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終わりの村

少し長めです

 日が落ち始める頃には森の出口付近にたどり着く。


 森を出るとすぐ前に小さな村があり村民がちらほらと見かける。村民達は魔王を見ると笑顔で駆け寄ってくる。


 「魔王様、お久しぶりでございます」


 「まおーさまー!」


 わらわらと村人たちが魔王の周りに集まる、皆笑顔で魔王に声をかけてくる。


 「ようこそおいでくださいました、魔王様。本日はどの様なご用件でしょうか?」


 魔王が声を返していると一人の老人が魔王の前まで来て言った。彼はこの村の村長であり、周りは村長が来ると同時に少し下がっている。


 「いきなりごめんね。世界の線を超えに来たんだけど、もう日が暮れ始めちゃってね」


 「左様でございましたか、それでしたら是非とも(ワタクシ)の家においでくださいませ」


 「ほんと?ありがとー」


 「当然のことでございます、魔王様。お連れの方もどうぞこちらへ」



 魔王一行は村長に連れられて暫くしてある家に止まる。

 それまで勇者は一言も喋らず淡々と付いてきている、村人達も勇者には関わらずに魔王へ声をかけている。ここ魔族の村に人族がいると当然こうなる、むしろマシな方である。勇者は勇者で空気を読んでいるだけだが……。そしてティコはずっと魔王の抱き枕である。


 「こちらが私の家にございます、どうぞお入り下さいませ」


 そう言って家のドアを開けるとそのまま一礼をする。鍵は付いてない、そもそも魔法がある時点で殆どの施錠(セジョウ)は意味を成さないのだ。


 「ありがとー、わざわざごめんね」


 「いえ魔王様の為でしたらこれくらいお安い御用でございます」


 魔王一行は家の中に入ると村長も中には入りドアを閉める。

 そのまま村長は家の案内をして、魔王と勇者を別々の部屋へ送り届ける。


 「なにか御座いましたら(ワタクシ)めを何時でもお呼び下さい」


 そう村長は頭を下げ、魔王と勇者に言って去っていく。

 魔王は荷物を置くとすぐにティコを連れ勇者の居る部屋へ行く。


 「やほー」


 「ガゥ!」


 部屋に入ると勇者は聖剣の手入れをしていた。

 勇者は魔王に気づくと聖剣を置いての方に身体を向ける。


 「やほー」


 「ごめん、手入れ中だった?」


 ティコが勇者の所まで行くと足をガジガジ、もうすでにおやつ感覚である。


 「いいや?それよりどうだった?」


 「やっぱりダメみたい、長続きしそうにないね。私達がいる間は大丈夫だけど居なくなると元に戻っちゃう」


 「まぁそうなるか……」


 なんの話をしているか分からないティコは勇者の足をガジガジするのを止めて二人を見つめる。


 「ガゥ?ガゥ!!」


 ティコは二人を見て不満を出し、魔王はティコを見て寂しそうにしてるのを気付く。


 「ティコが付いて来れるようにしようとしたんだけどダメだったんだ…」


 ティコを持ち上げながら言う魔王は少し落ち込み気味である。

 魔王がしていたのは感情を操作する魔法を使い、魔族の人族へ対する抵抗を減らしていたのだ。魔法は成功したが定着させる事が出来なくて魔王が一定距離を離れてしまうと効果が消えてしまうのである。

 人族の街で魔法を使いティコや魔王への抵抗を減らしていてもそこから離れてしまうと効果が切れた人族に討伐隊を組まれてしまう可能性がある、魔王はともかくティコは何かの拍子で危険に晒されるかもしれないのだ。やはりティコを連れて行くことは出来ないのだった。


 「ガゥー。…ガゥガゥ!」


 「うん、ありがとうティコ。元気にするんだよ!!」


 少し悲しそうにするティコだったが、すぐに魔王を励まそうとする。それを見た魔王が感動しティコを抱きしめる。


 「いや明日だからな、その言葉はまだ早い気がするぞ」


 抱きしめ合う魔王とティコに勇者がツッコミを入れると話は戻っていく。


 「それじゃあ魔王が人族に見えるようにしないとな」


 「そだねー、じゃあまず角からだね」


 魔族は基本的に翼があったり尻尾があったり下半身が蛇だったりと個々に特徴があり、魔王の場合は小さめの角と黒い翼がある。真紅の瞳は人族にも稀にいるため問題はないだろう。

