mindarmor〜生命線〜
蒼也は紅音から数歩下がると右手に持った蒼刃の十字槍を構える。
「模擬戦でもするの?」
紅音はそう言うと三枚の六角形の盾を作ると適当に構える。
しかし、蒼也は模擬戦というには少し殺気がこもりすぎるぐらいの目つきで紅音を睨みつける。
「……いや、そういうわけにも行かなくなった」
「どういう意味───」
紅音が質問をしようとした瞬間、蒼也は紅音のいる方向めがけて全力で槍を投げ飛ばす。
しかし、槍は紅音には当たらずに、公園周りの木々を抜けて道路まで抜けていった。
紅音は後ろを振り向くことなく、蒼也を睨むと低い声で言った。
「……どういうつもり?」
「いや、鼠がチョロチョロとしていたものだから、倒しておこうかと思ってね」
紅音は蒼也の言葉にはっとして後ろを振り向くと、ぞろぞろと木の陰や公園の外から人が出てきた。出てきた人数は男女合わせて十人余りだ。
そう、蒼也が睨んでいたのは紅音ではなく、後ろの集団の方だった。
紅音はつまらなさそうな表情をすると蒼也に質問する。
「こいつらは?」
「びっくりするほど冷静だね……彼らはゲームで言う経験値稼ぎ中のパーティみたいな感じかな。矛盾者はより良い戦闘経験を得ることで新たな矛盾を発動できるようになるんだ」
「ふ〜ん……退屈な事してるのね」
蒼也と紅音が話していると、集団の中から、逆立てた金髪と額のバンダナが特徴的で、ダボっとした服を着ている男が一歩前に出てきた。
リーダー格と思われるその男はパチパチと手を叩くと、気持ち悪いぐらいの明るい笑顔で丁寧な言葉遣いで言った。
「いや〜お見事。流石《頂きの十人》の一人ですね。一体いつから気がついてたんですか?」
「ここに着いた時からだ」
男は大げさに驚いて見せると、手を合わせて嬉しそうに言った。
「流石ですね。いやいや、感服いたしました!」
「なにもして来なければ見逃しておくつもりだったんだが……そうもいかないようだな」
紅音は二人の会話を聞いて、蒼也に質問する。
「《頂きの十人》って?」
「できればあんまり説明したくないんだけど……」
ぽりぽりと頬をかいて誤魔化そうとする蒼也をみて、男は言った。
「そちらの女性はご存知ありませんでしたか。でしたら蒼也さんの代わりに私が説明しましょう。《頂きの十人》とは、その名の通り、この異世界の頂点に位置する強者たち十人を指します」
「……嘘は言ってないようね」
「もちろんですとも」
紅音が蒼也の方を向くと、蒼也は苦笑いをしながら頷く。どうやら蒼也はこの大それた称号が苦手なようだ。
ニコニコと笑う男は紅音の方を向いて言った。
「あなたとは初めましてですね。申し遅れました、私の名はケンジ。以後お見知りおきを」
紅音はケンジと名乗る男の顔を睨みつけると、六角形の盾をさらに三枚生成し、言った。
「………目的は私? それとも蒼也?」
「おやおや、察しがいいのですね」
「当然でしょ。蒼也が突然槍を投げるような相手、何かあるに決まってる」
やれやれ、とまたも大げさに首を降るとケンジは言った。
「これはおとなしく白状した方がよさそうです。目的は蒼也さん、あなたです。私達も《頂きの称号》に名を連ねて目的を達成したいのですよ。そのために……」
「なぁケンジ、もう御託はいいだろ?」
蒼也はケンジの言葉を遮るようにため息をつくと言った。
ケンジは蒼也の言葉に呆れたのか、大きく方をすぼめると、やれやれと言いながら話を続ける。
「そうですか? あの女性はまだ状況を飲み込めていないと思うんですけど」
「いや、十分だ……」
蒼也はそう言うと、それまでとは違う、黒い殺意を込める。
同様に、ケンジの瞳にも鋭さが宿る。
「剣を抜け」
「おやおや、血の気が多いようで……嬉しいですよ」
二人の視線がぶつかり、火花を散らす。
「来い! 爆発の槍!」
「馳せ参じなさい! 剣の従者!」
蒼也は爆発の槍を両手に生成する。
対してケンジはロングソードを右手に生成する。他の矛盾者達も、それぞれ弓やハンマー、寸鉄、モーニングスター、等々の多種多様の武器を生成する。
蒼也は相手全員の矛盾を観察し、ケンジのロングソードに違和感を覚えた。あまりにもシンプル過ぎる形状に、蒼也は警戒をする。
『ただの無属性武器ならいいが……おそらくただのロングソードじゃないな』
「蒼也」
紅音の呼びかけに蒼也は頷く。
「紅音さんは自分の身を守る事に専念して」
「あの人数を一人で倒せるの?」
「なんとかするよ」
紅音は蒼也の声に少し余裕を感じた。紅音は蒼也の様子に少し安心しながらも、やはり心配になって声をかけた。
「……気をつけて」
「ありがとう」
加勢しようにも紅音の矛盾は盾。防御の支援はできても攻撃はできない。
