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パラドックス・メイカーズ  作者: 三角
chapter3:黒薔薇の王女
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勝利へと導かれる力

「デタラメすぎる……」


 輝明の持つ純白の剣、《悪を挫く正義の剣(オーバー・ブレイブ)》の属性は《絶対勝利属性・悪》。どんな強敵も《悪》の属性さえ持っていれば必ず勝利できる矛盾世界でも最強の部類に入る属性だった。

 恵美が持つ属性は《植物》、《王》、《魔物》、そして《悪》。この時点で恵美の敗北と輝明の勝利は決まっていた。

 輝明は《悪を挫く正義の剣(オーバー・ブレイブ)》を地面に突き立てるとさらに追加で矛盾(パラドックス)の生成を始めた。


「纏え! 《白き黄昏ホワイト・トワイライト》」


 剣と同じ純白の外套(がいとう)を生成した輝明は《悪を挫く正義の剣(オーバー・ブレイブ)》を引き抜くと、黒薔薇の塔の頂上に立つ恵美へと剣先を向けて言った。


「《絶対属性》はどんなに属性看破能力が低くても必ず分かる。恵美には俺の剣がどんな属性を持っているか分かっているはずだ。悪の属性を持つ恵美は俺に絶対敵わない」

「それが……どうしたの……っ! それでもやらなきゃいけないことが…………ッ」


 恵美の瞳には強い光が宿っていた。暴走で歪んでしまった心の中でも輝く光。それは紅音への思いだ。

 絶対に負ける事がわかっていても、それでも曲げられないものが恵美にもある。


『必ず、こうちゃんを守るんだ……!』


 激痛で頭を抱える恵美に輝明はさらに続けた。


「紅音を解放して、能力を解いてくれ」

「そんな事したら、輝明くんが……こうちゃんを殺すでしょ……」


 そういえばそんなこと言ってしまった、と輝明は後悔で頭を抱える。


「あ〜……すまん。お前の意識を亀から遠ざけるために嘘をついてたんだ」

「しんじ……られないよ。私、まだ輝明くんの事、よくわかんないよ…………痛い、頭が痛いよ……」


 この数日間で信用を得られる努力をしていれば、こんな事にはならなかったのだろうか。輝明はそんな思考を脳裏によぎらせる。

 しかし今は後悔をしている場合ではない。今するべきことは恵美を止めること。そのために全力を尽くすことだ。


「────そうだよな。ごめん。これからもっと痛い目に合わせるだろうから、先に謝っとく」


 でも、と小さく呟きながら輝明は《悪を挫く正義の剣(オーバー・ブレイブ)》を構えた。


「絶対にお前を救ってみせるから」

「────っ! こないでッ!!」


 瞬間、数十にものぼる黒薔薇の鞭が輝明めがけて襲いかかる。

 しかし、輝明はそれらを一振りで軽くなぎ払ってしまう。


「この程度の強度なら、刃に当てる必要もねぇ。振るうだけで十分だ」

「っ! これなら!」


 地面から輝明の足を掴むように黒薔薇の鞭を生成するが、今度は高くジャンプすることで回避する。その状況は、先ほどの輝明を空中に誘い出した状況と酷似していた。


「二度も同じ手に引っかかっちゃ、ダメだよ!!」


 今度も空中で身動きを取れない輝明に向かって黒薔薇の鞭を伸ばす。

 さらに、先ほどと違い今回は鞭の数が桁違いだった。百を軽く超える数の黒薔薇の鞭を伸ばし、完全に輝明を倒すための一撃を放つ。

 しかし、そんな圧倒的不利な状況でも輝明は笑って見せた。


「お前こそ、同じ手を二度使うのは愚策だぞ」


 輝明の髪が一瞬だけ金色に染まり、瞳の色も一瞬赤く変色する。

 一瞬の変化に恵美は気がついたものの、すでにそれに対して何かを考える余裕はなくなっていた。


超克(オーバー)───、」


 輝明の言葉に反応し、《悪を挫く正義の剣(オーバー・ブレイブ)》が白い輝きを放つ。

 そして次の瞬間、輝明の体はピタッと空中で静止した。

 しかもそれだけではない。そのまま姿勢を変え、さらに高く舞い上がったのだ。


「《架空の翼(エアリアル・ウイング)》!」

「空中を、飛んだ!?」


 輝明は空中を飛ぶことはできない。だと言うのにいとも簡単に輝明は空中を自在に飛び始めた。


「新しい属性が付加されてる。でもいつの間に?」


 紅音の目には輝明に《飛翔》の属性が付加されているのがハッキリと見えていた。

 しかし、なぜ突然飛べるようになったのか────その答えを紅音が導き出す前に恵美は攻撃を始める。


「関係ない! 打ち落すだけだよ!!」

「できるなら、やってみろよ」


 百を超える蔦は輝明に目掛けて襲いかかる。


「うおおぉぉぉぉぉ!!」


 しかし輝明は襲いくる蔦を目にも留まらぬ速さで斬り刻んでいく。


『────輝明くんが高い位置にいるから蔦の攻撃が一点集中になってしまってる……それなら!!』


 恵美は伸び上がる蔦を枝分かれさせ、全方位から輝明を攻撃しようとする。他方向から攻めることで迎撃しきれないようにするつもりだ。


「そっちがその気なら、直接本体を狙う!」


