それぞれの理由
後から店に入ってきた輝明を含め、全員が戸神牛ラーメンを頼んでテーブルに座っていた。
テーブルは四人席で、輝明と蒼也、紅音と恵美がそれぞれ隣に座り、向き合う形で座っている。
「スープは戸神牛骨と塩のオリジナル白湯スープだって〜。楽しみだね〜」
「そうだね。少し値段が高いけどその分期待できそうだ」
「苦労して石油を掘り当てただけはあるわね」
「その設定まだ生きてたのかよ」
輝明は適当につぶやくと、水を飲もうとコップを右手で掴んだ。その瞬間僅かに右腕から痛みを感じ、眉をピクリとさせるがなにもなかったかのようにコップを持ち上げる。
その様子を見ていた紅音はチラリと、問いかけるような視線を輝明に向ける。
しかし輝明は紅音の視線には応えずそのままコップの水を飲み干した。
「悪い、水とってくれねぇか?」
「……ま、答える気がないならいいけど」
なにもなかったかのように話す輝明に紅音もそれ以上の追求はしなかった。
輝明は飲み干したコップに水を入れながら言った。
「で、だ。蒼也、突然真面目な話になるが恵美さんの矛盾の予測はできたのか?」
「いくつかはね」
「その予測、聞かせてくれ。対策や情報の交換は早くに済ませたほうがいい。いつ矛盾獣が来るかわからねぇからな」
「そうだね」
蒼也は頷くと右手で四本の指を立てると、話を始める。
「僕が思いついたのは四つ。一つは本を扱う矛盾。二つ目は花の矛盾。三つ目は小説の中のキャラクターの矛盾。四つ目は小説の世界を作り出す矛盾」
「どうしてそう思った?」
「矛盾は欲望を形にした異能だ。好きなものや身近なものが能力の基礎になる可能性が高い、と僕は推測してる」
「なるほど。恵美さんは……って今更だけど恵美さんだけさん付けってのもなんだか変だし、呼び捨てでいいかな?」
「うん。むしろ呼び捨ての方が嬉しいかな〜、なんて〜」
少し頬を染めながら笑う恵美に輝明もニッと笑いかけてから続ける。
「よかった。それじゃあ話を戻すけど、恵美は自分が手に入れるならどんな力だと思う?」
「う〜ん……難しい質問だね〜。参考までに三人の力……矛盾だっけ? そのルーツを聞きたいかな〜」
「なるほど、それもそうだな」
輝明はふむ、と頭に手を当てながら頭の整理をしながら話を続けた。
「俺の矛盾は《勇者》。能力は勇者の矛盾だ。《変革》した時望んだのは戦う力だった……目の前の敵を倒す力が欲しかった。そして、その力で勇者のような仲間の希望になりたかった」
「そっか……戦う、力。蒼也くんは?」
「僕の望んだモノか……」
遠い昔を思い出すようにコップの底を覗き込む蒼也は、水面に写る自分の姿を見つめながら言った。
「僕が望んだのは、矛盾した理不尽な世界に抗う力だよ。そのための武器が欲しかった。どんな理不尽もふっ飛ばす、最強の武器が」
「なるほど、最強の武器……。それじゃあ、こうちゃんは?」
紅音は少し照れ臭そうに頬を染めながら小さな声で言った。
「私は、ただ守りたかった。私の繋がりを……恵美を守りたかった」
「……ありがと、こうちゃん」
恵美は純粋な好意と感謝の眼差しで紅音へ感謝を述べる。
そんな恵美を見て、紅音は照れくさくなったのか顔を真っ赤にして顔を伏せた。
「…………別に、感謝されるようなことじゃないわ。好きでやってるだけよ」
小さな声で呟く紅音を三人が三様の笑い方をしながら見つめる。
恵美は『あぁ、やっぱりこうちゃんは優しいな〜。あと赤面こうちゃんはかわいい絶対正義』と嬉しそうに。
蒼也は『素直になれない人だな……そこもまぁ、彼女の魅力なのかもしれないけど』と呆れ半分に。
輝明は『おもしれぇ性格してんな〜。紅音と蒼也の関係が今後どうなって行くのか……見ものだぜ』と楽しそうに。
「戸神牛ラーメン四人前お持ちいたしましたー」
顔を伏せる赤面少女を三人が見つめる謎の状況を崩したのは店員が運んできた戸神牛ラーメンだった。
顔を上げるタイミングを見計らっていた紅音は、ばっと勢いよく顔を上げてさっさと話を変え始めた。
「美味しそうね。お皿がラーメンとお肉で別れているけど、これは?」
「はい。まずは薬味を入れずそのままお食べください。そのあと、薬味を時計回りに入れて味の変化をお楽しみください」
「分かりました。ありがとうございます」
店員と会話をすることで無理やり流れを変えた紅音は、再びごほん、とわざとらしく咳をすると話を続ける。
「で、めぐ。改めて聞くけど私たちの矛盾のルーツを聞いて自分ならどんな矛盾が発現すると思った?」
「う、う〜ん……夢に出た女の子が『私は、あなたが手にする力よ』、『私はあなたよ』って言ってたの。だから、その子が私の矛盾に関係があると思う。きっとその女の子に変身できる力かな?」
恵美の推測に蒼也も頷くと言った。
「僕も恵美さんの推測が正しいと思う。おそらく変身系の矛盾だろうけど、肝心の能力の内容がわからないんだよね」
「たしかにそうだな……恵美、心当たりは?」
「ん〜、それがその子の姿が思い出せなくて……。夢を見たのが四月の初めの方だから、内容をほとんど忘れちゃって……さっき言った二つの言葉はなんだか妙に記憶に残ってるんだけど……」
「しかたがないわ。夢の内容なんて、すぐに忘れてしまうものよ」
「手詰まり……かな」
蒼也は顎に手を当ててしばらく考え込んでから小さく溜息をすると切り替えるように言った。
「実際に恵美さんが《変革》するまで分からないし、悩んでてもしかたがない。とにかく今は伸びる前にラーメンを食べよう」
「そうね。せっかくの戸神牛ラーメン、しっかり味わいたいわ」
「こんなにうまそうなラーメンを目の前にして食べるな、なんて拷問だぜ」
「それじゃあ、いただきま〜す」
とりあえず四人は戸神牛ラーメンを食べ始めたのだった。
「お、美味しい……さすが戸神牛ね」
「肉がすげぇやらけぇ。さっきはどこでも食べれるといったけど、これはどこでも食べれるような味じゃねぇぜ」
「スープも絶妙だね〜」
その後、ラーメンを食べ終えた四人は街をぶらつきながら一日を過ごした。
それから三日後の五月五日、再び矛盾世界に矛盾獣が現れた。