『……くそ』
紅音は強く握った拳を見つめながら心中で自分の無力さを毒づくことしかできなかった。
『唯一攻撃力のある黄金の盾はなぜか使えない……とにかく今は蒼也の言う通り、自分の身を守って足手まといにならないようにするしかないわね』
紅音はそう判断すると蒼也の後ろに下がり、六枚の盾を自身の周囲に展開させる。
展開した盾は反時計方向に回りながら宙を浮く。
ケンジはそんな紅音の能力を見て嬉しそうに笑った。
「珍しい矛盾ですね。宙を浮く……盾? ですかね。それも“反時計回り”ですか。ますます、楽しめそうです」
蒼也はケンジの言葉には答えずに紅音に言った。
「せっかくの機会だ。紅音さん、戦闘に関する説明をしていくよ」
「え、この状況で?」
紅音がそう言った瞬間、爆発の槍の石突から空気が焦げるほどの勢いで爆発が連続的に発生する。
「なんて音だ……耳が……!!」
「鼓膜が……!!」
「あぁ! いてぇ」
「うわぁあ!」
猛烈な爆音はケンジを除き、この場にいる全ての矛盾者が耳を塞ぎ隙を見せる。
蒼也は爆発によって生じた強力な反作用(力を一定の方向へ向けると反対の方向に生じる力のこと。ミサイルが飛ぶ原理でもある)を腰を落として踏ん張りながら体の角度を変える。
ケンジはそれを見て危機感を覚えると仲間に大声で指示を出す。
「まずい! みなさん、回避行動を!!!」
しかし爆音で耳を塞いでいた他の矛盾者には一切聞こえることはなかった。
「行くぞ!」
蒼也は一人の矛盾者に狙いを定めると足の踏ん張りをやめて、一気に走り出す。
「ジェット・ピアース!!」
爆発により加速した蒼也は鼓膜を破るような爆音を轟かせながら、標的の矛盾者の腹に二つの爆発の槍をぶつける。
「がっ……ふっ!!」
「一人目」
ジェット・ピアースを食らった矛盾者は猛烈な勢いで後ろに吹き飛び、公園の木にぶつかりそのまま動かなくなった。
爆音が途切れると紅音は顔の色を青くしながら蒼也に言った。
「ちょ、ちょっと蒼也! 幾ら何でもやりすぎじゃ……」
「大丈夫。この程度では死なない」
「この程度って、明らかにオーバーキルじゃない……」
紅音は木の前で倒れこむ矛盾者を改めて見る。
そこで紅音は驚いた。
なぜならその矛盾者は気絶はしているものの、腹から出血する程度の傷で、すんでいるのだ。
「どういう事?」
「これが矛盾者を守る安全装置、心装甲だよ。矛盾者の体の表面に展開されていて、体へのダメージを軽減させる。ただし、一定ダメージ量を越えると壊れるから注意が必要なんだけどね」
紅音は化け猫との戦闘でビルに叩きつけられた事を思い出す。
「なるほどね……私と恵美が化け猫に殴られてビルに激突した時平気だったのは、心装甲のおかげだったのね」
二人で会話をしているうちに、倒れこんだ矛盾者の体が透け始め、しばらくして消えてしまった。
「あれは?」
「矛盾者は意識を失うとこの世界から追放されるんだ。前回の戦闘で恵美さんが消えたのもそのためだよ」
蒼也が話をしていると、矛盾者が一人、大きな斧を担ぎながら目を血走らせて走ってきた。
「この野郎!!」
「甘いよ」
蒼也はその場を動かずに、敵矛盾者の頭上に数本の槍を生成し一斉に落とす。
「……ぐっあぁぁ!」
「二人目っと……心装甲には個人差があってね、厚い人もいれば薄い人もいる」
「くそ、覚えてろよ……!!」
槍を数本刺された矛盾者は自分の傷を確認すると毒づきながら消えていった
「そして、心装甲が破られると普通の矛盾者なら、今のように自分の意思で元の世界に戻る。心装甲が無ければ耐久力は元に戻ってしまうからね」
「いや……冷静に解説しすぎよ、蒼也」
さすがの紅音も蒼也の冷静さには少し引き気味だった。
しかし、蒼也からすればこの程度の相手は退屈の一言なのだ。
「熱くなるには、役者不足だよ」
そう言いながら蒼也は両手の爆発の槍を集団に投げつける。
「ぐあぁぁぁ!」
「ゴホッゴホッ!」
「何人やられた!」
爆発が晴れると、蒼也は立っている矛盾者の数を数え始める。
「今ので六人目……そして残りは五人、一気に倒す」
十人以上いた矛盾者達は、たった数分で残り五人にまで減っていた。
「さすが、頂きの十人の称号は伊達ではありませんね……だからこそ、いい経験ができるというものです!! さぁ蒼也さん、私を高みに連れて行ってください!!」
ケンジはニヤリ、と含みのある笑みを漏らすと誰にも聞こえないような小さな声で呟いた。
「私には、貴方を倒す奥の手がある……!!」
矛盾者の戦闘は基本的にタイトルに書かれている矛盾、過負荷、心装甲の三つで成り立ってます。
今回で説明回は終了です。次回はケンジとのバトルですね。




