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ふはいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい

くさっ。


死骸を処理している最中にクラリッサが放った第一声がこれである。


博愛はどーした、博愛は。


「こいつのおかげで儲かったからな、まあ死骸処理ぐらいしてやってもいいだろ」


俺はそういいながら、死骸を牧場の一角に持って行った。ずた袋にいれられた死体からは早期

本当なら死体なんてものは人間一人では動かせるもんじゃないが、俺には加護がある。使徒としての加護だ。


それに賭けでもうけすぎた。


せまい農場内であんまり独り勝ちしすぎればほかの連中からのいらない嫉妬や嫌がらせを受けるのは目に見えている。


金は必要だが、それは大金ではない。賭けで大勝ちしたぐらいの小金もちが俺が農場内で目指すべき立場だろう。


農場内を流れる小川の横で俺は死骸を焼却炉に投げ捨てた。人間のようにタンパク質や油の固まりを腐敗するままにほおっておくと菌が繁殖するので疫病の原因となることがある。


エルフは金属的な技術においてはドワーフに劣っているということだがこういったことを奴隷の俺達にも徹底させるあたり極めて支配者としては有能な部類に入るのだろう。


死体をもやすなんで野蛮ですー


自称知識人に用はない。文明人ぶったお前は土葬して細菌を繁殖させて勝手に疫病でくるしんでろ。

形を保ったまま土葬するなんてぜいたくが許されるわけないだろ。


火打石で作った種火を焼却炉に投げ入れると焼却炉が燃やした人間の炭素が、油が、酸化されて黒鉛となって煙突から漏れ出していく。


くさいです。


クラリッサは先ほどまでの博愛と自愛の精神を投げ出して正直すぎる感想を漏らしていた。俺も同感だ。


死んだので直接的な攻撃は聞かないクラリッサだが匂いを感じることができるようだ。俺としてはこれを利用してこいつがうるさいときはクソでもなげつけてやろう。


「なあ、俺たちみたいな使徒が死んだら………元の世界に帰れるのか?」


死んでも帰れるとは限らないですよ、私みたいに死後も目的を達成するまでこの世界にとどまらさせられる可能性だってあるんです。


「うえ、ぞっとしないな」


目的をはたすまで永遠にそのままである。神話では神様がよくやる行為だ。クラリッサの言葉を否定できるほどの知識は俺には振り絞れそうもなかった。


煙が徐々にしろくなり、遺骸が焼けきったのを確認して俺は農場へと歩いていく。使徒たる俺は老いたりしない、体が強い、加護がある。


だがこのなにもない状況に俺はうんざりしてきた。


「試練とやらはいつくるんだろうな」


耐えるのもまた試練のうちですよ。


**********************************


「へへ、ここを通りたけりゃ通行料をはらいな」


試練きた。ただしアホの試練が。


奴隷隊が雑魚寝する宿舎、農場の一角にあるそこへの暗い通り道に奴らは待ち受けていた。


体格のいい農奴がふたり、俺の宿舎への道をふさいでいる。一人は肌が白い農奴で眉が濃い、もう一人は肥満気味の体と剣だこがみてとれる。二人の共通点としては刺し傷や切り傷がところどころにみられる。おそらくは剣闘士くずれか何らかの理由で奴隷落ちした元市民兵だろう。


奴隷の中でもがらのわるい連中だ。


「てめー、ひとりだけ大勝ちしてんだろ?幸せはわかちあってこそだ。そうすりゃお前も痛い思いをしなくて済むし俺達も金をもらえて幸せになれるって寸法だ」


臭そうな息を吐きながら肥満ぎみの農奴が俺に近づいてくる。俺もこの世界の人間にしては良い体格だがこいつらはさらに大きい。ふつうに考えればまず勝つのはこいつらだろう。


「なーに、俺達も鬼じゃねえ、8割ほどよこせばそれで許してやるぜ」


俺は金を胸元に抱え込むようなしぐさをみせた。左肩を下げて左胸に金の入った袋を抱え込む。

三歩、二歩、一歩。予想通り金目当てのやつは俺の胸元をつかむ。それに合わせて俺は右手を突き出した。


「とっととだしや………」

近づいた距離を使って容赦なくおれは右手の指を相手の眼窩に突き刺した。そのまま眼窩に指を引っ掛けて相手の鼻骨に掌底を叩きこむ。意外とかたい目玉の外殻がぶつりとわれ、なかからゼリー状の液体と血液が手首を濡らしていく。なまあたたかい。

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!な”に”すんだ”このくそがあ?」

即座に相手の股間に向かって金的蹴りをはなつ。鈍い音がしてデブが地面に倒れる。


「いきがくせーんだよ、近寄んなデブ」


体脂肪率22%以上のデブに生きる価値はない。玉無しにはもっと生きる価値はない。


「てめえええええええええええええええええええ!」


白い肌の農奴が雄たけびをあげながら突っ込んでくる。


「クラリッサ!」


(はいはい)

「えぶっ」


何もないところで男が転んだ。クラリッサが能力で相手の足を引っ掛けたのだ。

転んだ白豚の首に向かって俺はかかと蹴りをおこなった。


めきょりという音がして相手の首がゆがんだ手ごたえを感じた。少し体をけいれんさせると相手は動かなくなった。


もう一人の玉無しにも足でとどめをさす。


足で首を折るときに重要なのは首の中心ではなく胴体に近い部分をけることである。

七つある頸椎の骨はのうち頭に近い第一第二頸椎である軸椎と環椎は太く、第三から第四あたりの中央部は湾曲しているため衝撃が吸収されてしまう恐れがあるからだ。


胴体に近い胸椎と頸椎のさかいめで人体に神経的にも損傷をあたえやすい。


くきょっ。首の靭帯や脊柱背立せきちゅうはいりつ筋群がのびて骨が折れる音がして、脊索に伝わった電気信号が脊髄反射からなるカエルのような反射をおこなった。


「あー、やっちまった。これで今年に入って七人目か」


賭けごとでかちすぎてますからねー。目を付けられますよ。


「しかたねーだろ。それにおれはこうしないと強くなれねーんだ。なに、脱走奴隷なんて珍しくもない。やたらと逆らいがちで素行不良なこいつらなら消えても奴隷がしらもいちいち詮索したりしないだろ」


そういって俺は使徒としての加護を使う。


死後硬直が起こり、死斑が起こり、乾燥によって皮膚が退縮し髪が伸びたようになる。血液が腐敗溶血し静脈に沿ってクソのような色に変色していく。


タンパク質はアミノ酸に、脂質は飽和脂肪酸になり、酸化して細胞壁が溶けて、上皮組織が剥離して、筋肉が分解して、臓器が酵素でとけて、そうして後には骨だけがのこった。


そういう風に俺は思っているが、電子顕微鏡はおろかレンズの作成すらできないこの文明では確かめようがない。ミクロレベルではまるで違う現象が起こっている可能性もある。


「くそ、もう一往復か」


俺の加護である”腐敗”は強力な力だが効果を発揮するのは有機物にかぎっている。いわゆるカルシウムなどの無機物にはこの効果は発揮されない。


…………つまり骨は残るのだ。


ずた袋に骨を詰めるとおれは再び死体処理場へと足をすすめていった。



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