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厨二が異世界に迷い込むとこうなる  作者: 長谷川ししゃも
イーステンフェルト地方編
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3話 超音速特急-姉御便-

「おはよ七哉。アタシが寝てる時に騒いでたけど何かあったの?」


朝起きぬけに杏里からそう聞かれた。


「いや、気付いてたんなら起きろよ……。

 普通に襲撃されていた」

「えー、だって眠たかったんだもの。

 それに、本当に危険だったりしたら七哉がしっかり起こしてくれたでしょ?」

「それは……まぁ、そうなんだか……」

「で、何に襲われたの?」

「……淫魔だ。サキュバス、と言った方が馴染みがあるかもしれんな」

「んな――!?

それで!?貞操は無事なの!?色々奪われちゃった!?もしそうなら地獄の底まで――」

「落ち着け杏里。

サキュバスごときに遅れを取る俺ではない。

俺を襲うという身の程知らずだ。相応の呪いをかけて遠くへ吹き飛ばしてやったさ」

「そ、そう……ならいいんだけど……。

サキュバスなんて、現代人らしからぬ貞操観念をもってる七哉にとって、ある意味天敵みたいなものだから、お姉さん心配しちゃった……。

で、どんな呪いかけて追い払ったの?」

「なに、そう物騒な物ではないさ。

ただ、真に愛した者でないと満たされなくなる、というものだ。

マナを半分程も持っていかれてしまったのが予想外だったがな」


マナ消費の法則はまだよくわからないが、期間を切っていなかったのが高くついたのか、はたまた俺の理解の及ばないものに対して高く取られたのか……。

今の体感だと、無から作り出すのはマナ消費が膨大で、効果を限定すれば消費効率があがり、さらに、それがどういう理屈で成立しているのかなど詳細を理解しているほどマナ消費が少なく済む認識だ。

ざっくり言うと、出来合いの物を買うと1番高くついて、次点で構成する材料を買って自分で組み立てる、最高効率がその材料をどこから買うのが1番安くつくか知っているってことか。

極端に言えば、砂漠で水を買うのと、Amazonで購入するくらいの差がある。


今回に関して言えば、サキュバスが何をしてどんな充足感を得ているのかと、呪いという概念についての認識が曖昧だったからマナが多く持っていかれた、という感じだ。


「ぷっ、七哉アンタ、サキュバス相手に何て鬼畜な呪い掛けてんのさ!

あー、可笑しい!それ下手したら死ぬより辛いんじゃないの!?

何食べても味感じなくなるようなもんでしょ?」


よくわからんが、杏里のツボに入ってしまったらしい。


「そういう事になってしまうのか……?

俺は単純に、不特定多数の相手とそういう事をするものじゃないと、ただそういった目的でだな――」

「あー、ハイハイ。

そうだね。七哉くん的にはそういう認識だもんね。

あーホント可哀想……でもアタシの七哉に手を出そうとしたんだから当然の仕打ちかな。

とにかく七哉の貞操が無事ならいっか」


さらっとアタシの、と言っているのが気になるが、ツッコムと面倒な事になりそうなのでそっとしておくことにする。


「話かわるんだけどさ。というか、昨日からの街探さなきゃ問題の件ね。

 一晩ゆっくりして、お姉さん気付いちゃったことがあるのよ――。

 アタシって今クマの30倍くらいの強さ?ってか身体能力が有るわけよね……?

 ということはだよ、それはもう凄い速さで走れて街とかすぐ見つけられちゃうんじゃないかなって――」


実は俺もそれは考えていた手段だった。

地球をベースにしてクマの移動速度を時速50キロと仮定すると、単純計算でその30倍――。

理論上では時速1500キロという新幹線も真っ青な速度で移動することが可能なわけだ。


「だ、だが杏里よ。

 俺はその速度については行けないぞ?」

「そんなの、お姉さんが抱えて走れば良いだけじゃない」

「脚下だ!絶対にそんな恥ずかしいことは受け入れられない!

 それに、速度が解決されたとしても、耐久も足りてない俺が生身でそんな風圧にさらされたら無事じゃ済まない可能性が高い!」

「……昨日魔力を別のパラメータに振り直せるって言ってなかったっけ?」

「あ、あれはマナを消費するし、いざという時にとっさに全力の魔術を行使できないと不安があると言うか――」

「どちらにしろ、アタシが抱えてあげれば、敏捷の分は省略できて耐久だけ増やしておけば済むわよね?

「…………いや、やっぱりそんな高速で人間が走っていたら現地の人にどう思われるか……」


いよいよ言い訳が苦しくなってきた……。

ロジカルに考えれば杏里の言う事は間違っていないのだ。

食糧も残り僅かな今、動けるうちに街を見つけておくべきだ。

ただ問題は男の沽券というかプライドに関わるというか――。


「よいしょっと……。

 はい、じゃあ耐久に振って置いてね!」

「え、あ――ちょっと待て!!

 うわあああああああああ!!」


言うが早いか杏里は俺を抱えて走りだす。

しかも寄りによってお姫様だっこで、だ。


「死ぬ!!ほんと死ぬ!!

 羞恥心と風圧の両方に殺される!!」

「あはは、大丈夫だって!

 まだウォーミングアップで車くらいしかスピード出してないし、

 そんな簡単に羞恥心で人は死なないからっ!」

「いやいやいや!ホント無理だって!

 こんなの人に見られたら男としての威厳がっ!プライドがっ!」


そう叫びながらも、慌てて魔力を耐久に振り分ける。

杏里に合わせて3000もあればきっと死ぬことは無いだろう。

マナは移動した分の1割。300程持っていかれているようだ。

ちなみにバックパックや石鹸、フレグランスなどは魔術で既に格納している。

キロ単位あたりマナ10で格納できるが、格納している間は固定値でマナを持っていかれる。

つまり、10キロ格納している間は100マナ分最大値が減っている扱いになる。

ちなみに取り出すときは消費なしだが、減った分のマナは即時回復なしだった。


「どう?もう振り終わった?

 もっと速度上げてもいい?

 まだだったらそうだなー、七哉の服1枚ずつ脱がして捨ててこっか!」

「もう完了している!

 だから、せめて背負う形に――」

「オーケー!

 じゃあ行けるとこまでスピード上げちゃうよ!」

「…………」


それからの記憶は曖昧だ。

かつて無いほどの速度を生身で感じたのだ。

過ぎていく視界の速さとか、その辺の処理に脳が追い付くのか等疑問があるが、数値化されていない隠しパラメータ的なもので恐らく補完されているのだろう。

杏里は目的地を視界にとらえるまでノンストップで平原を駆け抜けた。

俺は落とされないよう、無様にもしがみ付いて目を閉じていることしかできなかった。

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