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プロローグ「勇者のお仕事」

 深い穴がある。

 どこまでもどこまでも、まるで底などないような巨大な縦穴だ。落ちたら助からない。子供でも理解できてしまう、あからさまな危険。

 俺は今、その中に落ちて行っている。……いや、だいぶ違うか。最奥めがけて、超特急で突進している。動力装甲服パワーアーマーで身を包み、背中にロケット背負ってね!


「んぎぃ~~~~ぎぎぎぎぎぎぎ!」


 食いしばった口から、変な声が漏れてしまう。しょうがないと思うんだ。だってロケットだよ? 十mはありそうな太いロケット背中に着けて、バカみたいな加速で真っ暗な縦穴に真っ逆さまだよ? 悲鳴を上げないだけほめてほしい。いや、実際上げたいんだけど、この状態だと踏ん張るので背一杯。とても悲鳴を上げる余裕なんてない。なんてこった!

 もちろん、そんな状態を生身のままで耐えられるはずがない。……訂正、今の俺ならいろいろやれば何とかなるような気がするけど、まあとてもとても辛い。耐えるので精一杯になってしまう。流石にそれでは不味いので、しっかりと対策をしてきている。動力装甲服パワーアーマー物理技術マテリアルテック魔法技術マナテック両方からこれでもかと強化を施してきた。こんなに強化された装甲服は、あらゆる世界をさがしてもそうそうないと断言できる。多分まともに作ろうとしたら宇宙船が楽に買える。

 そんなコスト度外視の装備をなぜ整えたのか。理由は簡単、この状態で戦うためだ。穴の奥底から莫大な量の瘴気が噴出する。その勢いに乗って現れる化け物ども。全身を装甲じみた外殻で覆った巨大な目玉、大量の刃を生やした七指の手、多色の毛柱を何本も伸ばした骸骨。実にグロイ。


「ぬっしゃぁ!」


 俺はあらかじめ立ち上げてあった火器管制システムを操作する。ロケットに取り付けられたアームが動き、先端に付いた物騒極まる重火器がうなりを上げる。ミサイル、機関砲、粒子砲。爆発、爆発、また爆発。こいつらに付き合っていられない。敵はいくらでも沸いてくるし、俺はいまだに加速しているのだ。


≪そろそろロケットの燃料が終わりますよー≫


 通信ではない。頭の中で声が響く。装甲服のヘルメット、ディスプレイ部分を見るとなるほどもう燃料ゲージが残りわずかだ。

 思念で返答。


≪了解。ロケットの武器はここまでか。全弾発射だぁ!≫

≪たーまやー、かーぎやー≫


 大量の弾薬とエネルギーが、湧き出る怪物たちめがけて放出される。同時に、装甲服の拘束が解除された。これであとはもう、この装甲服と自分のみで縦穴を落ちていかねばならない。


≪実際、頭悪いよねコレ! 何が悲しくてこんなフリーフォールしなきゃならんのよ!≫

≪いえいえ、これこそたった一つの冴えたやり方ってやつですって≫

≪その話のラスト知ってて言ってる!?≫

≪え? ……あ≫


 そんな脳内会話をしつつも、侵攻は続く。ロケットの搭載兵器によってぶっ飛ばされた怪物たちの脇をすり抜けさらに奥へ。襲い掛かる余力のあったやつには、手にもった携帯粒子砲をお見舞いする。流石の怪物たちも、宇宙船に穴を空けるエネルギー量には勝てない模様。一撃必殺、あるいは瀕死となる。こいつらは決して弱くない。まともに戦えば苦戦は必至だ。だけど本命はこいつらではないので楽させてもらいましょうねー。

 大昔のゲームのように一発一発打ち込んで敵を撃滅しながら進む。今は俺が侵略者インベーダーだが。そんな馬鹿な冗談が頭をよぎったのが悪かったのか、中ボスっぽいのが現れてしまった。


≪あ、前方におっきいのいますよ≫

≪うあっちゃー……あれはあかんわー≫


 光も届かぬこの暗闇の中、頼れるのは装甲服の機能のみ。補正を施された画像を見るに、ヒトデのような形の怪物が、穴一杯に広がっている。携帯粒子砲でどうこうできるサイズではない。ならば。


「むんっ!」


 時間がないので詠唱はできない。力任せにマナを右足にかき集める。尋常じゃない量のマナが輝き出す。本来の俺ではこの十分の一も集めることはできないだろう。しかし、今の俺は外付けスーパーモードだ。さあ、量は十分、あとは発動させるのみ!


