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episode.4 死に感謝を





鼻腔に流れ込む、鉄の香りと植物の香り。それに、近くで何かがぶつかり合う音が聞こえる。


「ぐわぁ…!」


誰かの叫び声に、目を開けると、青々とした木々が視界を覆っていた。


どうやら、森の中みたいだな。


体を起こし、制服に着いた葉を落としながら、叫び声のした方に視線を向ける。すると、街道のような所に馬車が横転し、血を流した人々が倒れていた。その周りには、山賊と思われる連中が戦利品を馬車から運び出している。


山賊か。今は、ここを離れた方が良さそうだ。……いや、それは無理か。


山賊で見張りをしていた少年が、俺の方を見ていた。


「誰だ!」


見た目の割に、高めの音域の声が俺と山賊達に届いた。


流石に、気配の消し方すら知らないゆとり世代の俺じゃ、戦いに慣れている盗賊から逃げ切るのは難しいだろうな。


少年の声に反応し、他の山賊達も集まって来た。


全員で8人か。


死んでいる連中の数は、5人。その中でも、武装しているのは4人。


両手を上げ、茂みから山賊達の前に姿を現わす。


「子供?」


「どうして、こんな所に……」


「もしかして、俺達を討伐しに来た冒険者」


見るからに山賊達が動揺している。


「それにしたって、あの見た目は……」


「油断するな。凄腕の魔導師かもしれない」


俺はその間も山賊達の動きを観察しながら、状況を見守る。


「悪いが、見られたからには殺すしかないだろ」


山賊の頭のような男の言葉に殆どの山賊達が同意する。


どうやら、戦闘は避けられそうにないな。


戦闘をしないに越した事はないが、仕方がない。


「坊主、恨むなら、自分の運の悪さを恨め」


目の前で、剣を振りかぶる大男がそんな事を呟く。


ーー愚かだな。


俺の中で、止まっていた噛み合ったばかりの歯車が勢い良く動き出す。


「恨む?何をだ?」


自然と笑みが浮かぶ。


俺の表情を覗き込んだ大男の額から、汗が流れ数歩後退する。


「世界には、理不尽が溢れかえっている。人は、他者から奪い、蹴落とし、価値を見せびらかす事しか考えていない。だが、俺はもう2度と奪わせない、誰にも支配されない、価値?運命?そんなもの覆してやる!」


ほぼ無意識の内に、感情が言葉となり語られていた。


「まずは、死を書き換える」


その時、俺の中の何かが周囲に放たれたのを感じた。その正体は分からないが、それを受けた山賊達の動きが止まり、目を見開いている。


「スキル発動『強欲の霊王』」


俺を中心に、黒い光が放たれる。まるで、元からある色を塗り潰すかのように、一帯を黒く染めた。


「さて、【皆殺し】だ」


「ば、化け物め!」


咄嗟に危険を感じた大男が俺に向かい剣を振り下ろす。


しかし、その剣は空を切り、大男は黒から元の地面に戻った所に倒れ込んだ。山賊達の視線は、大男を射った者へと動き、凍り付く。


射った者は、間違いなく先ほど山賊達が殺した筈の馬車を警護していた女性だった。更に、悲鳴が重なる。山賊達が殺した筈の者達が動き出し、不意を突かれた山賊達はあっという間に半数が殺された。


ーーーーーー


『強欲の霊王』


・半径10mの中の死者を蘇生させる。

・霊体の場合は、生前の肉体も共に与える。

・蘇生させた生者に命令を与える事が出来る。【LV:1効果】


ーーーーーー


死者に命を与え、一種の奴隷として支配する。それが俺の異能スキル『強欲の霊王』の力。


頭であっただろう、大男を失った山賊達は統率が取れず後2名のみまで人数が減っている。


「た、助けてっ」


命乞いをしようが、蘇生した連中には皆殺しだと命令している。最後まで、抵抗していた少年も胸を剣で貫かれ死んだ。


「ぐぅ、がぁあ!」


背中から射られ倒れていた大男が叫び声と共に立ち上がった。


「貴様ぁ……よくも、よくも!」


「最初に殺そうとしたのは、貴方達だろ。それに、初めて人を殺す所を見たが……案外大した事はないな」


人が死ぬ所を見れば、少しは気持ち悪くなったり、罪悪感のような感情を感じるかと思ったが、そんな事はなかった。


「元々、生き物は形はどうであれ死ぬ。それに対して、一々罪悪感を感じるのは愚か者のする事だな」


「うぉぉおおおお!!」


大男が怒りのままに剣を振り抜く。


ガキィィン!


しかし、それは盾を持つ女戦士に防がれ、更に背中に数本の矢が突き立ち、剣を持つ右腕を両手剣を持つ女性に斬り落とされた。


「ぁ、ぁぁ、ぐぁぁああ、あああああ!!?」


残された右腕を抑え、蹲る大男の前に立つ。


「スキル発動『霊刀』」


俺の右手に刀が顕現する。


日本刀は美しい武器だ。『匂いたつような』と言われる刃紋は、単なる曲面ではない、命の息吹を感じさせる個性を持っていて、生物の持つ鋭利な殺意を美に昇華している。


刀に向けられていた視線を、蹲り、土から現れた縄のような者に縛られた大男に向ける。


これは、魔法なのか?


もしそうなら、今回の戦闘から学べる事は多そうだ。命を奪う行為への罪悪感や、異能スキルの発動、そして、初めての殺人への自分の反応。本当に、感謝しても仕切れないな。


「ありがとう。貴方達のおかげで、俺はこの世界でも生きていけそうだ」


抜き身の刀を男へと突きつける。


「ちぐ…しょう……皆ーーぐふっ」


刀を振り抜く。僅かな抵抗を感じたが、肉が斬れ、鮮血と共に男の命が流れ落ちて行く。


悪いが、遺言を聞いてやる程、俺は善人じゃない。


「……やっぱり、こんなもんか」



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