プロローグ
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魔王城王座の間、そこでは魔族の頂点に君臨する魔王と人々の希望の象徴である勇者が対峙していた。
玉座から立ち魔力を凝縮させる魔王。その美しい身体と宝石のような赤い瞳とは裏腹に、空気が悲鳴を上げるほどに凝縮された魔力をその身に纏う姿は見るもの全てを震え上がらせるであろう。
そして静かに魔力を全身に循環させ、構えた聖剣に魔力を注ぎ込む勇者。輝き出す聖剣と金色のオーラを纏った勇者はまさしく人々の希望そのものであるかのようだ。
張り詰めた空気の中で二人の姿が同時に消える。
立て続けに響く金属音は勇者の剣が魔王の障壁に阻まれた時に生まれ、重量感のある鈍い音は魔王の魔法を勇者が切る際に生じる音である。
勇者は障壁を破ろうと聖剣を振り下ろし、魔王は魔力を込め障壁を強化する。障壁と聖剣が重なった瞬間に魔王の魔法が勇者を襲う、右に打ち上げられた勇者は空中で体勢を立て直し腕を振り下ろすことで魔法を行使する。
100本の剣や槍は凄まじい速度で魔王に向かって行くがその全ては魔王の前で止まり反転していく、100本の剣や槍は落下中の勇者に向けられ魔王もまた右手を振り下ろし魔法を行使する。
「トールハンマー」
超巨大な電気の鎚は勇者を捉えそのまま地面へと叩き込む。鎚が勇者を捉えた時に紡いだ言葉によってより強固なものになったそれは爆音や風圧と同時に消え、地面には破壊の痕跡と勇者が持つ聖剣だけが残った。
「ッ!」
「空掌波!」
勇者は魔王の背後を取り超高密度の魔力を込めた右腕を叩き込む、衝撃を逃がしながらも吹き飛ばされる魔王、体勢を立て直しながら幾十もの魔力弾を勇者へホーミングし追撃を阻止する。
初めと位置が逆になった二人はお互いを見据え再び衝突する。
聖剣を拾い魔王へ向かっていく勇者、魔力を高め勇者へ魔法を放つ魔王。激闘は続くーーー。
☆
「うっんめえぇ!この肉超うめぇ!魔王も食ってみ?」
「知ってる知ってる、この魔王様の料理人が作ったからね。勇者の口にあったならよかったよかった」
魔王城客間にて、パクパク肉を口に放り込む勇者の言葉に笑いながら言葉を返す魔王。傍から見れば異様な光景だが本人たちは緩い雰囲気で笑い合っている。
「にしても俺の魔法が跳ね返されたのはビビった、まさか戻ってくるとはなぁ」
「いやいやあそこで聖剣を身代わりにするなんてほうがビックリだよ、感触があっただけに回り込まれてるとか思わないよ」
「まぁ聖剣だから強度はバカに高いからな、ひび割れたらどうしようかと思ったけど…。それよりも後の魔力弾だわ、アレは干渉しにくいんだよな、しかも無視できる威力を超えてるし」
「魔力弾はほぼ魔力で構成されてるから術式干渉すると結構魔力使うし割りに合わないよね」
「そうそう!それとーーー」
一通りさきの戦いについて語り合った後、勇者が周りを見渡してふと疑問を抱く。
「そういや思ったけど魔王城ってどうやって建てたの?そんな技術あったっけ?」
「あーー!偏見だー魔族に対する偏見だー!魔族だって城を建てる技術くらいあるからね。すっごい都市とかもあるから、今度紹介してあげるよ」
そういって野菜を口に運ぶ魔王は指先を動かして勇者に見えるように魔法で映像を映し出す、空中に映し出された映像は色々な種族の魔族が汗水たらして城を建設している姿が超倍速で流れていた。
「おぉ、本当に建ててるんだな。てか魔族の都市か…それは行ってみたいな、また今度頼むわ」
「任せなさいな、凄っごく楽しい所を教えてあげる。期待してていいよ」
「サンキュー!期待しとく、魔王がそこまで言うんだから間違いはないな」
「ふふふ〜、その代わりといっちゃなんだけど勇者も私に人族の街を紹介してよ」
「おういいぞー、といっても自慢できるのは少ないかもしれないけどな」
領土を案内する上での様々な危険を度外視して安請け合いをする二人。魔王はその勇者にあるまじき行動を咎めない、勇者もまた魔王にあるまじき行動を咎めない。
「ありがと、ずっと行きたかったんだ。3日以内には荷物を纏めておくね」
「了解って案外早いな、魔王の仕事は大丈夫なのか?」
「大丈夫大丈夫、休暇届出しとくから…私の部下に」
「魔王軍に休暇届とかあるんだ…。」
「いや?今作ったよ。」 「………。」
こうして魔王軍参謀長シーベル・ツムリト・ジャルハール、通称執事の叫び声と共に勇者と魔王のパーティが結成されたのであった。