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パラドックス・メイカーズ  作者: 三角
Chapter1:矛盾の始まり
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やっと届いた

「……?」


 私はズキズキと痛む頭を抑えながら、ずっと目の前の男の子を見ていた。

 何故彼は自分を攻撃するのか、なぜ自分は苦しんでいるのか、ナゼ恵美は死んだのか。なにも理解ができず、ただただ彼の存在を拒んだ。

 いや、本当は全部理解していた。

 恵美が死んだのは自分の非力さのせい。

 私が苦しんでいるのは恵美を失ったから。

 彼が自分を攻撃しているのは、私を助けるため。

 理解していながら、理解できない事にした。もう考えるのもしんどい。生きる事が辛い。


 大切な何かを失うのが怖い。


 だったら最初から繋がりなんてなければいい。目の前にあるのなら、なかった事にすればいい。

 そう思っていたのに、声が聞こえた。聞こえないはずの声が届いた。


『少し辛いかもしれないけど、我慢してくれ。すぐに助けるから』


 暖かい声だった。冷たいプラスチック製の物ではない。聞こえないはずの、確かな人の暖かさ()を感じられる声が私には聞こえた。

 その時私は気がついてしまった。確信があった。

 きっと、あの人と繋がれたら退屈を忘れることが、孤独を忘れることができる。

 だって、こんなにも誰かの事を思える人なのだから。

 でも、どうして? なぜ? 彼は偽りの笑顔で人と接するの?

 理由は、きっと私と同じ。人と接するのが怖いんだ。

 誰かを失うのが怖いんだ。


 きっと、大切な誰かを失った事があるんだ。


 最初に抱いた嫌悪感の理由がわかった。これはただの同族嫌悪。自分を見ているようで腹が立っただけ。彼の中の私を見て目を背けたくなっただけ。

 だけど、今は違う。

 きっと彼は私を、私の世界から連れ出してくれる。私を覆う殻を壊してくれる。

 彼には恐怖に打ち勝ち、人と接する勇気がある。私にはない、ひどく眩しい力がある。

 この盾を通じて、彼の心が伝わってくる。確かに、私たちの心は繋がってる。そんな気がする。

 どこからか、何かが割れる音がする。どこからだろうか?

 気がつけば、目の前の盾にヒビが入っていた。


 いやだ。まだ、外には出たくない。


 確かに、あの男の子は、きっと私の殻を壊してくれる。

 だけど、また彼を失ったら? 恵美のようにいなくなってしまったら?

 きっと、もう立ち直れない。私は私を見失う。


『大丈夫』


 どうしてそう言えるの?

 恵美はもういないんだよ。どこにもいないんだよ。そんな世界、生きる意味なんてないじゃないか。


『お友達……恵美さんは生きてる。この異常な空間から元の世界に戻っただけだよ。だから頑張って生きようよ』


 ほんとに?

 よかった、本当によかった……。

 でも、だからって外には出たくない。

 こんなにもつらい思いをこれから何度も、何度も、何度も、何度も、何度も。


 何度も繰り返す。


 そんな悲しみ、私には耐えられない。


『……そう言われると返事のしようがない。けど、少なくても今は大丈夫』


 どうして?


『だってさ、───』


 目の前の黄金の盾に亀裂が走る。光が漏れ出す。それはきっと、希望の光。純粋にそう思えた。

 痛みを訴え続ける頭。鉛のような体。沈んだ心。

 そんなもの、全て吹き飛んだ。


 バキン!!


 ガラスが割れたような大きな音が空気を震わせる。私の周囲にあった透明な壁が崩れ去る。

 少年は私の盾を壊して、目の前に現れた。


「僕は今、ここにいる。今、君のそばに居てあげられる。未来(明日)のことなんか知らないけど、僕らは未来(明日)に生きてるわけじゃないから」


 少年は身体中を傷だらけにしながら、痛みを忘れたようにそっと私に微笑みかける。


「名前、聞かせてもらってもいいかな?」


 少年はそう言うと私に手を差し伸べる。

 私は反射的に手を伸ばそうとしてその手を止めた。少し、躊躇った。その手に触れることを。

 私は伸ばそうとした手を引っ込めようとした。

 引っ込めようとして、やめた。手を伸ばすことにした。


「私の名前はね、盾宮紅音。あなたは?」

「僕の名前は、矛峰蒼也」


 もう一度だけ、目の前の希望にすがってみよう。

 過去に囚われるのではなく、明日に絶望するのではなく、


 今日を生きてみよう。


 すぐに上手くはいかないだろう。きっと何度も挫けるだろう。だけど、それでいいんだ。

 向こう見ずでも、先送りと言われてもかまわない。今は自分と、自分にできた繋がりを信じてみよう。

 ボロボロになりながらも私の元までやってきた少年、矛峰蒼也はひとつ小さな溜息をつくと、満足げに言う。


「やっと届いたよ。君の心に」


 差しのべられた手に触れると、少し冷たく、だけど確かに人の温度を感じられた。



今回の話は所々に短編『痛みを感じない少年』と『突然死んだ少女』のセルフパロディが盛り込まれています。

探してみるとより楽しめるかもしれません。

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