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episode.1 〜死人と呼ばれました〜


急な思い付き!


何処まで行けるか、筆者自身楽しみ……かもしれないっす!


まー、暇潰し程度によろしくお願いします( ´∀`)








「この人生は糞だ」


 これが最近の俺ーー夜鷹幽斗よだかゆうとの口癖だ。


 年は未だ16歳だっていうのに、夢も希望もない高校生活を送っている。


 今の言い方だと高校生活を送る前までは糞ではなかった、と聞こえるかもしれないがそうではない。俺の人生は産まれてこの方、下降直線を描き続けている。


 まず、初めに俺は両親に捨てられた。

 この地球のどこかで俺を産んだ女と孕ませた男が今も生きているかもしれないが、知る術などないし、今更興味なんてない。


  一言で言えば、俺を産んだ両親は糞だった。


 父親は幼かった俺を日常的に虐待し、挙げ句の果てに母親は、会った事もない糞で最低な親戚に俺を押し付けやがった。


 そして、引き取った親戚からは厄介者扱いで、毎日のように嫌味や暴言を言われた。寝る場所も物置の床だった。勿論、誕生日やクリスマスなんて「勿体無い」と言われ祝って貰った事などない。同じ家に住む、親戚の兄妹達が毎年祝って貰っているのを何度も見かけている。つまり、親戚の両親達は、祝うのが勿体無いのではなく、俺という他人を祝う行為が勿体無いと言っているのだ。


 しかも、糞大人の子供も糞DNAを引いている所為なのか、兄妹達に俺は虐められていた。

 それを親戚の両親は見て見ぬふり、学校にまで変な噂を流され友人など出来た事はない。


 俺自身、誰かと友人関係になりたいと思わなかったからそれは構わない。




「おーい、生きてるか?」


 これが、高校の入学式から数日たったある日に前の席に座る柊剛毅ひいらぎごうきから言われた言葉だった。


 寝ているだけの俺に対して失礼な一言だったが、そこまで不快じゃなかった。


「…………」


 俺は夢も希望もない。


 他人の温もりや温情も望まない。


 生への渇望も執着もない。


 これでは、本当の意味で生きているとは言えない。死んでいるのと変わらない。


「て、無視かよ!?」


「……煩い」


「何だよ、いっつも死人みてーに寝やがって……暇なら俺の話し相手になれよ」


ーー煩い奴。それが俺の柊剛毅に対しての第一印象だった。


「……暇な時にな」


 再び寝る。


 柊は、数回瞬きを繰り返し、不満気に表情を顰める。


「いやいや!どう見ても今のお前は暇だろ!」



 これが、人生の中で初めて友人と呼べる柊剛毅との出会いになるとは、この時は考えもしなかった。


「……眠い。それに、今は自習の時間だ」


「日本人に英語は必要ない!」


「使い込まれたボロ雑巾みたいな言い訳だな」


「うるせぇ!」


 柊の家は空手の道場を開いているらしく。父親は、元オリンピック選手。柊自身も全国大会の常連選手だそうだ。


 その所為なのか、潔い性格で俺の家庭事情や生い立ちにも踏み込んで来ないので一緒にいて楽だった。偶に、心を抉るような棘のある言葉を平然と言って来る事もあるが、悪気がないのは分かっているから気にならない。


 しかし、柊は自然と周りに人が集まる奴だった。


 カリスマ性と言うのか、人を惹きつける魅力がある男だった。友情に厚く、誰に対しても優しく、正義感の強い紳士的な少年。俺とは全く違う。


 根暗、薄情、冷徹、無関心、全て柊から言われた言葉だ。全て的を射ている。反論のしようもない。


 そんな思いもあり、最初は良く柊と一緒にいる時間ー殆どは、柊が絡んで来たーも長かったが、柊の周りの人間が増えるに連れて俺から距離を開けるようになった。


 そして、高校に入学してから半年か経つ頃には1人で1日を過ごす日常に戻っていた。




ーーーーー



「おい、根暗ぁ?俺、昼飯忘れたからパン買って来いよ〜!」


「勿論、自腹でな〜!」


「「ギャハハハハハッ!」」


 そんな下品な笑い声と共に、昼休みに同じクラスの男子生徒3名に屋上に呼ばれ、パシリを強要された。

3人とも見た目がチャラく、リーダー格の少年の耳にピアスがつけられている以外、特徴と言える物は特になかった。強いて言えば、ブレザー型の制服を着崩している事と髪をツンツンにしている事くらいだ。


