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episode.9 弱音




村から近い小川へとやって来た俺は、冷たい川の水で顔を洗い、持って来たタオルで顔を拭く。


「ふぅー」


気分がすっきりした俺は、直ぐには村に戻らず木陰に入ってじゃれ合う魔物達を眺めていた。


「何だか、不思議だな」


一度死んだとはいえ、少し前まで殺し合いをしていたのに今ではこうして楽しそうに俺の周りでじゃれ合う魔物達。俺は、それがとても不思議で、愛おしく感じた。


いくら、人を殺して平気だからと言って俺は戦闘狂でも殺人鬼でもない。性格が捻くれたただの元高校生だ。


戦闘になれば恐いし、痛い思いをするのも嫌だ。


しかし、現状から考えて戦闘を避ける事は不可能だ。いや、現時点で戦闘を避ける方法はなくはない。革命軍を完全に見捨てれば良いだけだ。


「でも、その先だよな〜」


地球と同じで、俺には頼れる人間がいない。このまま旅に出ても、常識を知らない子供と嗤われて、権力者に良いように使われるだけだ。


だったら、いっその事……。


「どうした、そんな思い詰めた顔をして」


「アヴェリー殿下……」


美少年のような見た目のアヴェリーが俺を横から見下ろしていた。


綺麗な金髪が陽光に反射し、黄金色に見える。ここだけ見ると、頭の良さそうな美少年なんだけどな。


「……この後の事を考えていただけです」


アヴェリーは「そうか」と答え、ブーツを脱ぎ、ズボンの裾を捲って小川へと入って行った。森の方を見て、バクウルフ達が唸っているのを見ると、護衛はしっかり着いて来ているようだ。


「気持ちいな。ヨダカ、君も来ないか?」


「遠慮しておきます」


「男なら、女の誘いを無碍にしない物だぞ」


「こういう時だけ、女を使うんですか?」


アヴェリーは頰を赤く染めながら反論して来た。


「別にいつも捨ててる訳ではない!」


「兎に角、俺は大丈夫です」


涼みに来たのに、どうしてわざわざ川で遊ばなくちゃいけないんだ。それにしても、最近は人と話す機会が増えて来たな。自分が、コミュ障でなくて良かった。


「むぅ、良いじゃないか、少しくらい」


「……はぁ、分かりました」


俺もアヴェリーと同じように、ブーツを脱ぎズボンの裾を捲って小川へと入る。足の裏のゴツゴツとした感触と冷えた水の感覚が足から全身へと広がる。


その時ーーバシャッ!


「……殿下、何故水を?」


アヴェリーに近付いた瞬間、水をかけられた。


「城下の子供達は、川で水を掛け合って遊ぶのが人気だそうだ」


悪戯に成功した子供のような笑顔でそう言われた。


「……だから何ですか?」


「私達もそれに習って遊ぼうではないか!」


「俺はそんなつもりは……」


「スキル発動『水の魔術』」


アヴェリーの足下に青い魔法陣が浮かび上がった。


なっ!水遊びで魔術を使うとか反則だろ!


俺が抗議するよりも早く、アヴェリーから水の塊が放たれた。


「〝球状の水〟」


「うおっ」


何とか躱したが、魔術が水面に直撃した事で水が跳ね上がり、俺の全身は水浸しなった。


「もう一度〝球状の水〟」


同じ手を何度も喰らうか!


「【自分に放て】」


「えっ!?」


俺に放とうとした水の塊が、頭の上で弾けアヴェリーも水浸しになった。


「……」


もしかしたら、怒ったか?


「ぷぷ、あはははは!やられた、ヨダカの方が私より一枚上手だったようだ」


「……俺もずぶ濡れなんですがね」


「ふふふ、では風邪を引く前に村に戻ろう」


本当、何しに来たんだよこの王女様。






陽が沈み、夜空に2つの月が浮かんでいる。そのおかげで、夜だというのに明るく灯りがなくても周りが見える。


俺は、革命軍から貸して貰った部屋でこの世界の本を読んでいた。不思議なことに、この世界の人間の言語だけでなく、文字も自動で翻訳され、普通に読む分には困る事はない。


その時、部屋のドアが開かれガラルドが入って来た。この部屋は、ガラルドが使っている家の一室である。


「どうしました?」


「アヴェリー殿下が、外で話したい事があるそうだ」


「殿下が?」



俺は怪訝に思いながらも、外に出るとアヴェリーがいつもの軽装で待っていた。月光に照らされたアヴェリーは、昼間とは違う美しさを放っていた。


「すまないな。少し話がしたい」


そういうなり、アヴェリーは村の外れまで歩き出した。一応、後ろからガラルドに護衛をするように言ってある。


「2日…、私は君に出会ってたくさんの事を考えた」


何だか、いつもより話し方が柔らかい気がする。


「……私は、王族として国を護らなければいけない。だが、国を救いたいと、私は本当に思っているのか?」


アヴェリーがこんな弱音を吐くのは珍しい。


「私の弱さは自分がよく知っている。それでも、私なりに戦って来たつもりだった!」


振り向いたアヴェリーの目には光る物があった。


「でも、あの時、私は手を上げる事が出来なかった」


俺が初めてアヴェリー達に出会った日の質問の事か。


アヴェリーは、アヴェリーなりにこの2日間苦しんでいたんだな。


「それは、アヴェリー殿下だけじゃありません」


「……ありがとう。君は案外優しいな」


「俺は、平気で人を殺せる人間ですよ」


「全ての人間に優しい人間など、今の私からしたら偽善者でしかないさ」


月明りが、アヴェリーの強さと弱さ、2つの感情を映し出すように彼女を照らし出している。


俺が最初にアヴェリーから感じたのは、焦りに似た感情だった。

でも、今は焦りよりもーーーー。


「これを……」


アヴェリーは、懐から羊皮紙を取り出し俺に手渡した。


「可能限りだが、周辺諸国に付いて記載しておいた。少しは役にたつだろう」


「殿下?」


「君は革命軍から離れろ」




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