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六話「この世界の勇者の剣」

 エレベーターのドアが開く。飛び出る赤井さんに、慌てて俺はついていく。そうしながらも、アドミンさんとの会話は続く。


「魔王、もう出ちゃったんですか? 早くないっすか?」

≪前の人が最後に退治したのが10日前なんで、むしろ今回は遅かったぐらいです≫

「そう、なんすか……まあ、そうなら、しょうがないっすな……」


 流石に走るわけにもいかないらしく、早歩きで広告アイコンの浮くホールを進んでいく。お土産販売サイトのアドレスがしつこく付きまとってくるのが煩わしい。

 さて。正直困った。いきなり魔王退治である。入るときに覚悟は決めた。決めたんだ。今更じたばたはできない。したいが、できない。するな、俺。だからしない。問題は、やり方がわからんという事だ。魔王に対する知識もほとんどない。この状況で戦えるのか? 戦えないだろう。そんな甘い相手ではないはずだ。ではどうする? 決まっている。


「赤井さん。俺どーしたらいいんですかね?」


 いつも通り、頼れるイケメンに聞くのだ。


「とりあえず、車に戻ります。車から倉庫に転移しますので、そちらで準備を」

「準備……その、俺みたいな素人が、剣……じゃないかこの世界なら。銃とか持って、それで勝てますかねぇ魔王」

「いえ、銃ではありません」

「じゃあ、大砲とか?」

「ええっと、そうですね……」


 駐車スペースに到着。車が上がってくるまで待つ。赤井さんは珍しく眉根にしわを寄せて考えているしぐさをしている。


「あれは大砲だけでなく……戦車ではなく……祭壇であり……されど移動するわけで……」

「赤井さーん?」


 むーん、むーん、となにやらお悩みのご様子。……何なんだ。そんな悩むものを渡されるのか俺は。少しばかり冷や汗が浮かび、それを袖口で拭っていると車がせり上がってきた。


「……とりあえず、見ていただいた方が早いですね。では、お乗りください」

「うっす」


 二人して乗り込む。赤井さんは何やら車の操作パネルを呼び出すと設定を始めた。


「車はここから自動操縦で先ほどの場所に戻します。では、転移しますので」

「了解……どぅあっ」


 突然放り出されてケツを打った。まあ、車高が低かったから大した高さではないのだけれど。なお、赤井さんは優雅に着地を決めている。流石である。倉庫、と言っていた場所に転移したわけだが、中は真っ暗だ。AR用のコンタクトレンズの力か、足元は白黒な感じで多少見えるのだがかなり広いらしく全体像はさっぱりわからない。


「ただいま明かりをつけますので、そのままでお待ちを」


 天井に明かりが灯る。まずは小さな光だ。かなり天井が高い……前の仕事場の工場よりも高いんじゃなかろうか。あそこ、吹き抜けで二階分ぶち抜きだったんだが。周囲がうっすらと色づいていき……そして闇の中からそれが姿を浮かび上がらせてきた。


「何……じゃ、こりゃぁ……」


 地面にへたり込んだ俺が見上げるそれは、巨大な金属の人工物だった。

 まず、足がある。二本の、極太の足だ。とてつもなく重い自重を支えきるためのその足は、鈍重さと力強さを印象付ける。

 続いて胴体。スペースシャトルや新幹線の頭のように丸みを帯びたデザインのそれが、大きく突き出ている。一番デカイパーツだけあって、圧迫感は相当だ。

 そして、両腕。中央部分にいかにも、といった感じの巨大な砲身。その周囲にも小型や中間の大きさの砲身が覗いていて、全体を金属のカバーが幾重にも守っている。

 頭に当たるような部分は見えない。代わりに、センサーと思われる突起物が飛び出ている。まるで象の耳のようだ。

 全身には、これでもかというほどに分かりやすくガトリング砲のようなものが多数付いている。両腕のそれよりも小型であるが、撃たれれば俺など即座にミンチになるだろう。

 それが、倉庫中央に鎮座していたもの。これは……こいつは……!


