主人の誇りは従者の誇り
ぐっと槍を力強く握り直した蒼也は改めてケンジと他二人の矛盾者の方を見ると言った。
「三分でケリをつけると言った以上、手加減はしてられない。一人一分……いや、ケンジに二分半、他の奴らに三十秒かな」
「随分と余裕ですね……」
「自分で言うのもなんだけど、格が違うよ」
蒼也は左手に爆発の槍を生成する。
「悪いけど、ごり押しで行かせてもらうよ」
蒼也が腰を低くした瞬間、ケンジは二人の矛盾者に大きな声で呼びかける。
「注意してください! 投擲か高速移動か、来ますよ!!」
「守ると詰むぞ?」
蒼也はそう言うと左手の爆発の槍を二人の矛盾者に放つ。
石突きから爆発を発生させて加速された爆発の槍は、ちょうど二人の中間点に突き刺さる。
二人の矛盾者はケンジの警告のおかげで十分な距離を取っており爆発範囲外にいた。爆発を回避を確信した二人の矛盾者は爆発範囲外に出たことに安堵した。
しかし、爆発の槍に気を取られすぎたのが命取りだった。
「よし……っぶぐ!!」
蒼也の切断の槍が矛盾者の背中を縦に切り裂いていた。
『こいつ……なんでここに!? 爆発に巻き込まれるのが怖くないのか?』
矛盾者は地面に突き刺さったままの爆発の槍を見て驚愕する。
『……!! 槍が爆発していないっ!!』
「く、そぉぉぉお!!」
そのまま蒼也は何回も矛盾者に斬りかかり、心装甲を全て削り取った。
「がっあぁ!!」
「爆発の槍はそんなに怖かったかい?」
心装甲が無くなった矛盾者は徐々に実態を失い現実世界に戻っていった。
「このやろ!!」
もう一人の矛盾者が刀を振りかざして蒼也へ向かう。
「いやいや、もっと警戒しようよ」
蒼也と刀使いの矛盾者の間にあった爆発の槍が時間遅れで爆発し、周囲を爆煙で包み込んだ。
『視界が……くそ!』
爆煙で視界を奪われた刀使いの矛盾者は、慌てて爆煙から飛び出す。
しかし、爆煙から出たのは間違いだった。
「甘いよ」
待ち伏せしていた蒼也は容赦無く刀使いの心装甲を剥いでいく。
「ぐああ!!」
蒼也の連続攻撃で心装甲を全て失った刀使いの矛盾者はそのまま現実世界に戻っていった。
「やれやれ……ですね」
ケンジはなす術もなくやられていった二人の矛盾者の様子を見て深いため息をついた。
「とんだ策士ですよ、あなたは。爆発する槍を囮にして回避した瞬間を狙って襲撃、さらに爆煙から出たところを奇襲……ひどいことをしてくれるじゃないですか」
「アドバイスはしたはずだよ。守れば詰むぞって」
ケンジは少し呆れた顔をした。
蒼也に、ではない。消えていった二人の矛盾者に呆れたのだ。本当に三十秒で仕留められてしまってはつまらないじゃないか、と。
「やれやれ、残念ですね。もう少し奮闘してくれると思っていたのですが……」
「お喋りしてる暇はない。一気に決めさせてもらうぞ」
そう、こうしている間も紅音は二人の矛盾者と防戦をしている。いくら盾の性能が高くても二対一、それも紅音は矛盾者になって日が浅い。そう長くは持たない。
蒼也は右手の切断する槍を消して新しく爆発の槍を生成する。
「全力で潰す」
「その言葉、そのまま返しましょう」
瞬間、二人はそれぞれ幾つもの槍と剣を空中に生成し、勢いよく放つ。
槍と剣は空中で激しくぶつかり合い、火花を散らす。地面に落ちた武器は実態をなくし消えていった。
ケンジは剣を蒼也に放ちながら右手を前に突き出し新たな剣を呼び出す。
「馳せ参じなさい!焔帝の懐刀!!」
「……!!」
ケンジは燃え盛る焔を放つ剣を右手に掴むと、迫り来る槍を躱したり、剣で弾きながら、蒼也との距離を一気に詰める。
