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パラドックス・メイカーズ  作者: 三角
Chapter4:緋線の剣闘士
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第二世界の英雄

 蒼也と輝明が去った後、生徒会室に残った恵美と紅音は来客用の椅子に腰掛けていた。「なぜ椅子が人数分用意されているのに立ち話をしているのか」と、今まで会話に入ることなく、ゲームに熱中していた男子生徒、大島昭文のもっともな指摘を受けたからである。


「昭文、アンタどうして話に入らないのよ」


 呆れ顔を見せる沙良に、昭文は変わらずゲームを続けながら応える。


「説得が通じる相手じゃない……特に日光は無理だろ」

「日光? あぁ、《勇者》の苗字ね。でも意外ね。私は《槍兵》の方が無理そうだと話した感触では思ったけど、どうして《勇者》の方が無理だと思ったの?」

「理由話すのめんどくさいんだけど……」

「いいから話しなさいよ」

「それ、私も聞きたい」


 沙良に続いて、意外にも紅音が食いつき、昭文は前髪で隠れた目を丸くする。


「盾宮、だったかな。舞草の時もそうだが、あんた随分と人に執着するな」

「悪い?」


 まるで飢えた狼のように噛み付く紅音だが、昭文は変わらず気の抜けた態度で続けた。


「いや、そうじゃない。盾の矛盾を使う矛盾者は人との干渉を拒む奴が多くてな。意外だっただけだ。気を悪くさせたなら謝る」

「……あぁ、そう」


 ゲーム画面から目を離すことなく話し続ける昭文を、紅音は子供が見れば泣きわめくような鋭い目つきで睨みつける。

 沙良、千佳、緋色は表面上はポーカーフェイスを保ちつつも、心中は完全に気圧されていた。


『怖! え、怖! 母さんより怖い人初めてだわ!』

『まるで鬼のような形相ですわね……この方を怒らせるのだけはやめておきましょう』

『……少なくとも現実世界では勝てる気がしない。昭文はよく平気でいられるな』


 しかし他の生徒会メンバーが気圧される中、昭文だけは変わらずゲームを続ける。昭文の心中は全てがゲームへと注がれているため、紅音に怖気付くことは決してないのだ。


『やべぇ…………ちびりそう』


 …………そんなことはなかった。むしろ誰よりもビビっていた。

 生徒会メンバー達は蒼也や輝明が持つ《矛盾者の殺意》には慣れているが、一般の人が放つ『純粋な怒り』には全く抵抗力がないのだった。元々張りつめていた緊張の糸が切れてしまえば彼らもただの学生なのだ。

 紅音の迫力に完全敗北した昭文は、変わらずゲームをしながら話を始めた。


「日光の行動には理由がシンプルで簡単だ。故に反論ができない」

輝明(アホ)のことは聞いてないわ。蒼也のことを教えて」


 女は怖い。昭文は日頃から沙良と千佳の喧嘩を見ていて思っていたが、改めて確信した。

 それはともかく、紅音の機嫌をさらに損ねる前に昭文は質問に答えた。


「シンプルに考える日光に対して、矛峰は理屈で行動をしている。嫌なことをする時は、自分を納得させるために理屈をこねくり回すタイプだ」

「……」


 心当たりがあるのか、紅音は口を挟むことなく話を聞き続ける。


「そういう奴は心が諸刃だ。誰よりも鋭い覚悟を持つが、代わりに自分も傷つける。だから傷つかない道を諭せばどうにかなる……こともある」

「……なるほどね」


 紅音はケンジとの戦いで、《繋がりの盾《アイギス》》を発動した時のことを思い出す。《繋がりの盾《アイギス》》で心を繋げた時に感じた、蒼也の歪み……恐らくそれが『心を曲げる理屈』なのだろう。

 沙良は、寡黙な昭文が普段と打って変わって喋り続けたことに笑みをこぼす。


「アンタそんなに喋るキャラだった?」

沙良(バカ)千佳(アホ)がうるさいから声が聞こえないだけだ」

「「殺す!!」」

「あっ、ちょっ、せめてセーブしてからにして────!!」


 抵抗虚しく、昭文は問答無用で物理攻撃を二発食らう。腰の入ったいいパンチだ。指定暴力団東高生徒会とはよく言ったものだ。昭文はそんなことを考えながら、頬に伝わる床の冷たさに涙した。