 魔王は腕を振ると頭に生えていた角が消えていく、幻術系の魔法で周囲から見えないようにしたのである。


 「どう?ちゃんと消えてる?」


 「おう、消えてるぞ。翼はどうするんだ?」


 「ん、これはね。ほ!」


 魔王の翼が小さくなっていき服に隠れるほどになる。


 「おぉーすげぇな!」


 「これが出来ないと服を着るとき大変だからね、服も翼の大きさの分だけ切らないといけなくなるし」


 「窮屈じゃないのか?」


 「大丈夫だよ。それに幻術で消すわけにもいかないからね」


 幻術だと姿は隠せても触れることはできるため翼のように少し大きめだとあまり意味が無いのだ。

 魔王は勇者から離れてクルリと回る。


 「どう?人族にみえる?」


 「完璧だな、どこからどう見ても人族だ」


 「ガゥ!」


 「ふふっ、ありがとう。これで人族の街に行ってもバレる心配はないね」


 魔王はそう言うと元の姿に戻る。ティコは元の姿の魔王が好きなのか戻ってすぐに魔王の元へダイブする。

 そのまま魔王はティコと遊んでいると勇者はふと思い付く。


 「そういやここのキッチンを貸してもらえば魔王の料理が爆弾じゃないことが証明出来るんじゃないか?」


 「爆弾ってこら!まだ私の腕を信用してないな!!もう食べ物ですらないじゃないの」


 「すまん、言い過ぎたな……爆薬だったか」


 「勇者は私に喧嘩を売ってるとみた、そこまで言うなら見せてやろうじゃないの!私の料理の腕を!!」


 コンコンっ


 「失礼します。夕飯の用意が出来ましたのでお伝えに参りました。」


 「………はーい。」


 ドアの外から村長の声が聞こえ、魔王が返事をする。勇者の割り当てられた部屋なのだが村長は魔王がいることを気配で分かっていた為に驚きはしなかった。


 「………行くか」


 「……そだね」


 「ガゥ!」



 魔王達がリビングへ向かい夕食を食べ終わると村長は風呂の用意をする為に去っていく。至れり尽くせりである。


 「夕飯美味しかったね」


 「そだなー俺は可愛い女の子の手料理が食べたかったけどな」


 「勇者が口説いてきたよティコ、散々爆弾とか爆薬とか言ってきたくせに」


 「ガゥガゥ!」


 ティコが勇者に噛み付いていく、だが勇者は噛み付いてきたティコを捕まえてひたすら撫でる。


 「捕まえたぞティコ、もうお前は俺の手の中にある。大人しく撫でられるがいい!」


 「ガゥ!?ガゥガゥ!」


 ティコは逃げようとするが勇者はそれを許さない、捕まえたまま撫で続け一方的に楽しんでいる。

 とろけた男の顔なんて需要はないのだが勇者の顔はとろけ顔である。


 「これがよくある勇者の暴走ていうやつだね、あっそろそろ私のティコ返してね」

 

 「ガゥ!ガゥー」


 ティコは勇者から離れると凄い勢いで魔王の元へ向かう。


 「くぅ〜ん」


 「よしよし、もう大丈夫だからね」


 「くぅ〜ん」


 「あっこれ地味にショックだわ……」


 ティコからの嫌われぶりに少し落ち込む勇者、対する魔王はティコを撫でて幸せそうである。とそこで村長が魔王達のいるリビングに入ってくる。


 「失礼いたします、魔王様。湯浴みの用意が出来ましたので冷めないうちにどうぞ」


 「うん、ありがとー」


 「当然のことをしたまででございます、それでは失礼します」


 村長は伝えることを言うと礼をしてリビングから出ていく。老人の家に押し掛けその老人を我が物顔でこき使う、まさに魔王の所業である。

 料理はともかく風呂の用意は手伝ってもいいくらいなのだが村長からすると魔王をもてなすことが出来ることそのものが大変名誉な事なのだ、魔王が壮大な裏切り行為(勇者と旅行)をしてるとは露とも思わないのであった。