「……巨大ロボじゃねーか!」

「ああ、はい、それです。そういうものです、はい。歩行戦機や戦術走機とか色々呼び名があったのですが、いまいち伝わらないかと思いまして」


 赤井さんが晴れ晴れとした笑顔を見せてくる。……まあ確かに、巨大ロボという単語なしにこれを簡単に伝えるのは難しいな。実際としては、日本のロボアニメのそれのように人の形をしていないが。頭ないし。それはいいとして。


「で、本当一体何なんすかこれは」

「この世界で二百年近く前に使用された兵器です。起伏の多い地表での戦闘が多かったらしく、従来の車両を運用するのは難しかったようで。最初の機体の開発から50年、終戦まで様々なものが作られました。が、終戦後はコストの問題から使用されることはなくなったという……時代のあだ花です」

「まあ、たしかに。いかにも尖った兵器ってのは素人目からもわかりますけどね……。これ、使うんですか?」

「魔王が発生しますと、封鎖区画はモンスターであふれますので。魔王を退治することを含めますと、これぐらいの火力が必要になります。ここでは特に」


 まあ、確かに銃だの大砲だの渡されて魔王と戦うよりははるかにいい。これなら勝てるかもしれないという気もしてくる。一つ、重要な問題があるけど。


「で、俺にこれを操縦しろと? ……車とフォークリフトぐらいしか俺操縦できませんぜ!?」

≪それについては私にいい考えがある!≫


 唐突に頭に響くアドミンさんの声。きっとドヤ顔で胸張ってるに違いない。


「いい考えってなんすか。この切羽詰まってる状態で……」

≪乗ればわかります! さー、時間ありませんし、どんどんいきましょー!≫

「洞屋様、搭乗口はこちらになります」


 二人に促されるまま、俺はこの鋼の怪物に乗り込むのだった。


/*/


 操縦席はかなり狭かった。一人分の座席に、外を映すパネル。椅子の左右からは握って使う操縦桿が伸びていて、足元にはフットレバーがある。ほかにもいくつもスイッチが見えるが、さて一体何が何やら……。


「で。どーすりゃいいんです? なんかこう、魔法か科学で俺に操縦技術をズドンと叩き込むとかするんです?」

『出来ますけど、慣れないとうまく動かせないんで今はやりません。それよりもっといい方法があります。スケクロさん、フットレバーの上のあたりに収納スペースがあるんで開いてみてください』

「んん? ういっす……お、あった」


 見えないため手探りで探すとすぐにそれらしき感触が。開けてみると何かが入っていた。手のひらよりちょっとばかり大きなそれを引っ張り出してみる。


「よいしょっ……ってこれ、ゲームパットじゃねーか!」

≪ゲームの操作なら慣れてますでしょう? これならいけますって!≫

「いや、そりゃアメリカ軍がドローンの操作にゲームパット使ってるとか見たけどさぁ!」

≪時間ありませんし今回はこれで! 赤井、転移を開始しなさい≫

「了解いたしました、アドミン様」


 後ろから聞こえた声に振り向くと、そこにいたのは赤井さん。……ただしその装いは先ほどとは全く異なっていた。金糸銀糸を縫い込んだ荘厳な僧服に身を包み、頭に、指、首にも宝石をあしらった豪奢な飾り。座っている場所も白を基調にした祭壇になっていて、その場所だけが全く別の世界のように見える。天井に据え付けられた粗末な短剣が、ひどく浮いているがあれは一体……いや、今はどうでもいい。

 衣装や装飾品、祭壇が何らかの力を放っているのが素人の俺でも感じ取ることができる。しかし、それ以上にオーラのような力を身体から揺らめかせているのが赤井さんだ。その姿は神々しく、まるで人ではないようにさえ思える。というか、もしや……。


「赤井さんって、アドミンさんたちと同類?」

「まさか。私など大いなる方々の足元にも及びません。私はアドミン様の御意思を成すべく作り出されしもの。あの方の手足にすぎません」


 悲報。あこがれの上司が子持ちだった件について。


≪ちーがーいーまーすー! 技術課が作った身体に魂を吹き込んだだけで、人間のように作ったわけじゃありません! そんな事より今のうちにチュートリアルプレイしておいてくださいよ!≫

