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パラドックス・メイカーズ  作者: 三角
Chapter1:矛盾の始まり
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私も戦う

 黄金の盾を打ち破った蒼也は、目の前に座り込む少女を初めてきっちりと見た。

 少し茶色に近い黒の髪。前髪が少し変わっていてちょうど人の字のように二又に分かれている。身長は百五十後半で女性としては平均的な身長だ。卵型の輪郭にやや鋭い目つきをした顔つきは、彼女の心の矛盾を表しているかのように思える。

 蒼也にはその矛盾は脆く、淡く、儚く、そしてとても美しく、愛おしく思えた。

 なぜかはわからない。ただ、その矛盾が解消された時、少女はどう笑うのか。少し、ほんの少しだけだが、興味が湧いた。


『……バカなこと考えてる場合じゃないな』


 蒼也は自身に湧いた不思議な感情をすぐに忘れると、座り込む少女、紅音に手を差し伸べた。


「手を貸すよ」

「ありがとう」


 紅音は蒼也の手を借りて立ち上がると、いまだ頭痛の治らない頭に手を当てながら礼を言った。

 そのあとで紅音は蒼也が傷だらけであることに気づく。原因は間違いなく紅音の盾から発せられていた雷だ。暴走による無意識な攻撃とはいえ傷つけたことは事実。そう考え、責任を感じた紅音は蒼也に謝る。


「……ごめんなさい。私のせいであなたを傷つけた」

「大丈夫、気にしないでいいよ」


 蒼也は笑顔で返事をしながら右手に持った万物を貫く槍(グングニル)を消す。その瞬間、蒼也の服装は禍々しい黒と青の服から元の制服に戻った。

 その瞬間、ズキッ、と蒼也の頭に軽い痛みが走る。異能力の代償、精神負担だ。


『何とか暴走を止めることには成功したけど、消耗が激しいな』


 少し、だが確実に蒼也は焦っていた。万物を貫く槍(グングニル)はいわば蒼也の切り札。もちろん体力の消耗量も他の技とは比べ物にならない。


『今の僕に化け猫を倒すことができるのか……いや、迷っていても仕方がない』


 蒼也は化け猫を倒す決心を固めると右手に爆発の槍エクスプロージョン・ランスを作り出し、空に向かって小さな爆発を放つ。すると蒼也から見て十一時の方向に五十メートル先の地点に光の柱が立った。もちろん化け猫の位置を示す輝明からの合図だ。

 蒼也は化け猫の居場所を確認すると紅音に向けて言う。


「盾宮さんはここで待っていてくれ。詳しいことは化け猫を倒したあと全部説明するから」

「いやよ、私も戦う」


 紅音の言葉に蒼也は驚く。好きこのんであんな化け物と戦おうなんて誰が予測できるだろうか。蒼也は真面目な口調で紅音の説得を始めた。これ以上危険な目には合わせるわけにはいかないからだ。


「……いいかい盾宮さん、君の友人は死んでないんだ。この世界から出ればあとで会える。だからあの化け猫に復讐する意味はないんだよ。わざわざ自分から危険な目に会いに行く必要はない」


