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終焉の森

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 勇者パーティ(勇者と魔王)が結成されて3日後の早朝、勇者と荷物をまとめた魔王が魔王城から出ていく。少し大きめのバックを持ち歩くのは勇者で、かなり大きめのリュックサックを背負っているのが魔王である。アイテムボックスやマジックバック等は存在しない、全て手持ちである。


 魔王城から出た勇者御一行(勇者と魔王)はそのまま歩みを前に進めるのではなく、城の出口の反対側へ周り魔王城の背景ともいえる森に足を向ける。


 「やっぱりこの道で来たんだ」


 「そりゃ楽だし、でもアレだよな裏ルート的な感じだよな」


 「楽って…多分あそこを越えられるの私達しかいないよ?裏ルート的なアレだよ」


 人族の王城と魔王城はすごく近い所にある。人王城と魔王城の間には2つの村と2つの森に1つの峡谷があるだけで軍を送り込む事も容易く見えるが、中心となる峡谷の重力が強く間違えて入ろうものなら瞬時にぺしゃんこである。


 森に足を踏み入れた勇者御一行は道なき道を呑気に突き進む。

 道中魔物に出くわすが一切襲ってこない、この森の魔物は魔王にとってペットのようなものでありどれだけ強力と言われる魔物であろうとも主人に牙を向けはしないのである。勇者には襲ってきそうなものだが主人の意を組むのもペットの努め、足をガジガジと噛むくらいに留めている。


 「って痛ってぇ!なんだこのマンティコア、すげぇ噛んでくんだけど!」


 「マンティコアじゃあなくてティコだよ、ティコ。ほらティコおいでー」


 「うわぁすげぇ安直、魔王のネーミングセンスが皆無な件について」


 「いけティコ!勇者の(ハラワタ)を食い千切れ!」


 「え、ちょっ!ぎゃぁあぁー」


 悲鳴を上げながらティコの牙を紙一重で避け続ける勇者と、それを見て爆笑する魔王。ティコはどんどん本気になっていきスピードを上げていく。


 「わかった、わかったから!うん、ティコってすげぇいい名前だ!魔王はネーミングセンスいいな!さすが魔王!俺じゃあ絶対考えない名前だわ!ってティコ速くなってんだけどーー!」


 ぎゃあぎゃあ喚きながらティコから逃げる勇者と、ついには爆笑しながら地面を叩きだす魔王。実際ティコの牙が勇者に届いた所で勇者には傷一つ付けることは出来ないのだが、そこは気分の問題である。そんな魔王のペットとじゃれ合っている間に陽が真上に上がりおよそ昼頃となる。

 勇者とティコはおよそ一般人の目には追うことも出来ないスピードで走り回っている、途中から勇者が反撃に出てティコの腹を噛もうとしたりして攻防の激しいじゃれ合いになっている。魔王もその頃には笑いも収まって人知れず昼飯の用意をする。


