帰り道
「で、輝明はどうしてここにいるの?」
「暇つぶしに蒼也のとこ遊びに行こうと思ってさ」
「……昼間っから暇ってどういうことよ」
帰り道。
紅音のアイデアで三人で帰ることになった紅音、恵美、蒼也は輝明を交え四人で帰ることになった。
先ほどの紅音と輝明の会話を聞いた恵美は、不思議そうな表情をすると輝明に言った。
「そもそも、輝明くんはどこの高校の人なのかな? 蒼也くんとは転入前からの知り合いとしても、紅ちゃん……紅音ちゃんとはどういう関係なの?」
「ん、当然の疑問だな」
輝明はどうやって説明しようか、と頭をかきながら考えてみる。
『俺は学校通ってないし、勇者やってるって説明すればいいか。紅音さんとの関係の方は矛盾獣から助けた、なんて言っても通じないだろうし……はっ!』
そこで輝明は強烈な電撃が走ったようなショックを受けた。どうしてこんなことに気がつかないのか、と自分で自分を殴りたくなる程度には頭を抱えてしまう。
『矛盾世界を知らない人間に勇者と名乗っても通じないんじゃないか!?』
アホの極みである。
輝明は改めて自分の現実世界での身分を整理してみることにした。
『今の俺は高校行かずにフラフラしてる自宅守らない系ニート……ってことか』
ようやく自分のステータスの低さを自覚した輝明は顔を青くして固まってしまった。
そんな輝明を見かねた蒼也はフォローを入れることにした。
「始業式の日に僕と輝明が一緒にいる所を偶然紅音さんが通りかかってね。その時に紹介したんだ」
「そうだったんだ〜」
「ついでに輝明は高校には通ってないよ。とある夢を追いかけてて学校どころではないんだ」
「夢?」
首をかしげる恵美に蒼也は続けて言った。
「そう、僕も同じ夢を追っている。だから本当は僕も高校に行く気は無かったんだけど、親がうるさくてね」
「そっか〜。どんな夢かは知らないけど、がんばってね〜」
「ありがとう。ほら、輝明もいつまでも固まってないでなんか言ってよ」
蒼也は固まってしまった輝明の肩を軽く揺さぶり意識を呼びもどさせる。
「はっ! 俺は一体何をしていたんだ……」
「……もう少し頭の容量増やそうな」
「ふふ」
楽しそうに笑う恵美を見て紅音の表情も少し綻ばせた。
しばらくたわいない会話をしながら下校をしていたらいつもの分かれ道についてしまった。
「じゃあ私はこっちだけど、あんたたちは?」
「僕も同じ方向だね」
「俺は恵美さんと同じ方向だ」
「そっか、じゃあ蒼也くんと紅音さんとはここでお別れだね。また明日〜」
四人はそこで別れ、それぞれの家に向かっていった。
紅音はしばらく歩いた後、蒼也と二人きりになったことを確認すると話を始めた。
「一つ、相談があるんだけどいい?」
「もちろんかまわないよ」
「助かるわ。今朝恵美が言っていたのだけど────」
そこで紅音は恵美が見た夢の内容を説明した。
「────と、いうわけなんだけどね。これって変革の影響よね」
蒼也は眉間に指を当てながら悩みながら言った。
「ん〜……なんとも言えない気はするけど、もし仮に変革の影響だとしても特に気にする必要はないんじゃないかな。私生活に大きな影響が出てるわけじゃないしね」
「……それならいいんだけど」
紅音は腑に落ちないのか、不安げに呟いた。
蒼也の方も少し気になることがあるようだった。
「ただ一度本人から詳しい話を聞きたいかな。もしかすると恵美さんの矛盾がどんな能力なのかわかるかもしれないし」
「勧誘でもする気?」
冗談交じりに話す紅音に、蒼也も笑って返す。
「まさか。ただもしも暴走してしまった時に対策を取りやすいと思ってね」
「あ……ご、ごめんなさい」
紅音は自信が暴走して蒼也たちに迷惑をかけたことを思い出すと、申し訳なさそうな表情を浮かべた。
蒼也は紅音の落ち込んだ様子を見ると慌てて弁解する。
「いや、そんなつもりで言ったわけじゃないんだ。気にしないで」
「……うん。ありがとう」
不器用な笑顔を浮かべる紅音を見て、蒼也は僅かに頬を赤く染めた。なんだかんだと言っても思春期なのか、女の子の笑顔には弱いようだ。
