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パラドックス・メイカーズ  作者: 三角
Chapter2:矛盾者
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観測者と探求者

 十五階程度のビジネスビルの屋上で、一人の男が腰をかけながら下を見下ろしていた。

 少し長めの白髪をした細身の男は、髪と同じく真っ白なワイシャツを着ている。男の側にはなぜか蓋のない水の入った瓶が一本置かれていた。

 汚れのない、透明感のある雰囲気を纏わせる男は、やはり透明感のある澄んだ声で言った。


「……久々に、面白いものを見れた」


 男は少し気分が高揚しているようで、自身の胸から聞こえる心臓の鼓動を聞きながら静かに言った。


「この感覚、やはりいつまでたっても飽きないな。生きていることを実感できる」


 先ほどまで男が見ていたのは、三人の矛盾者がお互いに《絶対》と信じる力をぶつけ合い、しのぎを削る瞬間だった。

 結局、その戦いに勝者はおらず、また敗者もいなかった。あったのはただ生きる者と死にゆく者、それだけだ。


「あまりにシンプルな結末。しかし、だからこそ面白い。そうは思わないかい? 美しい観測者」


 誰もいない空間に、男は軽く声をかける。

 しばらくすると、男の言葉に応えるように目の前の空間が黄金の光が溢れだし、中から一人の女性が姿を現す。

 光と同じ黄金の長髪をなびかせながら、物理法則を無視して空中を漂うその美しい女性は瞼を閉じたまま言った。


「私は観測者と名乗った覚えはないのだけれど」

「気にしないでくれ、ただのあだ名だよ。それに、あながち的外れでもないだろう?」


 女性がゆっくりと瞼を開くと、汚れのない瞳が男と目線を合わせる

 女性の瞳は赤と青のオッドアイ。まるでその女性の抱える矛盾を象徴したかのような、綺麗な瞳だ。

 女性は男の言葉にかぶりを振ると言った。


「観測者である以前に、私はこの世界の創造者よ。そこのところは理解しておいて欲しいものだけどね」


 女性は、男から視線を外すと先ほどまで戦いがあった公園を見た。


「それにしても……面白いもの、ね。私には分からないわ。少なくとも、殺し合いは総じて悪いことだと思うけど?」

「良い悪いなんてどうでもいいさ。面白いか面白くないか、それだけさ。それにこの戦いの本質は殺し合いじゃない」


 男は左手で近くの小石を拾うとクルクルと人差し指の先で皿回しのように器用に回しながら言った。


「君は世界で最も強い力はなんだと思う?」

「……さぁ、そんなものは分野によって大きく変わってくると思うけど?」

「つまらない返答だね……正解なんてない、なんてことはないんだよ。全ての事象に答えはある。その答えを、僕らが知覚できていないだけさ」

「じゃああなたには分かるの? 世界で最も強い力が」


 男は回していた小石手の中に収めると強く握りしめた。そしてその握った拳を見ながら言った。


「意思を伝える力さ。少なくとも僕はそう信じている」


 その答えに女性は少し驚くと楽しそうに言った。


「あら、意外とロマンチストなのね」

「そうかい? まぁ、そうかもしれないね」


 少し笑みを作りながら答える男に、女性は質問する。


「どうして意思を伝える力が世界で最も強い力だと思うの?」

「簡単な話さ。人間社会は────いや、世界は意思が伝わり合うことで、人と人が意思を伝え合うことで回っている……世界を回しているのは人の意思だ」

(ゆえ)に最も強いと?」

「そう。人の意思は全てを回している力なんだ。当然、最も強い力だろう」

「そうかしらね」


 なおも否定的な女性に、男は言った。


「なにより、僕が君に意思を伝えたことで、この世界が始まった。それが証拠だよ」


 女性は反論ができなかったのか、納得したのか、呆れたのか、なんにせよそれ以上この話題を続けようとはしなかった。


「……ソラ、あなたの願いは叶いそう?」


 女性の言葉にソラと呼ばれた男は僅かに口元を歪ませると静かに、そして楽しそうに言った。


「ああ、彼らは見せてくれそうだ……新しい可能性を」


 そう言いながら、ソラは握った左手をそっと開いた。すると先ほどまで小石だったソレはいつの間にか一口ほどの大きさをしたパンに変わっていた。


「うん、今度のは悪くないできだ」


 満足そうにパンを口に放り込むソラを見て、女性は軽く溜息をつくと呆れ顔で言った。


「あなたに与えた《神の矛盾》は、そんな事に使うために与えたつもりはないのだけれど?」


 ソラは女性に向かって笑いかけると、傍に置いてあったビンを左手で掴み一振りする。

 すると、ビンの中の水は徐々に色を変え、熟成された真っ赤なワインへと変化していった。

 ソラはビンを揺らしてチャポチャポと音を鳴らしながら再び口元を歪ませながら静かに言った。


「その言葉は神への冒涜じゃないかい?」


 嬉しそうに笑うソラの表情は綺麗な笑顔のはずだが違和感を感じさせる。例えるならそう、綺麗な包装紙のような笑顔。綺麗な包装紙はどんな汚いものでも綺麗に包み隠す。

 そう、包装紙(笑顔)に包まれているのは、狂気と歪み。

 《神の矛盾》を持つ男はその内に秘める歪んだ情熱を隠しながら、今日も笑顔で壊れた街を見続ける。この戦い(ゲーム)のゲームマスターとして。




 そして、歪んだ探求者として。




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