 そして、結局俺は男子生徒達の要望に応える為にパンを買いに行き、日頃のストレスを発散するサンドバッグのような扱いを受けた。


「おらっ!」


「ぅっ…ごほっ!」


 放たれた拳が腹に突き刺さり、蹲る。


「ギャハハハ!何が、ぅっ…だ?クールぶってんじゃねぇよ!」


「ほら、やめて!助けて、ママぁ!って言ってみろよ!」


 この程度の虐めなら、とっくに慣れている。


 親戚の兄妹には、真冬の日に制服を水浸しにされたり、長期休みに入れば毎日のように全身に痣が出来るほど虐められた。


 ある意味で、痛みに対する耐性はあるし受け身の取り方も身体が覚えている。


「おい、後5分で授業が始まるぞ」


 頭を踏みつけた生徒が、スマホの時間を確認している。


「んじゃ、戻るか、な!」


「ぐぅ…」


 仕上げとばかりに脇腹を蹴られる。


 呼吸を整える俺の髪を掴み、顔を上げさせられる。


「いっ…て…」


「相変わらず、気に食わねぇ面してんな」


 それはこっちの台詞だ。


 そう思った時、


バキッ……!


 再度殴られ地面に叩き付けられた。


「てめぇの顔を見てるとムカつくぜ」


「プフー、確かに!ギャハハハ!」


「そうそう、あのウザい柊も見て見ぬふりだもんな!」


「てめぇは、誰にも必要とされてねぇんだよ。くくくく、いや、俺達のストレス発散のサンドバッグとしては優秀だけどな!」


 そんな言葉を残し、男子生徒は屋上から出て行った。


「くっ……!」


 激痛をこらえながら何とか立ち上がろうとすれば、すぐに膝に力が入らず倒れてしまう。


 いくら慣れていても、平気な訳はないか。


 それでも、体に鞭を打ち教室へと向かい。何とか、授業の始まりを告げるチャイムと同時に教室のドアが開き中に入った。同じクラスの生徒達の視線が集まるが、直ぐに四散する。その中に、柊の視線もあったが俺の方から視線を外した。


 窓際の1番奥の自分の席に向かい、座る。すると、窓側から差し込む光が何かに遮られる。それに気付き、伏せていた顔を上げる。


「……柊、何かようか?」


 巨漢と言っても差し支えない少年が、見下ろしていた。普段は、穏やかな雰囲気を纏っているのに、今は何故かピリピリとした雰囲気を纏っていた。


「これ、次の授業のプリント」


「……どうも」


「それじゃ……」


 プリントを机の中に仕舞い、視線を外に向けるとまた柊に声をかけられた。


「なぁ、その……」


「?」


 珍しく踏ん切りのつかない柊に首を傾げている時、謎の人物の声が教室に響き渡る。


『皆様、御機嫌よう。私は、神の秘書をしている者です。訳あって姿はお見せ出来ませんが、これより重要な事をお話し致します。これは、皆様の今後の人生に大きく影響致しますので、人間の程度の低い脳をフル活用して下さいね。』


 程度の低い人間……ね。


 唖然とする生徒達と対照的に、俺は冷静に状況を分析する。勿論、動揺はしているが、オタクと呼ばれる人種の知識に興味を持っていたおかげで直ぐに冷静になる事が出来た。


 老若男女の判別の難しい声だけでは、今の言葉が全て真実だとは判断出来ない。だが、ただ事ではないのは確かだ。


『今皆様は突然の状況に困惑してるみたいですね?不可解な事が起こると、人間は冷静でいられなくなる。これだから人間は哀れで滑稽な生き物なのです。』


「なんだ、これ?」


「頭がおかしくなった?」


 もし普段の状態で、これを本気で誰かが言ってるのであれば、トチ狂った野郎位にしか思わなかっただろう。


 しかし、何故だか分からないが恐いのだ。頭で理解する恐怖ではなく、内側から湧き上がってくるような恐怖。本能的に、この声には逆らうな、と警戒を鳴らしているのかもしれない。


 だからこそ、誰も教室を出て行くどころか、呟く程度の声しか出せていない。


『詳細を話した所で無駄でしょうから、簡潔に御説明致します。』


 教室に響く声は、一呼吸分の時間を開ける。


『これから皆様には、この地球とは違う世界――――【異世界】に行って頂きます。』


「「「………」」」


 いきなりの言葉に唖然どころか、絶句するしかない。


『声を出さないとは、人間にしては良き心掛けです。』


 いや、声も出せないだけだ。


『しかし、今後声を出されては面倒ですので、発生機能と行動の自由を奪わせて頂きました。』


 この発言で、俺は完全にこの放送の主が神、またはそれに成り替わる程の力を持つ者だという事を理解した。


 あり得ない。あまりにも常識離れした力だ。


『訳あって時間が御座いませんので、早急に説明を行わせて頂きます。皆様を送る世界は、所詮剣と魔法のファンタジー世界です。それ以上でも、以下でも御座いません。』


 なんか適当じゃないか?


