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厨二が異世界に迷い込むとこうなる  作者: 長谷川ししゃも
イーステンフェルト地方編
2/28

1話 異界だし何でも出来る気がしたんだ

「ここは……?特に景色が変わった様子はないようだが……」

「ん……、良かった。身体に異常とかは無いみたいね。

 七哉も大丈夫?」

「ああ、何とも無さそうだ。

 だが、自分で気が付いていないだけで、異界に適応した身体に調律されている可能性がある。

 念のためその辺を確認しておくべきだろう」


そう言って俺は体内に存在するマナを意識する。

(ほう――、地球では感じることの出来なかった不思議な力の胎動を感じる……)


闇を照らせ(ブライト)――」


そう唱えると、俺がイメージした通りの光球が前方に出現し、トンネルを照らしだす。


「ふっ、ざっとこんなものか」

「ちょっとちょっと、アンタ何やったのよ……。

 ただの大きくなっちゃった厨二病患者が何本当に魔法みたいなもの使っちゃってるの!?」

「前から言っているが、俺は厨二病などではない。

 例え世間からそう見られていたとしても、たった今力を発現したのだ!

 口先や妄想だけではなく、力を伴った言動はもう厨二ではないだろう!!」


長年追求してきたものが実現して少々興奮してしているかもしれない。

こんなワクワクした気持ちは久しぶりだった。


「それより現状把握だ、杏里。

 場所は古ぼけたトンネル……っというか洞窟のままだが、外の景色がめっきり変わっているようだぞ。

 見えている範囲だけでも大森林といって差し支えない。最初から強敵の予感がするな。

 しかも時差があったのか昼すぎくらいの様子だ」

「うわー、ホントに悪い予感しかしない空気……。

 ね、七哉。やっぱりもう帰らない? 流石にまともじゃない雰囲気よ?」


普段はめったなことで動揺しない杏里も、この状況の変わりようで戸惑っているのか落ち着かない雰囲気だ。


「杏里よ。帰ると言ってもどうやって戻るつもりだ?

 俺たちが通って来たらしい異界の門は一方通行だったのか、もう見当たらないぞ?」

「そんなわけ……。

 うわ、ホントだ。じゃあもう帰れないってこと?」

「そう案ずる事はないぞ杏里。

 この世界はいろいろと興味深いし、俺が一度も勝てた(逆らえた)ことがない杏里のことだ。

 滅多なことで危機的状況に陥ることはないだろう」

「いや、別に怖いとか命の危険が~とかいうのを心配をしている訳じゃなくて……まぁそっちも心配ではあるんだけど……。

 私が言ってるのは大学どうしようとか、親とか心配するだろうな~とかそっちの方で……。

 あーもう!いつまでもどうにもならない事を言ってもしょうがないわね!スパッと切り替えるわ!」

「うむ。それでこそ杏里だ。

 ではまず活動の拠点を探すとしよう。異界に来たといっても生命活動の基本は変わりないだろうし、安定した衣食住を確保する意味でも街を目指すことにしよう」

「そうね。まともな武器も無いままこの夜の森を抜けるのは不安があるけど、お腹すいて動けなくなってからってのもマズいし、いざとなったら七哉がなんとかしてくれるでしょ。

 なんか派手な攻撃魔法みたいなモノとか使えたりしない?」

「ふむ。確かに現状の攻撃手段を確認せずに突っ込むのは良くないか。

 ちょっと待ってくれ――」


攻撃魔法か、パッと思いつくものだとやっぱりファイアーボールとかその辺のありきたりなものだが……。

それでは面白みに欠けるよな。せっかくならもっと派手なものを想像してみるとしよう――。

洞窟の入り口から森に向けて手を突き出す。

っとその前に、人気(ひとけ)どころか、人工物もそんざいしない場所だから無実の人間を攻撃してしまうとかそういうのはないだろうが、一応調べておいた方が良いだろう。

探索する波動(サーチエコーズ)

前方に魔力の波動が迸り、脳内に直接対象範囲にいる生命体のシルエットイメージと大まかな脅威度が数値基準のカラーリングされて入ってくる。

そしてシルエットを追うように森を抜けるまでの地形イメージが立体的な情報として浮かぶ。

案の定人間は無し、結構大規模な森らしく、抜けるまで5キロといったところで、脅威度は熊みたなシルエットの奴が一番高かかったが、それでも脅威度低っぽい緑に色分けされ、小動物などは範囲外の白、攻撃しても問題無さそうだ。

あとは、この湿度の高い森に簡単に燃え移る心配はないと思うが、その辺も考慮しておくか。


「我が求むは干渉されぬ炎――。

 一筋の業火を以て眼前に道を切り開かん、隔絶された灼熱の道(フレイムロード)


