほしい……」

「えー、アレだけ大見栄切って勢いよく七哉に突っ掛かって来たのにそういう事言っちゃうの?

 聖騎士って職業に着いてる人間っそんなものなのかしら?」

「うぐぅ…………わ、わかった!

 どこへなりとも連れて行ってやろうではないか!!

 不足分はこの武具を質にでも入れて賄ってやろう!!!」


おおう……さすが杏里だ……。

泣きっ面に蜂というか、もう本当容赦ない。

だが、下手に口を出すと矛先がこっちに向きかねないので黙認することにする……エルザ済まない……。


「あははっ! 嘘うそ、アタシもそこまで鬼じゃないわよ。

 普通のご飯でいいわ。 その代わり、今日の宿代と暫くの間アタシ達に同行しなさいな」

「くっ、仕方ないか……しかし、同行?

 一応、私は街の警備兵としてこの街に滞在している身のため自由に行動することは出来ないのだが……」

「へぇ、じゃあもうアタシ達が魔族じゃないって完全に信じられるの?

 七哉にボコボコにされて、街の皆を護ろうって気持ちも無くなっちゃった?」

「な! そんなことはない!

 私は今でも変わらず街の為、人の為なら命を差し出す所存だっ!!」

「なら、いっそのことアタシ達に同行しなくちゃね?」

「な、なぜだ!?」

「だって、ほら。

 一番近くでアタシ達が魔族じゃない。 危険じゃないよって監視した方が街のためでしょ?」

「な、成程……一理ある……が、しかし……務めが……」

「そんなの上長に確認してさっさと許可貰って来なさいな。

 もし脚下されちゃったらお姉さんか七哉が直々に()()しに行ってあげるから」


エルザはボソボソと小さな抵抗を続けているようだが、ほぼ決まりだろう。

杏里としては、やっぱりこの世界の情報、それこそ常識レベルから知ることが出来る手頃な人材かつ当面のお財布くらいのつもりなのかもしれない……エグい……。

ちゃんとした収入源を確保したら、俺はたからないようにしよう。


「わ、わかった……仮決定ではあるが、これから私が同行するとしよう

 警備隊長も首を横には振れぬだろうしな……だが、流石に拠点をこの街から移すのは勘弁して欲しい」

「はいはい、大丈夫よ!

 収入とか生活が安定するまでは当面のあいだこの街に滞在する予定だから――ねっ、七哉?」

「あ、ああ……その予定だ……よろしく頼む」


思い出したように同意を求めてくる。

どうせ俺は杏里には逆らえない……。


「では、改めて……今更ではあるが、

 私はエルザ・スターリック。 王都の聖騎士だったが故あってこの街、

 イーステンフェルトで警備兵を務めている……もはや、()()かもしれんがな……。

 よろしく頼む――」


エルザが自重気味にそう名乗る。

こうして順調?に街での生活に確保して行くのだった……。

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