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パラドックス・メイカーズ  作者: 三角
Chapter2:矛盾者
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紅音の盾

「残り五人……か」

「本当に頂きの十人に勝てるのか?」


 ケンジ以外の四人は焦り、ザワザワと騒ぎ出す。

 そんな四人様子を見かねてケンジはわざと大きな声を出して四人を鼓舞する。


「みなさん、落ち着いてください。この私がいる限り、勝利は揺るぎません!」

「大した自信だな」


 蒼也はそう嘯くと、右手に新らしい槍を生成する。


切断する槍(スラッシュランス)!!」


 右手に現れたのは全長一メートル程度の短い槍だ。

 刃の部分がまるで剣のように長く、他の槍より近接戦闘に特化した槍であることがうかがえる。


「ええ、自信がありますよ……私は勝てない勝負はしない主義でね」

「じゃあ、今すぐ尻尾を巻いて逃げ出すことだな……後悔することになる」

「ご冗談を……」


 ニッとケンジは笑い、姿勢を低くして身構える。


「前の二人は私の援護を。残りの二人であの女性を倒してください……援護でもされたら面倒です」

「ああ、わかった」

「チッ!」


 蒼也はケンジの言葉を聞いて舌打ちをすると、複数の槍を生成し紅音に向かった二人に目掛けて発射する。


「おおっと! 貴方の相手は私です」


 しかし、発射された数本の槍は全てケンジに弾かれる。


「くそ……!」

「ほうら、隙だらけですよ!!」


 ケンジは蛇が地面を這うような素早い動きで蒼也に襲いかかる。

 喉笛を狙ったケンジの攻撃は、しかし蒼也の切断する槍(スラッシュランス)に防がれる。


「……上手いですね」


 上、下、突き、左、上、ケンジの放つ様々な剣筋を、蒼也は全て弾きながらも紅音へ向かう二人に槍を放ち続けていた。

 しかし、その槍も全てケンジをサポートする二人によって阻まれる。


「くっ!」

「どうしました! 息が上がってますよ!!」

『くそ、このペースで槍を使い続けると、精神負荷が……』

「紅音さん逃げろ!! ここは僕一人で十分だ!!」


 蒼也の叫びを聞いてもなお、紅音は動かなかった。

 いや、むしろ───


「私だって……戦える」


 紅音の闘志に静かな火をつけた。

 蒼也は紅音が戦おうとしてることを察すると、急いで紅音の元へ説得に向かう。


「ダメだ! 紅音さん!!」

「おおっと、貴方の相手は私です」

「くそっ!」


 しかし、当然ケンジはそれを許さない。


「その盾ごと、心装甲(マインドアーマー)を粉微塵にしてやる!!」


 大きなハンマーを持った巨漢が紅音に襲いかかる。


「攻撃、一枚で十分……」


 紅音は軽く言うと、右手をハンマーへ向けて振るう。

 そして、右手の動きと連動し、一枚の盾がハンマーを防ぐように動く。

 ガァン、と鉄板を金属バットで叩いたような金属音が鳴り響く。


「ぐっ……かてぇ」


 ハンマーを持った巨漢はビリビリを痺れる右手を見ながら思った。

 強度があまりに固すぎる、と。


『もちろん、他の矛盾者にも盾を使う奴はいるし、強度も似たようなものだ……しかし、奴の盾は他の矛盾者とは違う面がある』


 ギリギリと、嫉妬するように歯ぎしりした巨漢は、額に汗を滲ませて戦慄した。


『まず奴の盾は数が多い、そして宙に浮いている。そして何より、生成コストが低い。矛盾はその性能が高いほど精神負荷が増していく。それなのに、ここまで優秀な盾を生成して消耗する様子を見せないのはなぜだ……生成コストに対して強度も性能も高すぎる!』


 驚きで動きを止める巨漢とは別の、もう一人の矛盾者は、小さな体で紅音の周りを動き回りながら言った。


「いくら盾が自由に動かせても、同時に誘導弾を防ぐことはできないわよ!」


 小柄な女性矛盾者は右手のボウガンに複数の矢を装填すると紅音の背後に周り発射する。


「くらいなさい!! スネークバイト!!」


 ボウガンのから放たれた複数の矢は、蛇のようにウネウネと紅音の背中側にある盾を躱すように動きながら紅音へと迫る。

 紅音は体をひねりながら、蛇のような矢を横目で見ると、額に汗をにじませる。

 しかし、その表情は至って冷静なものだった。


『誘導弾、盾を躱される、だったら……』


 紅音がとった行動は逃避でも防御ではなかった。


 接近。


 紅音は自ら誘導する矢に向かって走り出したのだ。


「血迷ったわね! スネークバイトは追尾性能を持つ! 目標にぶつかるまで止まらない!」

「でも、スピードがある分、小回りはきかないはず!」


 矢は紅音を目標とし、角度を修正する性質を持つ。そのため絶対に命中するように思える。

 しかし、矢は常に高速で動いているのだ。

 仮に一秒で五メートル進む物体があるとして、その物体が進路を五度右にずらすのに一秒かかるとしよう。

 その物体が十度の角度を調整しようとすると、どうなるか。

 答えは簡単、十度方向をずらしている間にその物体は十メートル進んでいるのだ。

 今回もそれと同じ、要は方向を変えることができない距離まで矢との距離を縮めてしまえばいい。

 紅音はスネークバイトは盾を避けるようにして動いた。

 つまり、盾の真後ろにスネークバイトは行くことができない。


「はっ!」


 紅音は盾の真後ろへ一気に走ることで、スネークバイトは紅音の横をギリギリで通り過ぎそのまま後方へそれてしまった。


「そんな!! スネークバイトが回避された!」

「退屈な攻撃ね」


 紅音はショックで目を見開く女性矛盾者を尻目で見ながら、頬を袖でこすった。


『頬から血が出てる……少し矢に触れた? 心装甲(マインド・アーマー)は消えてないはずだけど……』


 紅音は着ている服が制服であることを思い出すと、袖についた血を見て一つ小さくため息をついた。


「洗濯がめんどうね……」


 それだけ呟くと、今度は蒼也に向かって叫んだ。


「私は大丈夫! だから蒼也は目の前の男に集中して!」

「でも!」

「その剣使いを倒した後に援護してくれたらいいわ……待ってるからさっさと倒しちゃって!!」


 蒼也はまいったな、と言った表情をした後、紅音に言った。


「三分で行く」

「……! 待ってるから」


 ケンジはその会話を聞いてニヤリと黒い笑みを漏らした。


「そう簡単にことが運ぶといいですね」

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