そう唱えると同時に、ほぼタイムラグ無く(ごう)ッ――と赤黒い焔のが一直線に森を走り抜ける。

焔が通った後には完全に焼け跡しか残らず、全てが焼き払われているのが確認できた。


「思った通りではあるが、実際にやってみると凶悪さを改めて感じるな」

「うわっ、アンタなにやったのよ」

「出来る気がしたことを実行したまでだ。とりあえず、森を抜けるまでの道と外敵の排除は完了したようだぞ」

「なんていうか、感覚がマヒして来たわ…七哉…楽しそうだし、もう好きなようにやっちゃいなさい!」

「快諾しよう――。では、性能解析(アナライズ)対象、七哉、杏里。

 まずは自己の戦力を知っておかねばな」

==================================

笹垣七哉(17)

カルマ:105

生命力:81/81

マナ:12564/15868

筋力:84

敏捷:82

耐久:78

魔力:12475

魔抗:12501


個性:(魔術創造(マギクラフト)&独創行使(エンフォーサー))独自の魔術を創造し、世界の法則に則ったマナを消費する事で行使することが可能。

==================================

鷹遠杏里(20)

カルマ:18

生命力:12213

マナ:0/0

筋力:3235

敏捷:3245

耐久:3251

魔力:0(32)

魔抗:253


個性:(覇王(ヒロイン))物理ダメージの一切を無効化。魔力を100倍で基礎能力に変換する。

==================================


なるほど。

俺は典型的な魔術特化タイプで、杏里は魔術系を犠牲に基礎能力がぶっ飛んだタイプか……。

他に気になる点は基礎能力に魔抗は含まれないのか?というのと、カルマというパラメータだな……、直訳すると業――レベルみたいな扱いか?

だとすれば一面焼き払った俺と杏里で差が出るのも頷ける……素で18あるのも謎ではあるが……地球での行いも引き継がれるとしたら何をやっていたんだ……。

それで俺たちがどれくらいの強さに値するかというと、さっきの探索する波動(サーチエコーズ)でみえた範囲で、一番ステータスの高かった熊もどきでさえ平均100くらいだったから、本当に覇王――というか、完全に人外だな……。

本人に言ったら殴られそうだから言い方には注意しよう。

俺は火力は十分なようだが、防御面が不安すぎて不意を突かれると熊もどきにも殺されかねない。


能力増強(エンハンス)能力偽装(ダミーディスプレイ)――持続型(パッシブ)で行使」


能力増強(エンハンス)で魔力を等倍で自分の基礎能力を100ずつ底上げし、

能力偽装(ダミーディスプレイ)で想定される一般人ちょっと多め程の能力に偽装しておく。

カルマでの上がり幅が不明だが、俺の素のパラメータ的から見るに、生命力100の他30前後が妥当だろう。

これは今後人に会ったときに異質な目で見られたり、不要な問題ごとを避けるための保険みたいなものだ。

どれくらいの人間がパラメータを覗くことが出来るのかは不明だが、用心するに越したことは無いだろう。

能力偽装(ダミーディスプレイ)の方は杏里にも掛けておく。


「今度はなにをしたの?」

「俺たちのスペック確認とその偽装だ。

 杏里は、そこら辺に生息している熊っぽい奴の30倍ほど強いらしい。

 恐らく他の外敵とかと比較しても話にならんレベルだ。

 しかも物理攻撃完全無効化とかめちゃくちゃな個性があるらしく、よっぽどの事が無い限り危機的状況になることは無いだろう」

「え……、熊の30倍ってなに?

 アタシどんな化け物になっちゃったわけ!?」

「そんなこと俺に言われても困る。

 これは冗談でも無いから、いつもの勢いでツッコミとかは勘弁してくれ。

 下手したら死ねるくらいのパラメータ差がある」

「はは……異世界来たら人間やめちゃってたよアタシ……。

 んで、七哉はどんなもんなの?」

「俺は、多分魔力とマナ以外はこの世界での一般人レベルだと思われる。

 魔力だけ頭おかしいくらいに高いから、それを変換して一般レベルの10倍くらいに盛ってる状態だ。

 個性は魔術創造(マギクラフト)&独創行使(エンフォーサー)というもので、魔術を自由に作って、世界の法則に逆らったそれ相応のマナがあれば行使できるものらしい」

「何そのシンガーソングライターの魔術版みたいなの……めちゃくちゃ便利そうじゃない。

 お姉さんもこんな鉄壁の脳筋みたいなのじゃなくてそっちがよかったー!!」

「いや、だから俺にそんなこと言われても困るんだが……

 とにかく、まずは街なり人がいるところに移動するぞ。

 能力が爆上げされていたとしても、食事とか普通の人間に必要なものから解放されているような気はしない。腹がへったり眠くなるまえに休める場所を探すべきだ」

「異議なし。じゃあさっさとその便利な力使って連れて行きなさい!