 「はーい!昼ごはんだよー」


 「はぁ…はぁ…やるなティコ」


 「……ガゥ!」


 魔王の言葉を合図に動きを止める勇者とティコ、魔王は苦笑いでスープを木椀に入れる。昼食はスープとパンの二種類、ティコにはパンは無くスープが多めである。


 「魔王でもスープは作れんのな、すげぇ意外だわ」


 「失礼!失礼だよ勇者くん、私結構料理できるんだよ?」


 「あぁ悪い悪い、なんか魔王って王座にずっと座っているイメージじゃん?そうだよな、魔王だってスープくらい作れるよな」


 「……それは粉末スープの素を入れただけだけど」


 「………。」


 勇者は魔王からスープ入の木椀を受け取り地面に腰掛ける、魔王はティコのスープを地面に置いて自分の分を取り腰掛ける。


 「「頂きます」」


 「ガゥ!」


 勇者はなにも聞かなかったことにしてスープを口にすると魔王もスープを飲む。ティコは一心不乱にスープを舐めている。


 「うん、スープおいしい。さすが私!」


 「おいしいな、スープの素だけどな」


 「ホントに料理できるんだよ!ほら、ここ森の中だし器具とかないでしょ?それに昼食なんだからパンとスープで十分だって」


 「そこまで料理出来る系魔王だというのなら見せてもらおうじゃないか、また今度に……」


 「あっ!ちょっと勇者怖気づいたでしょ、料理破滅系魔王とか思ったでしょ!」


 会話の内容と違い二人の雰囲気は穏やかなものだ。両者とも本気で言っている訳ではなくただ楽しく会話をしているだけである。


 「いやいやそんなことはないぞ、毒物はやめてくれよ」


 「ニトロ草でも入れようか…」


 楽しく会話をしているだけである。


 「冗談だよ冗談、昼メシありがとな」


 「分かればよろしい…今度ホントに作ってあげるよ」


 そんなこんなで皆が食べ終わり片付け始める。といっても食器の木椀を魔法で洗い流すだけである。


 「ごちそうさま」


 「お粗末さまです」


 「ガゥ…ガゥ!」


 「はい、ティコもお粗末さまです。よく出来たね」


 「ガゥ!」


 魔王がティコを撫で繰り回している間に勇者は木椀をリュックサックに仕舞い、一人森の中を詮索する。





 「そろそろいくぞー」


 「はーい!」


 約一時間の間勇者は森を詮索して、魔王はティコとひたすら遊んでいた。勇者は戻ってくると置いていた聖剣とバックを取る、魔王は言葉を返すとティコから離れリュックサックを身に着ける。


 「ごめんね」


 「…いやいいさ、それよりほれ!」


 勇者が投げたのはこの森に実る晩白柚(バンペイユ)という果実である、魔王の掌に乗るときには晩白柚の厚い皮が取れて果肉が食べやすくなる。もちろん皮が自然に剥がれたのではなく勇者の魔法である。


 「晩白柚じゃん、んーいい匂い。」


 そう言って魔王は食べると勇者は残りの幾つかの晩白柚を自分のバックに入れる。


 「これは保存分な、日にちが経ったほうが美味いからな」


 「ありがとう、勇者も食べなよ」


 「おう、サンキュー!」


 魔王は残りの晩白柚を勇者に渡すとリュックサックを背負い出発の用意をする。


 「じゃあ行くか」


 「うん」


 再び森の中を進む二人に後ろから付いてくるティコ、魔物はそれ以降寄ってこずひたすら歩くだけである。




 「そういや人族の街のどこに向かうの?」


 言いながら魔王は木の実を魔法で切って取り寄せる。

 この森には作物が溢れて取り放題である。今も魔王の気に入った物は数個切り取られ空中を泳ぎリュックサックの中に入っていく。


 「んーとりあえず首都アラヒィンだな、観光名所としては鉄板だし」


 「首都アラヒィンかぁ、どんなところだろ?楽しみだなぁ」


 「アラヒィンに行く途中で凄いとこがあるから期待してろよ?」


 勇者の言葉に目を輝かす魔王、威厳など皆無である。


 「ガゥ!ガゥ!」


 「すまんなティコ、お前は連れていけないんだ。人里だと色々と危ないからな」


 「ティコも街の人たちも両方危険になるからねー、ティコごめんね」


 魔物は基本的に人族を攻撃する魔物と、魔族を攻撃する魔物が存在する。ティコは魔族よりの人族に敵対する側の魔物である為、これから行く人族の街やティコも危険になるのである。


 「くぅ〜ん」


 「ごめんね!ティコ〜!」


 振っていた尻尾を下げて悲しいアピールをしているティコに魔王が抱きつく。


 「くぅ〜ん」


 「ティコ〜!」


 抱きつき合う魔王とティコ、それを見た勇者がティコに近寄っていく。


 「すまんなティコー」


 「ガゥ!ガゥ!!」


 勇者の抱擁は必要ないのであった。

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