『皆様を【異世界】に送る理由ですが、あちら側の6つの国が異界の人間を呼び出す召喚魔法を使用したからです。本当に迷惑な話です。私の仕事量も6倍ですよ!ろ・く・ば・い!!しかも、神様は突然何処かに行ってしまいますし!おかげで仕事は全く終わらないですし、書類も山のようになっていて、増える一方…………失礼しました。』


 神様の秘書も大変なんだな。


 神の秘書は、ゴホンと咳払いをすると再度話を始めた。


『兎に角、皆様に拒否権は御座いません。処理は既に済んでいます。では、詳細につきましては召喚した側の国が責任を持って行うでしょうから、最低限の事だけお話し致します。召喚される皆様には、世界の狭間を通る際に神から一部の者には異能スキルが贈られます。言語能力の変更と追加などは全員行われますので、ご安心下さい。こちらも、世界の狭間を通る際に付与されます。それでは、これで最後になります。』


 随分とあっさりしているな。


 それに、神の秘書からすれば俺達のような人間などデスクの上の書類程の価値もないのだろう。


『皆様、後3分で5人までのグループを6つ作って下さい。グループに入れなかった人間は、必要御座いませんので消えて頂きます。』


「「「!!!」」」


『勿論、皆様の人数が31人だという事は把握しています。しかし、これは神の定めた規則。覆す事は出来ません。一応付け加えさせて頂きますが、皆様のこれから行く【異世界】は危険の多い世界で御座います。』


 つまり、生き残りたければ最大人数5人のグループを組めということか。


『では、3分後門を開きますので、それまでにグループを作っていて下さい。』


 神の秘書の声と恐怖が消えた。


 生徒達は、互いに顔を合わせ見るからに焦り出す。そして、次々と仲の良い生徒同士が纏まり出す。


「今のマジなの?」


「分かんないけど、一応グループ作った方が良いだろ」


「おう、そうだな!」


「だーれかー!私を護ってくれる人いませんかー?」


「嫌だ!【異世界】なんて行きたくない!」


「何で私が!?」


「おい、早くグループを作れ!時間がない!」


「な、な、俺とグループ組もうぜ」


「嫌よ、気持ち悪い」


「下心丸出し……」


 クラス全体が慌ただしく動き出す。何人かの生徒がドアを開けようとするがビクともせず、俺も窓に触れて見たが謎の力に弾かれてしまった。


 どうやら、本当にこの中でグループに入る以外生き残る道はないようだ。


「おい、柊!早くこっちに来い!」


 クラスのアイドル的存在のイケメンが柊を呼ぶ。


「いや、でもよ……」


 柊が俺に視線を向けてくる。


 要らない気を使うな。


「行けよ」


「夜鷹……」


「こんな連中に媚びるくらいなら、死んだ方がマシだ」


 柊の未練を断ち切る為に、あえて厳しい言葉と共に睨み付ける。


「ぶふー、うける!」


「あいつ最低」


「もう死ねよ」


「そうだな。ああ言ってるし、死んでも良いんじゃね?」


「私実は、前からあいつの事嫌いだったんんだよねー」


「バーカ、好きな奴なんていないっしょ!」


 クラスの連中が好き勝手な言葉をぶつけて来る中、そいつらに見えないように大きな柊の背中を軽く押してやる。柊の表情は見る事が出来なかったが、「悪い」と言い、自分を呼ぶ生徒達の元に向かって行った。




 これで俺以外の生徒はグループに入り、無事に異世界に行ける訳だ。


 話を聞いた時から、こうなる事は予測していたので今更怒りなんて湧いてこない。寧ろ、こんな糞な人生が終わると思えば、いっそ清々しくも感じる。


 その時、教卓の前に、長方形の光の門が出現した。


『では、組んだグループ毎に中に入って下さい。門が開いている時間も1分程度しかありませんので、急いで下さい。』


 神の秘書からの言葉を聞き、それぞれのグループが我先にへと門を潜って行く。その必死な姿を自分の席に座りながら眺めていた。


 裏切られたという思いなどない。これは、当然の結果だ。怒りも湧いてこない。


 死ぬ覚悟があれば、この残された時間も案外気楽なもんだ。


 ……いや、違うな。元々、俺は本当の意味で生きてなかっただけだ。つまりは、生きながらに死人だった。だから、死ぬ、という実感も特に感じていないのかもしれない。



 最後に、柊のグループが門の中に消え、それと同時に門も光の粒子になり消えた。


 後は、俺が消えるのを待つだけだな。


「やっと、この糞な人生ともおさらばか……」




応援よろしくお願いします!




ステータス


名前 夜鷹幽斗よだかゆうと


異能……不明



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