 ……はダメかしらね。この世界の常識がどうなのかは知らないけど、瞬間移動とかきっとそう易々と出来そうな感じしないし、急に街中に人が出てきたら騒ぎになりそうだものね」

「ふっ、流石だな杏里よ。同意だ。面倒だが大人しく歩いて行くのが良いだろう」


そういう訳で熱も収まってきた道を歩いて森を出ることにする。

何だかんだで長く一緒にいるし、杏里はこういう展開に耐性があるのだろう。

大学もそこそこ良いとこに行っていて頭も悪くないから理解、適応するのが早い。

1時間ほどの道中で脇道から何か出てくるわけでもなく襲われることも無かったのは、

地球と同じように獣が火を恐れるからか、そもそもそんなレベルでは無く危険極まりない惨状のせいなのか……。


「うーむ……やはり日中に人がいそうな場所に辿りつくのは難しいか……」


森を抜け、最大範囲(半径2.5キロ、直線5キロ)で探索する波動(サーチエコーズ)を再度使用してみたのだが、範囲内に人間が集まっているような場所どころか1人も引っかからず、俺たちは野宿を覚悟し始めていた。


「ねぇ七哉ぁ。アタシお腹すいて来ちゃったー」

「では腰を据えるのに適当な場所を見つけて小休止とするか」

「お、もしかして何か食べるもの持ってるの?

 ……それか、もしかしてさっきの森まで引き返してサバイバル的な方法で食糧確保しちゃったりする系……?」

「持ってきている方だ。無論サバイバル知識の一通りは本で仕入れてはいるが、

 実際に狩りをして解体して調理っていうのは、いよいよまで追い込まれない限りは遠慮したい……

 無論、決して血が怖いとか解体のグロさなどに日和っているわけではない。

 まだそこまでの必要性を感じていなだけだ」

「はいはい、わかったわかった。

 で、何持ってきてるわけ?」

「カ○リーメイトを6箱程。

 後は水のペットボドルが500ミリのが2本入っている」

「うー、無いよりはマシよね……。

 明日は絶対街を見つけるわよ!お金が無いのが問題だけど、誰かの親切心にたかるか、

 アンタの力を使って適当な仕事をこなせばなんとかなるでしょ!」

「いや、杏里よ……概ね賛成なのだが、もっと品位ある行動を、というかお前も働け」

「ふーん。お姉ちゃんに対してそんな態度とっちゃうんだ?

 確か今アタシのパラメータ?七哉より凄く高いのよね……?」


身の危険を感じる笑みを浮かべながら杏里がにじり寄って来たと思ったら、すでにヘッドロックを掛けられている。

無駄にでかくて柔らかいものが顔にあたったり、加減されているとはいえしっかり極まっているので普通に苦しい。


「お、おい止めろ!

 俺は素のパラメータで負けているだけであって、その気になれば増強して対等近くに持って行くこともできれば、攻撃極振りなら圧倒できるだけのスペックがあるんだぞ!」

「へぇー、でもお姉ちゃんにそんなことできるの? ほら、うりうりー」


俺が何をされたら困るか分かった上でぽよん、ぽよんと胸を押しつけてくる。


「ちょ、ほんと、やめ……」

「ヤバい。久しぶりにめっちゃ楽しくなって来ちゃった。

 七哉くん、こういう風に攻められると直ぐ力抜けて膝かくんってなっちゃうもんねー?」

「ぐっ――、

 あ、杏里姉ぇ。ごめんなさい……」


屈辱的だが、杏里はこういうと大抵のことは許してくれる。

というかいよいよ劣勢になったらこういうまで解放してくれないのだ。


「よしよし、あー全く純粋無垢な弟分をからかうのは至高だわ!」


最後にむぎゅっとやった後、実に満足そうにそう呟く。

いい歳になってまでやられるこっちの身としては堪ったものではないだが……。

異界にまで来たというのに、緊張感が無いことこの上ない。

そんなやり取りをしつつ、予定通り小休止を行い、また幾分か歩みを進めて日が暮れる前に、杏里の「野営するにしても水浴びは必須!」という一声で小川近くで野営をすることとなった。

 汚れや菌を完全に衣類や肉体から除外して清潔にしたり、真水を空気中から精製したりなどは魔術で問題無く行えたのだが、気持ちの問題らしい。

俺としても特に依存が有るわけでもなかったので、そういう運びとなっている。

むしろ、心身ともに清潔にする想いは俺の方が強いところもあり、周辺の草花から適切な成分を抽出し、ハーブに近い擬似的な石鹸や香までも向こう数年分くらい精製してしまった。

抽出できた成分だけでは再現しきれなかったので、自室で使用していた香りの不足成分の補完、再現をする為にそこそこのマナを消費してしまった。

……杏里も喜んでいたし、質の良い環境構築は集中力を高める効果もあって無駄ではないだろう……。

それに擬似的とはいえ、ハーブ系の香りは獣類も嫌うイメージもあるしな。

「念のために、脅威度が(イエロー)の生物、物体が来たら頭の中でアラートを鳴らす魔術くらいは仕掛けておくか……警戒[脅威度中](セットアラート)――こんなものか」

その後、俺たちは異界に来て流石に精神的に摩耗していたのもあって、2人して見張りも立てずに眠りについた。

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