「アァァァマァァァァ! キィィィィィィック!」


 往年のヒーローよろしく叫びをあげ、さらなる加速を得てヒトデ怪物に蹴り込む。まともな物理法則に従うなら俺がぐしゃりと潰れて終るが、これも魔法。巨大なヒトデを突き破った。

 代償は貫通時に粒子砲がもげた事と、装甲服のあっちこっちが破損したこと。


≪わぁい、姿勢制御系が40%イカレたぁ≫

≪じゃあ、こっからは自力ですねー≫

≪あのヒトデに呪いあれ!≫


 装甲服の背面に取り付けてあった武装を装備、起動。光り輝くエネルギーの剣と大楯を構える。さらにマナを装甲服に収束させる。さあ、もう新しい怪物どもが目の前だ。

 俺は空間を蹴っ飛ばしさらに加速、眼前に迫った三つ首鬼を大楯で張り飛ばし光の刃を突き立てる。蹴り飛ばして次の怪物へ、さらに次へ、次へ。文字通り蹴散らしながら、ジグザクと底を目指して突き進む。

 いくら切っても鈍ることのない刃というのは、本当にありがたい。装甲服はあっという間に怪物の体液で汚れていくが、剣と大楯は輝いたままだ。斬って、防いで、殴って、刺す。装甲服の動力で力押し、莫大なマナで力押し。技なんて使っている暇などない。パワーパワー、そしてパワーだ!

 しかしさすがに限界がある。奥に進めば進むほど、怪物の量も質も上がっていく。このままでは足が止まる。足が止ればなぶり殺しだ。もはやこれまで。

 切り札を切る。


「天に五芒ごぼう、地に六芒ろくぼう! 清き聖域ここに在り!」


 魔法の要点はマナとイメージ。イメージを確固たるものにするために、呪文がある。俺の言葉通りに五芒星と六芒星の巨大な魔法陣が上下に現れる。


「汝、破壊の権化! 滅びを撒くもの! 燃え盛る命を持つものよ!」


 再び、大量のマナをかき集める。縦穴全体から、違う世界から、そして装甲服の胸部の下に収納してあるもう一つの切り札から。二つの魔法陣の間、中心に輝きが収束していく。


「生けるマナたるの意を借りて、我は汝を召喚す! 機神、招来!」


 次の瞬間、大量の怪物たちを弾き飛ばす巨大な爆発が発生する。守られていなければ、俺も同じようにミンチになっていただろう。爆発の中心に現れた、巨大な鋼。いかなる攻撃も受け付けないといわんばかりの堅牢な装甲。あらゆるものを破壊すると宣言するかのような大量の兵装。怪物たちと負けず劣らず巨大なこれが現れて、さて連中の気分はいかほどのものか。

 まあ、どうであろうと蹴散らすだけだが。


「お待たせしました、準備万端です」


 通信で涼やかな声が聞こえてくる。いつも通りいい仕事である。返答は一つ。


「ぶっ放せー!」

「かしこまりました」


 俺が張り付いていたロケットよりも大きなミサイルが次々と放たれる。着弾、そして爆発。怪物たちが吹き飛んでいく。

 瘴気や身体の一部を飛ばして反撃する者たちがいる。しかし、見えない壁に阻まれて傷一つ負うことはない。反撃の粒子砲で次々と焼かれていく。

 接近戦を挑んだ者たちは哀れだ。全身に搭載された自動機関砲によって瞬く間にハチの巣になるのだから。

 うむ、やはりここまで温存して正解だった。最初から投入していたら物量で随分苦戦することになっただろう。……ロケットくっそ怖かったけどね! もう二度とやりたくない!


「おう……いやがったよ」


 蓋をするようにいた怪物たちが吹き飛んだ後、縦穴の奥底が見えた。そこに鎮座するのは巨大な魚だ。ただし、鱗の代わりに幾多の怪物を生やしているのをそう表現していいのであれば、だけど。だから代わりにこの言葉で表現しよう。

 魔王。


「こんなところにお前がいやがったおかげで、こちとら強制絶叫マシーン体験だったんだぞ? ガキの頃以来乗ってないってのに」

≪あ。遊園地行ってみたい≫

「今から決戦だからね! 力抜けること言わないでね! 今度みんなで行こうね!」

≪わーい! ジェットコースター!≫


 剣と盾を背面に収め、一番分厚い正面装甲の下に収めてあった物を引っこ抜く。それは粗末な短剣。あの巨大な魔王に挑むには、あまりに小さく見える。しかし、これこそ最強の武器なのだ。後は俺が使いこなせるかどうかの問題。


「さあ……魔王退治だ! 目標、定時帰宅!」


 俺は洞屋景うろやけい。二十五歳。勤続一年。前職は工場作業員。趣味はゲーム。現在の職業は、勇者。

 一年前の俺は何も知らなかった。多数の世界の事、魔王の事、ゲーム仲間の正体の事。

 本来ならば、そのまま一生を過ごすはずだった。しかし、転機が訪れた。それは、良いことではなかったが……。


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