episode.3 血盟の契約
光の門を通り抜けると、そこに広がるのは純白の白い世界。周辺を見回すが、出口どころか、通って来た入り口まで消えている。
通り抜ければ、直ぐに異世界だと思っていた為、少しだけ困惑する。
「……兎に角、歩けば良いのか?」
返答の返ってくる事のないと分かりきっていた問いかけだったが、その予想は覆された。
「歩いたって無駄だよ」
声が聞こえたのは、俺の正面。
しかし、何者の姿も確認する事は出来ない。
再度、声が正面から聞こえる。
「あ〜、ごめんごめん!実体化してなかった」
声質からして、相手は少女だと予測した時、声の聞こえて来た位置に、白と黒の雪のような粒子が、渦を巻きながら集まる。そして、人間の形を形成して行く。
「では改めて。いくら歩いたって、出口なんてないんだよ」
不思議と懐かしさを感じる少女の声。
見た目は、俺と似た黒目に、死人のように白い肌と漆黒の黒髪をショートカットにしている幼女。服装は、背丈にピッタリ合う黒いワンピース。シンプルなデザインのワンピースが、少女の人形のように精密に整えられた綺麗な顔を引き立てている。足は靴を履いておらず、裸足だがそれすら気にならない程に、完成された芸術作品のような品を少女から感じる。
「……どういう意味だ」
少女は、俺からの質問に、嬉しそうに口角を上げる。
「そんな焦らないでよ。時間はあるんだから」
少女は、手を広げ、まるで子供が秘密基地の紹介をするように話し出した。
「ここは、世界と世界の狭間、と言っても、異世界に限りなく近い場所。そして、霊体や魂など、肉体を持たぬ存在が肉体を得る場所」
「……つまり、お前は人とは違う存在なのか?」
「正解」
まるで教師役を演じる子供だ。
「私は、夜鷹幽斗に宿った存在。神からは、異能と教わってたね」
「……異能を取得するって事は、存在を体に宿すって事なのか?」
俺からの問いに、異能は「あははは〜〜」と笑いながらこちらに駆け寄って来る。開いていた距離をそれなりの時間をかけて詰め、俺を見上げる少女の表情はやはり笑っていた。
「まっさかー!私と幽斗は特別なんだよ〜」
お腹に抱きついた少女は、白い頬を学生服に擦り付けて来る。
「……」
この少女は、可愛い事は可愛いのだが、何処か懐かしさをかんじる。
「……不思議?」
まるで、俺の心を見透かしたようなタイミングと質問に僅かに動揺する。
だが、隠す理由はない。
「お前は、何者だ?」
「私は幽斗だよ。そして、幽斗は私」
「……意味が分からない」
一度離れた少女は、次に俺の手を両手で握る。まるで、俺ーー夜鷹幽斗という人間が存在する事を確かめるように、優しく包み込む。
「異能は、神から与えられた物じゃない。私は幽斗から生まれたんだ。幽斗の心が、私を創ったんだよ」
それを聞いて思い出した。この少女は、幼かった頃の俺に良く似ている。髪を切って貰えず、女の子ように伸ばし、現実の厳しさと己の不幸を恨み、物置の布団の中で泣いていた頃の幼い自分。
懐かしく感じて当然か。
「幽斗は、私が嫌い?」
初めての少女からの問いかけ。その言葉の裏にある感情が、俺には痛い程感じられた。
『己を拒絶せぬ事だ』
そして、あの神の言葉の意味も分かった。
「そんな訳ないだろ。お前は、俺なんだからな」
「良かったぁ!」
再度、俺に抱き着く少女。
「ちょっとだけ、不安だったけど……契約は成立だね」
「契約?」
「幽斗自身が、過去の記憶を受け入れる事が異能を得る試練。ひいては、この空間の正しい脱出方法だったんだよ」
少女の説明の途中であるが、俺と少女のいる純白の空間に亀裂が入る。亀裂を見た俺は、顔をを顰めつつ、少女を見つめる。
「そして、この空間は試練の間とも呼ばれていて、契約が成立すると自動的に崩壊が始まっちゃうんだよね!あははは〜〜」
「笑い事じゃないだろ……」
「ごめんごめん、でも、急いだ方が良いよ。崩壊に巻き込まれたら、永遠に世界の狭間を彷徨い続ける事になるから」
どうやら、本当に笑い事じゃなさそうだ。
死ぬのなら、諦めが付くが、永遠に彷徨い続けるのは勘弁して欲しい。
「それで、出口は?」
俺の立つ足場にまで亀裂が広がって来ており、少しだけ焦り出す。
しかし、少女はそんな俺を宥め、話を続けた。
「その前に、正式な契約を結ぼう」
すると、崩れ行く空間の中で、俺と少女の周りを青い炎が囲む。ゆっくりと炎が動き、魔法陣のような形に変わっていく。
ーー不思議だ、炎なのに熱くない。
「さ、覚悟は良い?」
「力をくれるなら、拒む理由はない」
少女は微笑む。今まで見た中で、最も妖艶に、そして、残酷に。
『我は、汝の心の影より生まれた。
冷たく、己すら凍てつかせる悲哀と絶望
熱く、己すら灰燼と化す程の憎悪と憤怒
今ここに混ざり合い、心象となし、異能へと昇華する
汝は、運命に定められし命を解放する《強奪者》にして、死を述べる《支配者》
我は、汝とここに血盟の契約を結ぶ』
その時、宙に浮く少女が俺へと近付き口付けをする。その瞬間、俺の中で今までバラバラだった歯車の全てが噛み合ったように感じた。
それと同時に、俺の何かが書き加えられ、内側から力が湧き上がって来る。
『血盟の契約は、運命をも覆す大翼となる
我が名と共に、その名を刻め
我が名は、【強欲の霊王】』
契約の完了と共に、空間が崩壊し俺の視界は闇に染まった。
しかし、間違いなく俺の中に力が宿った事を俺は実感した。
《異能『強欲の霊王』の取得を確認しました。これにより、スキル画面の閲覧が可能となりました。》
《同時に、新たな異能の派生発現を確認しました。異能『霊刀』、『霊眼』を取得しました。》
名前: 夜鷹 幽斗
スキル
強欲の霊王 LV:1
霊刀 LV:1
霊眼 LV:1