「ものすげぇ情報をさらっと……後で詳しく聞きますからね! にしても、チュートリアルって……」


 正面の画面に映し出されるゲームパットでの操作方法。本当にゲームみたく、ボタンを入力すると画面内のロボットが動いて見せる。


「左のアナログで前進後退左右旋回、右のアナログで視点移動というか上半身旋回、武器選択がこれでトリガーがこっち……ああもう、分かりやすいけどさぁ!」


 ロボゲーは数多く、そしてパットのデザインは大体同じ。似たようなボタン配置のゲームは割とある。稀に間違ったオリジナリティを出そうとして操作性皆無のボタン配置をして大失敗するメーカーもいるがそれはさておき。チュートリアルをプレイすると、なるほど似たようなのはやったことがある。これならできる。……ゲームならば、だが。


「出現位置の結界、展開しました。これより転移します」

「え、も、もう?」

≪さースケクロさん、ステージ1スタートですよー!≫

「しょっぱなのステージがボス戦ってクライマックスすぎるぅ!」

「増幅術式自動起動……大転移、発動!」


 今までの転移とは明らかに違う感覚。俺ですら感じ取れる負荷。体感で10秒ほどか、狭い通路を無理やり通る息苦しさの後、唐突にそれは消えた。

 ディスプレイに映る景色は一変していた。並び立つビルは、どれも歪み、ねじれている。道路は波打ち、蛇行している。怒り、妬み、悲しみ、恐怖。そういった感情を街で表現すればこうなるという姿。これがマナ汚染。目をそらしたい、だができない。


「洞屋様、前方に敵集団です」

「え? ええ?」


 はっとしてそちらを見やる。ディスプレイ内に拡大表示されるのは、異形の生物たち。人のような形をした、明らかに人でないもの。四足多頭の怪物。複数の羽を生やして空を泳ぐ魚。いくつもの人の顔を浮かび上がらせた生々しい球体。悪夢から飛び出してきたような集団が、前方から迫っている。


「くそっ!」


 俺は無意識にパットを操作し、照準を集団へとむけた。少しばかり躊躇して、だけどボタンを押し込んだ。

 機体の両腕から、幾筋もの光が飛び出していく。一瞬だった。光にのまれたおぞましき怪物たちは、わずかな焦げ跡を痕跡として、姿を消してしまった。あれだけいたのに。

 俺は歯を食いしばった。自覚した。俺は今、暴力を振るったのだ。子供のころから、暴力はいけないことだと教え込まれ続けてきた。俺自身、それを肯定している。しかし、多くの人がそうであるように俺の中にも暴力を肯定する自分がある。それを発散する場所はゲームの中。暴力はゲームの中だけでいい。そうであったはずなのに、今、ゲームじみて暴力をふるっている。

 気が狂いそうだった。


「洞屋様、コンデンサーの残量にご注意を。全力射撃はエネルギーを多く消費します。あの程度の小物でしたら小口径粒子砲と自動機関砲だけで十分かと」

「……了解」


 いつもなら心地よくすら感じる、赤井さんの冷静な声が今のささくれだった俺には煩わしく感じた。

 ディスプレイはどういう仕掛けか、マナの濃度を表示している。一番濃い場所に魔王がいるのだろう。さっさと終わらせるに限る。俺は機体を前進させるために、アナログレバーを前に倒した。


/*/


 道中は拍子抜けするほど順調だった。少し進むたびに怪物の集団と出くわしたが、省エネセットと名付けた低コスト武装による攻撃で、あっさりと蹴散らせた。上空や、物陰からの不意打ちもあった。大抵は、全身にある自動機関砲によって処理できたし、なによりこの機体には粒子障壁、つまりバリアーがある。有効打はこれっぽっちももらっていない。


「この世界、こんなロボ使って戦争してたのか……とんでもないな」

「いえ、これは終戦間際に開発された機体ですので、戦場ではほとんど使われていません。さらに、技術課の方々が手を入れておりますので本来持っていなかった装備も搭載されていまして……具体的には粒子障壁などですが。ですのでこれほどの性能ではなかったかと」

「だろうねぇ、少なくとも、間違いなく祭壇はなかったはずっと!」


 何度目かのモンスター集団との接触、そして撃破。あれだけ途轍もなくストレスを感じた暴力が、あっという間に薄れてきている。人は慣れる生き物だという。これが普通なのか、俺が鈍感なのか、ゲームパットとディスプレイ越しで戦っているためなのか。ガチガチに緊張して力が入っていた俺の身体から、だいぶ力が抜けていた。

