episode.10 動き出す運命
急ですが、これにて完結です。
モヤモヤが残りますが、長期連載は難しそうだったのでこの辺りで終わらせます。
読んで頂いていた読者の方々には、申し訳なく思っております。
「君の力があれば、国を救えるかもしれない。でも、元々君はこの戦には関係ない」
これはアヴェリーなりの俺への優しさなのだろう。思えば、こんなに俺に優しくしてくれた人間は、血の繋がった人間にもいなかった。
「良いんですか?俺は、一度は殿下を殺しているんですよ」
「良く考えれば、君も被害者だ。寧ろ、王族である私が謝罪するのは当然だ」
本当にこの王女様は、甘い。
絶対に勝ちたいなら、体裁などを繕っている場合ではないだろう。どんな手段を使ってでも成し遂げたいなら、そうするべきだ。
でも、目の前で分かりやすい嘘を付かれるのも不快だな。
「アヴェリー殿下、俺は貴方の本音が聞きたい」
「……君は本当に狡いな」
苦笑を浮かべたアヴェリーは、少しの間を開け俯きながら話し出した。
「私は何としてもお父様とアシュレーを救いたい!でも、私にはその力も知恵もない……いつも、皆に支えて貰ってばかり。もう、無理なのかな?ヨダカ、私じゃ、家族すら救えないの?皆を巻き込んで、迷惑ばかりかけて、私は最低だよね」
アヴェリーは遂に泣き出した。
今まで、抑えて抱え込んでいた感情がどんどん言葉となって溢れ出して来る。
「迷惑なら、好きなだけかければ良い」
「ぇ?」
「迷惑をかけずに生きられる人間なんていない。だから、気にするな」
これは、前に柊から言われた言葉だ。
「それに、他国に行っても面倒事に巻き込まれるくらいなら、宰相を倒した方が楽そうだ」
俺は、悪戯好きな子供のような笑みを浮かべた。
「良いのか?君は、私達の戦には関係ないのに」
「はぁ。今こうして、殿下と話している時点で、俺も立派な関係者ですよ」
「あ、り、がとう……ヨダカ」
「夜鷹は、ファミリーネームです。こっちの世界では、ユウト・ヨダカですね」
「そうか。……ユウト、ありがとう」
アヴェリーの瞳からは、まだ涙が流れていた。でも、その顔には、確かに笑顔が浮かんでいた。
運命が回り始める。
バラバラだった歯車が急激に噛み合った時のように、止まっていた運命の流れが動き出す。
1人の王女と勇者を中心にして。