 輝明は襲いくる蔦を回避しながら塔の頂点にいる恵美に向かって飛んだ。スピードは蔦よりも輝明の方が速く、当然蔦は追いつくことはできない。


「塔の防御を減らしても、ここは輝明くんを叩く!!」


 塔を形成してる最も硬く太い蔦を数本解き、恵美は輝明を迎撃する準備を整える。


『輝明くんの《栄光ある王の剣(エクスカリバー)》でさえ傷一つ付けられなかった硬い蔦なら、防御も迎撃もできる!』


 この黒薔薇は恵美に近ければ近いほど硬く、太く、そして速く、強い力を持つ。

 つまり、この漆黒の塔は最高レベルの蔦で構成されているということだ。


「はああぁぁぁぁ!!」


 向かってくる輝明に向かって塔から数本の漆黒の蔦で攻撃を仕掛ける。

 先ほどまでの細い蔦とは比べ物にならない速度と硬度の蔦は、飛行する輝明を叩きおとそうと蔦を振り下ろす。


「らぁ!」


 対して、輝明も《悪を挫く正義の剣(オーバー・ブレイブ)》で漆黒の蔦を切りつける。

 《悪を挫く正義の剣(オーバー・ブレイブ)》と漆黒の蔦は激しい火花を散らして拮抗する。

 続けて剣と蔦は数度に渡り激しくぶつかり合う。


「硬えな……だったら────《超克(オーバー)》、《断絶の刃影(スラッシュ・シャドウ)》!」


 輝明の再び瞳と髪の色が一瞬変化した。

 その瞬間、純白の剣は刃の根元から影が伸びた。影を纏った刃は背筋がゾッとするような殺気を放つ。

 恵美は一瞬だけ殺気で動きを止めるが、すぐに歯をギチリと食いしばる。


「どんな小細工でも、吹き飛ばすだけだよ!!」


 新たに数本漆黒の塔から蔦を伸ばし、コンクリートも易々と砕くような勢いで蔦は輝明を襲う。

 しかし、蔦が輝明に届く事はなかった。


「な……んで、そんな……」


 数瞬の後、蔦は全てバラバラになっていた。

 刃が触れた場所から蔦はいとも簡単に切断されていたからだ。

 鋼よりも硬い蔦がいともたやすく、紙のようにパラパラと落ちていく。


「あれは、ケンジが使ってた《剣の従者(ソード・スクワィア)》と同じ《絶対切断能力》!?」


 紅音は《悪を挫く正義の剣(オーバー・ブレイブ)》が持つ属性を以前見たことがあった。

 輝明の《絶対切断能力》はケンジと言う剣を使う矛盾者が使っていた能力と同じ能力だったのだ。


「輝明にそんな能力があるなんて聞いてない。さっきの《飛翔》の属性もそうだった……」

「分かったよ……輝明くんの《悪を挫く正義の剣(オーバー・ブレイブ)》の能力が……」


 恵美は割れるように痛む頭を押さえながら、驚愕の表情で言った。


「《悪》に勝つための能力に覚醒する能力。だから《絶対勝利属性・悪》ってことだね……」


 属性とは事象があって付加されるものだ。

 例えば炎を作れる矛盾者がいるとしよう。

 その矛盾者により作られた炎は当然燃えているから炎属性を持っている。

 炎属性だから燃えているのではない。燃えているから炎属性なのだ。属性には必ず付加される原因となる事象が存在する。

 今回もそれと同じ。

 《絶対勝利属性・悪》を持つから勝利できるのではない。悪に必ず勝つから《絶対勝利属性・悪》なのだ。


「……まさか俺が《お前(ケンジ)》と同じ能力を手に入れるなんてな」

「輝明……?」


 輝明はポツリと呟いた後、すぐさま恵美に向かって空を駆けた。

 恵美は塔を形作っていた黒薔薇のほとんどを集結させて輝明を攻撃するが、その全てが斬り伏せられていく。


「……っ!!」

「ようやく、辿り着いた……!」


 恵美の目の前で一度動きを止めると輝明は黒薔薇の塔の屋上をを輪切りに切断する。恵美は屋上が切断されたことで浮き上がったため、バランスを崩しその場に倒れこんだ。


「きゃっ……!」

「ちょっと待ってろよ……紅音!」

「分かったわ。来て、《繋がりの盾(アイギス)》!!」


 輝明は紅音が《繋がりの盾(アイギス)》を生成した事を確認すると恵美を抱きかかえ、切った屋上を蹴り飛ばして紅音が落ちた穴へ落ちていった。


「紅音ぇ! 恵美を頼む!!」

「ナイスよ輝明! あとは任せなさい!」


 相当嬉しかったのか、珍しく親指を立てる紅音に輝明も笑って応える。

 その紅音の嬉しそうな表情を、恵美はくらむ視界の中で捉えた。


『どうして……こうちゃんは怖く無いの……? 私は、怖いよ……』


 目を閉じて涙を零す恵美。恐怖に心を脅かされた恵美の心はすでに疲弊しきっていた。

 そして、紅音もまた涙を流す恵美の表情を見た。

 恵美の辛そうな表情を見て、紅音の心は針が刺さった様に痛む。

 紅音は困ったように微笑むと、《繋がりの盾(アイギス)》に手を添えた。


『分かってるよ、《繋がりの盾(アイギス)》。恵美の思い全部受け止めて、私の思いも伝える……でも、それだけじゃないよね』


 《繋がりの盾(アイギス)》に集中させた紅音は紅音と恵美、そして()()の心を繋ぎ始めた。


「心を繋いで、《繋がりの盾(アイギス)》!」


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