それから蒼也にしては珍しく、下手な咳払いで誤魔化すとさっさと話題を変えてしまった。
「そ、そう言えば恵美さんがいつ変革するかを言ってなかったね」
「わかるの?」
「詳しくはわからない。けどまず間違いなく来月、五月中だね」
「どうして五月だと断言できるの?」
「人が変革する時は、必ず矛盾獣が出現する時だからさ。次の矛盾獣出現は例年通りなら五月頃……そのタイミングで必ず恵美さんは矛盾世界に引きずり込まれるよ」
「なるほどね」
「僕としても────いや、やめておこう」
蒼也の「僕としても」に続く言葉はおそらく、恵美さんの近くで矛盾獣が出現することが分かったからわざわざ矛盾獣を探す手間が省けた、だろう。
もちろんそんなことを口走れば紅音にどんな目で見られるのか想像がつくので言葉にはしないかった。
「ところで、紅音さんの方は何かなかった? 今までできなかったことができるようになったとか」
「私? そうね……そう言えば目に見える物の材質が分かるようになったわ。例えば……」
そこで紅音は偶然道端に落ちていた空き缶数個を見つけると指をさしながら言った。
「あそこにある空き缶、手前のはスチール製で奥のはアルミ製ね」
蒼也が空き缶を拾って確かめてみると手前の空き缶にはスチール、奥の空き缶にはアルミと書かれてあった。
「なるほど、紅音さんは《属性看破》能力に目覚めたんだね」
「属性看破?」
蒼也は空き缶を近くのゴミ箱に捨てると話を続けた。
「そう、昨日の矛盾世界での戦闘でなにかおかしなことがなかったかな。例えば、脳裏に突然情報が流れ込んでくるとか」
「……そう言えばケンジの剣が光を放った時、あの剣には幻惑の属性があるってなぜか理解できたわ」
「それが属性看破の力だよ。矛盾の保有する能力を看破する力さ。って、そのまますぎて説明になってない気がするけど」
あはは、と笑って誤魔化す蒼也に、紅音は何かに納得したような表情をすると言った。
「つまり現実世界で物の材質が見抜けるようになったのは、矛盾世界での属性看破能力の影響が現実世界に現れてるってことね」
「そう言うこと。ついでに矛盾世界での特異能力は個人で違ってるんだ。僕の場合は《空間把握》能力が極端に上がってる。現実世界でもこの通り」
そこで蒼也は後ろを向いて歩き始めた。
紅音は不思議そうな顔をして蒼也を見ると、まぁ見ていてくれと言うように蒼也は笑いかける。
しばらく歩くと紅音は蒼也の行く手を電柱があるのを見つけた。
そのことを蒼也に言おうとした瞬間、蒼也はそこに何があるのか分かっていたように体を横にずらし電柱を回避する。
それだけではない。道端のパイロン、自動販売機を回避し、小石を蹴って下水道に落とし、最後には公園の入り口でぴったりと止まり、公園入り口の死角から出てくる子供を避けてしまった。
「っと、こんな感じかな。さっき後ろからの攻撃が分かったのもこの能力のおかげだよ」
「……流石に驚いたわ」
驚く紅音に蒼也は笑いかけるとクルリと前を向いて歩き出した。
「輝明の特異能力も結構すごいんだよ。まぁ、それは本人から直接聞くといいよ」
「そう。あまり興味はないけど、覚えてたら聞いてみるわ」
紅音のあまりに素っ気ない態度に苦笑いを浮かべる蒼也だったが、蒼也には構わずに紅音は話を変える。
「話は変わるけど結局のところ恵美を守るにはどうすればいいの?」
「ん? そうだね。とりあえず五月に入るまでは矛盾世界に引きずり込まれることはないから勝負は五月からだね。五月に入るともういつ巻き込まれるか分からないからできるだけ恵美さんと一緒に行動して矛盾世界に引きずり込まれる瞬間を見逃さないことかな」
蒼也の言葉に紅音は軽く頷くと言った。
「そう。じゃあ四月中は特にやることはないってことね」
「いや、紅音さんには別にやってもらうことがある」
「……?」
不思議そうに首をかしげる紅音に、蒼也は少し気合の入った声で言った。
「特訓だよ」