「はぁ!」
「……速い!」
焔帝の懐刀は唸りを上げて焔を放ちながら、蒼也の心臓へ手を伸ばす。
ギリギリのところで蒼也はなんとか切断の槍の柄で軌道をずらすが、剣が纏う焔はガードをすり抜け蒼也の横腹を焦がした。
「そんな防御では体が焼き焦げますよ」
『炎属性……だったら』
続けて振り下ろされた焔の刃を、蒼也はしかし、左手の甲で剣の平を叩き、軌道をそらす。
「なっ!」
「そらっ、一発目だ」
蒼也は黒く焦げ付いた左手を無視して、右手をケンジの顔面に叩き込む。
「がっは……っ!?」
「続けていくぞ」
二発、三発と入ったところでケンジはなんとか距離を取り、焔帝の懐刀で焔の壁を作って蒼也の追撃を防いだ。
『心装甲があるとはいえ、焔を纏った剣を生身で受けるわけがない……という思考の裏をかかれましたか。距離が近くて命拾いしましたね、あの距離では爆発の槍は使えないでしょうから』
ケンジは口の中の血を吐き捨てると、剣を構える。
『勝負は二分半ギリギリ、蒼也さんが焦った時に仕掛ける。あの女性には感謝しなくてはいけませんね……わざわざ蒼也さんの隙を作ってくれるのですから』
ケンジと蒼也の距離は再び0となり、剣線が交わる。
しばらく剣を交えるとケンジは蒼也に挑発をかける。
「……そろそろ私と戦い始めて二分半ですよ。紅音さんを助けなくて大丈夫なんですか?」
「そうだね……だから、ここらでケリをつけさせてもらうよ」
ぐっと蒼也が槍を強く握りしめたことを、ケンジは見逃さなかった。蒼也は焦っている、そう確信したケンジは勝負をかけに出た。
ケンジはつばぜり合いに持ち込み、普段より足を前に出し、強引に蒼也との距離を距離を詰める。
すると蒼也はケンジとの距離を離すためにつばぜり合いに力を込める。
槍の攻撃範囲は体から少し離れる。今のゼロ距離では当たらないのだ。
しかし、それこそケンジの思惑通りだった。
ケンジは蒼也から押される力を利用して大きく後ろに下がる。
そして先ほども使った焔の壁を作ってから右手を前に突き出して焔帝の懐刀を消す。
それから右手の平を大きく広げて蒼也に向かって、勝利を確信したように喜びにあふれた声で叫ぶ。
「それは、こちらのセリフです! 馳せ参じなさい! 剣の従者!!」
焔の壁が消えた瞬間、ケンジは猛烈な勢いで蒼也に向かって走り出した。
さらにケンジは、左手を刃に添えて詠唱を始めた。
「奮い立て! 我が剣の従者よ! 汝の刃は我が誇りの具現、その誇りに従い、万を切り裂く剣となれ!!」
ケンジが人差し指と中指を立て、剣の根元から切っ先まで滑らかに滑らせると、剣の従者は白銀の輝きを放つ。
刃から放たれる閃光は蒼也の視界を雪原のような無垢な白に染まる。
本来なら直視できないような光量の光だが、蒼也は光に魅了されてしまったかのように、目をそらすことができない。
『眩しくない? 綺麗な光……なんだ、あの剣────!!』
瞬間、蒼也は理解した。そして同時に後悔した。
蒼也は一瞬だけ、全てを忘れて光に魅入られてしまった。そのせいでケンジを間合いに入れ、さらに無防備な状態で向かい打つ形になってしまった。
蒼也は目を見開き、ただ迫り来る刃を見つめることしかできずに、徐々に速度を落としていく思考の中で後悔していた。
『くそ、やられた!! 幻惑の属性……いや、それだけじゃない。あの剣、他に《絶対属性》持って────』
「切断せよ! 剣の従者!!」
蒼也の思考が終わる前に、刃は縦に軌跡を描いた。
剣に宿った属性の名は《絶対切断属性》。
万能の神の身技が一つ。万物を切断する力。
その刃に、切れないものはない。