 しかし、現実が楽ではないのはいつだって同じだ。


「前方、正常マナ反応。人間です」

「なんだって!?」


 ディスプレイに拡大表示されたのは、必死でこちらに走ってくる複数人の若者の姿。歳は若い。ウチの妹よりも。その後ろに、怪物の集団が迫っている。怪物たちは早く、若者たちは疲労の色が濃い。


「なんでこんな所に!」

「おそらく、怪物退治と資源回収のためかと」

「ああもう! どうする!? 射線が通らない!」


 この機体の兵器は強力だ。省エネセットですら、あの集団を倒すのはたやすい。だけど、今この場で撃ったら確実に巻き込む。射線確保のために移動するべきだろうが、こいつは加速まで時間がかかると今までの操作で学んでいる。このままでは間に合わない。


「では、跳躍するのがよろしいかと」

「跳躍? ジャンプ? そういうことかー!」


 俺はボタンを押し込む。途端に、シートに押し付けられるほどの突き上げを感じた。このバカみたいに重い機体が、足のバネと全身の噴射機を使って宙に浮いた。高さはそれほどでもない。だけど、撃ちおろすには十分の高さ! 俺は自分が驚くほどに精密かつ正確に、照準を怪物集団の中心に合わせた。ボタンを押し込む。エネルギーの奔流が、焼き尽くす。

 着地。轟音と振動。着地の衝撃で道路の破片が盛大に飛び散る……しまった!


「破片が! あの子らに当たったら!」

「ご安心ください。守りを施しましたので」


 巻き上げた埃が消えると、あの若者たちがそれぞれ白く輝く球体によって守られていたのが見えた。怪我はないようだ。


「すごいぞ赤井さん! 流石だ赤井さん! やっぱり赤井さんは最高だな!」

「お褒めに与り恐縮です」


 エキサイトして喜ぶ俺に、後ろからやや恥ずかしそうに声が聞こえてきた。ディスプレイの画面には白い守りが消えて、慌てて若者たちが逃げていくのが映っている。機体を避けるため大回りになっているが。


「しかし、この子ら大丈夫か? ここから無事に帰れるかな」

「その事でしたら問題ないかと。こちらを」


 ARで画像が映し出される。背後の映像だ。何台もの白塗りの車両がこちらに向けて直進してくる。装甲が施されているし、この荒れた道を走れる事から間違っても迷い込んだものではないとはわかるが……。


「ルトラス神殿の切り札。ルトラス光翼騎士団です。この星の対魔王戦の要ですね。彼らに保護されれば問題ないでしょう」

「おおう、そんな人たちがいたのか……強いんすか?」

「間違いなく。しかし、魔王の出現頻度が高まるにつれて消耗が激しく……」

「なるほど、それはアカンですな」


 車両から次々と降りてくる人影。一回り大きいのは鎧、ではなくいわゆるパワーアーマーだろうか? 細かくは見えないが、マッシブなフォルムが実に頼もしい。


「マナ濃度上昇。魔王、接近してきます」


 赤井さんの言葉にARを閉じる。いつの間にか、マナ濃度の一番濃い反応が、近場まで来ていた。 


「飛び跳ねた音を聞きつけたかね。手間が省けて何より……うげ」


 ビルの陰から姿を現したそれを見て、俺は生理的嫌悪を抑えきれなかった。二階建てのビルよりも大きい鼠。体のあちこちから百足などの虫を生やしており、まるで下水道の気持ち悪いものをすべて一つにまとめたような悪趣味さ。それが目に見えてわかる瘴気を纏って現れたのだ。おぞましい。ただただ、おぞましい。これが、魔王。


「マナ濃度さらに上昇。成長を続けています。今のうちに仕留めなければ、これだけでは倒しきれなくなります」

「何てめんどくさい。こんな怪物はさっさと焼却処分するに限る」


 俺は威嚇するように吠え猛る魔王に両腕の砲門を向けると、迷うことなく全力射撃をぶっ放した。

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