「バイオレンスだね〜」

「すまない。普段はここまでひどくは無いのだが……やはり《頂きの十人》と会えば、矛盾者なら嫌でも気が張るというものだ。どうか気にしないでほしい」

「…………ま、私はなんでもいいけど」


 言葉とは裏腹にうるさいのは苦手だ、と紅音の顔に書いているが、ここは気遣いに甘えることにする。


「ところで一つ聞きたいことがあるんだけど〜?」

「なにかな、舞草さん」

「あなた達の願いの内容を、教えてもらってもいいかな?」

「構わないが……そうだな……」


 緋色は少し考え込んだ後、一つの提案をした。


「ここで話すよりも、直接会った方が俺の願いは分かりやすいだろう。また移動することになるが、構わないだろうか?」

「もちろん」

「ありがとう」


 他のメンバーも同行することとなり、六人は東高を後にした。

 向かう先は『戸神中央病院』。緋色の姉が入院する病院だった。



 ◆ ◆ ◆



 矛盾世界の東高校舎。

 普段は生徒達で賑わうこの学校も、こちら側は静寂に包まれている。

 二人の《頂き》がぶつかる、ただ一箇所を除いて。


「ハァ!!」

「キャシャアァアァ……ッ!?」


 身長二メートル程の二足歩行をしたトカゲが、鮮血を撒き散らしながら地に伏せる。しばらくするとトカゲは実態を失い、煙のように消えていった。


「雑魚をいくら呼び出したって俺には勝てねぇぜ」


 輝明は《勇気の剣(ブレイブ・ハート)》を軽く払い、刀身に付着していた返り血を払う。

 対して、呼び出した魔物を五分足らずで屠られた鈴菜はしかし、余裕の表情を見せていた。


「うん、そうだろうね。私だって本当は負けると分かっていて呼び出したくはなかったんだけど、どうしても時間が必要だったの」

「……へぇ」


 呟き、輝明は周囲に意識を向ける。ここは三階の廊下で、右手側の窓、その外には校舎に囲まれた中庭がある。左手側には教室が四つ並んでいて、輝明と鈴菜はそのちょうど中心あたり位置する。

 増援の気配なし。となると時間稼ぎは大技のためか。

 鈴菜の余裕の表情から察するに、すでに止めることは叶わないだろう。


「来い。お前の切り札見せてみろ」

「もちろん、言われなくともそのつもりだよ」


 微笑み、同時に魔法陣が展開する。

 鈴菜の目の前に書かれた魔法陣は、黒い光を放ちながら、広がり始める。

 ちょうど、高さが輝明と同じくらいになった所で、中から何かが弾丸のような速さで飛び出してきた。


「……なっ!?」


 不意を突かれ、輝明は飛び出してきた何かに横から叩きつけられ、窓を砕いて中庭へと落ちる。


『辛うじてガードは間に合ったが、今のはなんだ? 熱い何かが伸びて、俺を叩きつけた……いや、切ろうとしたのか?』


 落ちながらも思考を止めず、輝明は即座に《勇気の剣(ブレイブ・ハート)》を消して《勇気の弓(ブレイブ・シューター)》を構え、攻撃に移る。


「《白線矢(ホワイト・ライン)》!!」


 光を収束させ、一本の矢として放つ。速度は弾丸を超え、一条の光となって鈴菜を襲う。

 しかし、《白線矢(ホワイト・ライン)》は校舎を破壊するも、光る刀のような何かで退けられ、鈴菜には届かない。

 着地した輝明は、再び《勇気の剣(ブレイブ・ハート)》を手に取る。

 校舎が壊れた時の埃で相手の姿は見えないが、輝明は直感で《勇気の弓(ブレイブ・シューター)》は役に立たないだろうと判断する。遠距離攻撃が無かったから付け焼き刃的に習得した物で、あまり練度が高くないのだ。

 おそらく召喚されたのは高い練度の戦士。ならば最も自信のある武器で正面から打ち倒す。


「なんだ、もう終わりか?」


 声が聞こえた。埃で姿は見えないが、鈴菜の声ではない。低い、男の声だ。

 どこかで聞き覚えがある。しかし違和感を強く感じる声だった。


「不意打ちとは卑怯じゃないか」


 輝明の挑発的に発した言葉を、男はしかしつまらなさそうに応える。


「考えが青いな。戦いに卑怯も何もない。勝利に必要なら何をしてもいい。それが戦いだ」


 男はそう言いながら、立ち昇る埃から姿を見せた。

 その男の姿に、輝明は目を見開いて驚愕する。


「な……、お前、は…………っ!?」


 黒いコート、赤いブーツ、左手に巻かれた包帯、そして腰に帯びた剣。まるでファンタジー世界の傭兵や盗賊、あるいは軽戦士とでも言えるような服装だった。

 だが、問題はそこでは無い。

 男というにはまだ若い、その青年の顔立ちは、輝明にとって誰よりも知る顔立ちだった。

 無造作にはねた髪、長いまつげ、人より少し幼い印象の顔立ち。

 間違いようが無い。この異邦の剣士は他人では無い。誰よりも輝明自身が知る人物だった。

 しかし、それでも輝明はこう質問するしか無かった。


「お前は……誰だ……?」


 対して、青年は嗤う。勇者を騙る、愚かで幼い合わせ鏡に向かって。


「《太陽の咎人》にして《第二世界の四英雄》……テル・フクシア。言うなれば、異世界のお前だ」

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