 「じゃあ行ってくるね」


 「おう、部屋にいるから上がったら教えてくれ」


 「はーい、ティコもいこ?」


 「ガゥ!」


 魔王とティコがリビングから出ると勇者も部屋に向かう。

 勇者がリビングから出て廊下を歩くと村長に出くわす。


 「おや?お連れ殿、湯浴みはどうされましたか?」


 「あぁ村長さん、風呂なら魔王様が先に入っているよ」


 そう言って勇者は村長の持っている果物籠を肩代わりする。


 「これは失礼致しました。それと果実籠は私めが持ちますので」


 村長は謝罪の後に勇者が肩代わりした果実籠を持とうとするが勇者がそれを止める。


 「いやこれくらい手伝わせてくれ、どこに運べばいいんだ?」


 「それではお言葉に甘えて、そちらの果実はキッチンで剥く予定でしたので共に参りましょうか」


 「ああ、分かった」


 勇者は村長と共にキッチンへ歩き出す。魔王ではないから村長的に手伝われるのは許容範囲である。

 そもそも魔族が人族をこき使うのに躊躇いなんてあるわけないのだが、そこは魔王のお連れパワーである。


 「にしても何に使うんだ?」


 「皆様が湯浴みから上がられたあとにお出しさせて頂こうかと思いまして」


 「何から何まで済まないな」


 「いえいえ、私が勝手にやらせて頂いているだけですので」


 キッチンに着くと村長は勇者から籠を受け取る。


 「ありがとうございます、お連れ殿。あとは私にお任せ下さい」


 「ここまできたら最後まで手伝うよ」


 「いえいえお連れ殿にそこまでさせるわけにはいきません。あとは私めがやりますゆえ」


 「わかった、それじゃあ何かあったら呼んでくれ」


 そう言って勇者はキッチンから出ていく、二種族には一定の距離が大切なのだ。無理矢理手伝うと争いの種になりかねないのである。


 勇者は部屋に戻ると聖剣の手入れして終わる頃に魔王とティコが部屋にやってくる。


 「あがったよー!」


 魔王はバスローブ姿…なわけもなくパジャマ姿である、ちなみにうさぎ柄である。


 「いやん!えっち!」


 勇者はやや呆れ気味に見ていただけなのだが、ティコが勇者に噛み付きにいく。


 「いやなんか想像と違ったんだよ、魔王っていうと黒い寝巻きにコウモリの柄みたいな感じ じゃん」


 「凄い偏見だよ!私だって普通の女の子なんだから兎が好きだったりするよ!魔王だけど」


 「まぁそらそうか。じゃあ俺も行ってくるわ、村長が果実切ってくれてるからリビングにあると思うぞ」


 「はーい。じゃあティコ行こっか」


 「ガゥ!」


 魔王とティコが勇者の部屋から出ると勇者も着替えとタオルを用意して部屋を出る。



 勇者が風呂を終えてリビングに来てみるとそこにあるはずの果実が見事に皮と種だけになっていた。

 勇者と目を合わした魔王は冷や汗を流しながら目をそらす、ティコは机の上に立ち「ガゥ!」っと誇らしげだ。村長は皿を洗いにいっている。


 「つまりティコと魔王が俺の分まで食べたってわけだな」


 「ガゥ!」


 「そ、そんなことないよ。そ、そう!始めから勇者の分は無かったんだよ」


 「ひでぇ…どうせ魔王が果実に夢中になっている間にティコが食べすぎたんだろ」


 「ガゥ!」


 サーッと横を向く魔王、勇者と目を合わせようとしない。


 「それで気付けば魔王も俺の分まで食べてたと」


 「ガゥ!」


 「ティコはどっちの味方だよー!」


 ティコは勇者の嫌がらせが出来て満足である。もふもふナデナデの仕返しなのだ、むしろ自分がやってやったぜ!みたいな気分である。


 「なにか言う事は?」


 「ごめんなさい」


 「よろしい」


 素直な魔王である。


 「あっ風呂上りだよね、お水だすよお水」


 そう言って空中に水をだす魔王、だが水を入れるコップは村長が洗いに持っていき今はない。


 「……そのままで飲む?」


 勇者は無言で空気を固めて即席透明コップを作り出す。魔王はその透明コップに水を注ぐ。


