幸せについて
「幸せについて」
職業訓練校のホワイトボードに書かれた言葉は、私たちを困惑させるのに十分だった。
Quality Of Life。「QOL」と略される言葉は、日本では「生活の質」や「人生の質」と訳されており、医療や福祉の業界において欠かせないキーワードとなっている。
私たちは医療分野の医師や看護師ではなく、福祉分野の介護職員を目指している。介護職員にとって最低限の資格である「介護職員初任者研修」を取得すべく臨んだ授業で、担当講師は私たちに「幸せについて」考えることを求めた。
介護職員は介護サービスを利用する人たちの「QOL」を高める存在でなくてはならない。介護サービスを利用する人たちの「生活の質」や「人生の質」を高める為にはまず、介護職員を目指している私たちが何をもって幸せと考えるかを自覚しなければならない。
担当講師は更に「マズローの欲求階層説」を用いて、「幸せ」の答えに制限を設けた。マズロー曰く欲求とは「生理的欲求」、「安全欲求」、「所属・愛情欲求」、「承認欲求」、「自己実現欲求」の5段階。担当講師曰く「幸せ」とは生命が維持される事ではなく、安全で信頼できる状況が保証される事ではなく、人に愛され仲間に囲まれる事でもなく、自分の価値が認められる事でも無いという。
雲を掴むような難題を前に教室の窓から見た空は、梅雨空の明日は見えない遠い空。
職業訓練校の教室で、私たちは幸せについて考えていた。