 蒼也は別に紅音を足手まといだと言っているわけではない、ただ純粋に紅音の身を案じているのだ。

 しかし紅音は蒼也の考えを知った上で言う。


「あるわよ。復讐じゃないけど、あいつを倒す意味ならね」

「どんな意味があるんだい?」


 紅音は合図のあった地点に向かって歩き出し、蒼也から紅音の顔が見えない位置まで移動すると立ち止まった。

 紅音は深呼吸すると少し振り向くと小さな声で呟いた。


「……恩返し」

「え?」

「何でもない……ただの退屈しのぎよ」


 紅音はぷいと前を向くと化け猫の元へと走り出した。続いて蒼也も走りながらその背中を見て頭を掻きながら言った。


「君の思考回路は理解しがたいよ」


 そうつぶやく蒼也の顔は少し笑っていた。困ったように微笑んでいた。


 紅音が合図の地点につくと化け猫は寝癖全開の少年、輝明とすでに戦闘を始めていた。

 しかし輝明は武器も持たずに回避を続けるのみで一定の距離をとりながら猫を見失なわないようにしているようだ。蒼也が来るまでの時間稼ぎだろうと紅音は判断する。


『つかず離れずであの化け猫と一定の距離を保ってる。なるほど、相手を視認することさえできていれば音が無くとも見失うことはないってことね』


 輝明は紅音の存在に気が付くとニッと無邪気な笑みを見せる。そして化け猫に視線を戻すと大きく息を吸いこみ叫ぶ。


「来い!勇気の弓(ブレイブ・シューター)!!!」


 輝明の右手に百八十センチは下らない白い大きなの洋弓が現れる。


「きれい……」


 純白の洋弓は穢れを知らない無垢な輝きを放つ。そのあまりの純粋さに紅音は無意識に言葉を発していた。

 その姿はまさしく聖弓。

 輝明は左手に矢を作り出し、弦に当てるとゆっくりと引き絞る。猛スピードで突進してくる化け猫に向けて弓を構える。そして悪戯をする前の子供ように、無邪気に歪んだ笑顔をしながら言った。


「吹っ飛べ」


 その言葉を合図に、純白の矢は放たれた。放たれた矢は猛スピードで吸い込まれるように猫の眉間に命中する。


「ガァァァ……アァァァァアッ!!!!」

「お、こんなに綺麗に当ったのは久々だな~」

『……まぐれ当りだったのね』


 輝明は陽気に口笛を吹きながら右手の勇気の弓(ブレイブ・シューター)を消す。

 紅音は感動を返せと言わんばかりに輝明を睨んでみるが、いつまでも視線に気が付かないので直ぐにめんどくさくなって睨むのをやめた。


「追いついた」


 蒼也が二人に追いつくと重症を負う化け猫の様子を見て安堵の溜息をもらす。なんとかなりそうだ、と心中で呟くとすぐに表情を引き締める。


「長期戦は僕と盾宮さんが持たない。ここで一気に仕留めよう。僕と輝明で一気に攻め込む。盾宮さんは後方支援お願い。あとくれぐれもあの《黄金の盾》は使わないように」

「……あれ、キミも戦うの?」

「分かってる」

「……あれ、無視する感じなの?」


 寂しそうに笑う輝明にさすがに同情したのか、紅音はため息まじりに自己紹介をする。


「盾宮紅音。苗字でも名前でもフルネームでも自由に呼んで」

「そっか、俺の名前は日光(にっこう)輝明(てるあき)。よろしく、紅音さん」

「よろしく」


 紅音は適当に返事をしながら手を開いたり閉じたりして何かを確認したあと、小さなため息を漏らす。


『黄金の盾……本当は使おうと思ったけど、なぜか使い方がわからなくなった。幸いあの《六角形の盾》の使い方は分かる。仕方ない……ここは大人しく矛峰の言うことに従うしかないわね』


 蒼也は紅音と輝明を一瞥すると少し低い声で二人に呼びかける。


「準備はいいね?」

「おう!」

「ええ」


 蒼也の言葉に紅音と輝明はうなずき、三人同時に右手を前に突き出す。


「ガアアアア!!」


 化け猫の怒号を合図に三人は同時に自分の武器を呼び出す。魂の形を具現化させる。


「来い!爆発の槍エクスプロージョン・ランス!」

「来い!勇気の剣(ブレイブ・ハート)!」

「来て!私の盾!!」


 周囲の空気が震え、鋭さを帯びる。

 現れたのは赤い炎を放つ槍。

 具現化したのは白い輝きを持つ剣。

 発現したのは六つの青い六角形の盾。


「決着をつけてやる……」


 紅音は真っ直ぐ化け猫を見据える。

 倒すべき敵を見据える。

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