 「ありがとう魔王さん」


 「どういたしまして勇者くん」


 クスクスっと笑いあう2人、そんな2人がいるリビングに村長がカットされた果実を持ってくる。


 「お連れ様の分を追加で持って参りました、良ければお召し上がり下さいませ」


 有能な村長である。

 果実が無くなるのを予測して新しく人族の分を用意したのだ、そもそも普通の魔族なら勇者の分を用意しなかったであろう。魔王の言葉だけなら理にはかなっているのだった。


 「ありがとう、村長さん。有り難く頂くよ」


 「当然の事をしたまでです。こちらは魔王様とペットの分でございます」


 ティコはペット!っと少し衝撃を受けている、どう見てもペットなのだが。


 「それでは失礼致します」


 「ありがとー」


 村長は空の皿だけ持って去っていった。

 ティコはさっそく勇者の分から食べていく。


 「ちょぉい!ティコの分はこっちにあるだろ」


 「ガゥ!」


 ティコは胸を張ってやってやったといった風である。

 勇者とティコが取り合いをしていると魔王がティコを抱き寄せる。


 「はいはい、ティコはこっちで一緒に食べましょーね」


 「くぅーん」


 魔王が言うとティコは大人しくなり、されるがままに あ〜ん されている。

 ティコを抱き寄せる時に勇者の所から果実の少しが浮いて魔王の口に入っていったのはご愛嬌である。

 勇者は切り取られた果実をゆっくり味わいながら食べて一息付く。


 「しかしこの村って魔王城の真後ろで安全だけど端っこだし生活大丈夫なんだろうか」


 「手当が出てるんだよ。金銭もだけど物資も生活が出来る程度に送ってるし、それにここの森には果実が腐るほど有るからね。人族のいうS級指定の魔物がうじゃうじゃいるけど。はいティコ、あ〜ん」


 「やばいだろ、生活出来ねぇわ」


 「ちゃんと躾してるから大丈夫だよ。みんないい子だし、魔族よりの魔物だから基本的に襲ってこないんだよ。ティコ、あ〜ん」


 「……魔物連れて人族に総攻撃出来んじゃね」


 魔王に人族への攻撃を提案する勇者であった。


 「むりむり、潰せても3っつ4っつが限界だよ。ていうか線の向こうの人族の村もこっちと同じじゃないの?」


 「いやあっちはここみたいに森が深いわけじゃないからな、それに首都に道が繋がってるからなにかと人も来るんだよ」


 「そうなんだ、まぁそこは行ってからのお楽しみだね」


 「ガゥ!」


 「あっはいはい、ティコあ〜ん」



 2人と1匹が食べ終わると見計らったかのように村長が現れ皿を取っていく。


 「村長ありがとー、ご馳走様!」


 「ご馳走様、村長さん」


 「……ガゥ」


 「いえいえ、満足して頂けたのなら幸いでございます」


 村長が皿を持ったまま礼をしてリビングから出ていく。

 ティコは村長が去ると目を閉じ魔王の腕の中で眠ってしまった。お腹いっぱいまで食べて大変満足であった。


 「俺達もそろそろ寝るか」


 「そだね」


 魔王は眠ったティコを起こさないよう立ち上がると勇者と一緒にリビングから出る。

 勇者は魔王の部屋のドアを開けるとティコを抱っこした魔王が中に入る。


 「ありがと、お休みー」


 「あぁ、おやすみ」


 小声でやり取りをすると勇者はドアを閉める。勇者はそのまま村長の所に行って一言入れてから自分の部屋に戻っていった。

 「ティコ、身体ゴシゴシしましょうねー」

 「ガゥ!」

 「はぁい、いい子だね〜…はいお湯掛けるよ、ざぶーん」

 「くぅ〜ん」

 「はい、よく出来ました。偉いねティコ」

 「ガゥ!」

 「え?あっ!?ティコ?大丈夫だよ私は自分で洗うから」

 「ガゥ!」

 「ティ、ティコ。んっ、こっこらそこはいけないよ!」

 「ガゥ!」

 「もー、じゃあ流すから一緒に湯船につかろうね」

 「ガゥ!」

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