5/49
生還者は孤独を歌う
少女は退屈を知らなかった。
父と母と共に幸せな生活を過ごすどこにでもいる普通の女の子。
少女自身もその事を無自覚ながらも理解していた。
恐らくは普通の学校に進学し、普通の会社に勤め、普通の出会いをし、普通に結婚して、普通に子供を産んで、普通に死ぬ。
それが自分の人生で、変わらない日常の幸せに気がつく事なく、幸せに一生を終えるのだと思っていた。
しかし、幸せだったはずの少女の人生は、とある出来事で一変する。
少女は、家族と行った海外旅行でテロに巻き込まれたのだ。
荒れ狂う人の悲鳴、鼓膜を破くような銃声、空間を支配する鉄の香り。
血液の匂い。
何百という死傷者が出る大事件として新聞やテレビ、ニュースで取り上げられ、後にこの事件は《血の海》と呼ばれた。
そして、運良く少女は地獄から生還した。
いや、生還してしまったと言った方が正しいかもしれない。家族と言う繋がりの失い、ただ一人この世界に留まってしまったのだ。
世界に取り残された少女は、幸福を忘れ、退屈を知り、希望を見失った。
そんな少女は、今日もいつものように歌う。
「……退屈ね」
諦めたように、孤独を歌う。




