overload〜力の代償〜
蒼也はそう言うと地面に書いた図の電線、すなわち思考回路を指差す。
「矛盾は感情をエネルギーにしてる。それはさっきの説明で分かってくれたと思う。ではその感情はどこを通っているのか、それが思考回路だったね」
「ええ」
「《精神負荷》は感情が思考回路を通る時の負荷なんだよ。それは矛盾が強ければ強いほど大きくなっていくんだ。ちょうど電気が抵抗を通る時に発生させる熱と似ているかな」
「なんだか理科の授業みたいになってきたわね」
「そうだね。まぁ、空想の力を科学で例えて話すなんて矛盾、と言うか皮肉かもしれないね」
蒼也は軽く苦笑いを浮かべると話を続ける。
「《精神負荷》が強すぎると思考回路がある場所、つまりは脳にダメージが蓄積される。紅音さんも一度体験してるはずだよ」
紅音は以前の戦闘で生成した盾、神の輝きを放つあの盾を思い出す。
「“黄金の盾”……」
「そうだね。強い能力を持つ矛盾はそれ相応の対価がある。あれだけの矛盾だ……脳が焼けるように痛かったはずだよ」
蒼也の言葉で紅音は激痛の感覚を思い出し、眉がピクリと動く。
強すぎるショックを思い出した所為で反射的に眉を潜めそうになったのだ。
しかしそれでも紅音は蒼也に弱みを見せまいとなんでもなかったように振る舞う。
「別にたいした事なかったわよ」
「………………」
「な、なによ。その目は……」
「…………」
「…………」
ジト目で睨み合う無言の男女。おそらく修羅場に見えるのは気のせいだろう。
『蒼也には弱みを見せたくない……“友達”に弱みを見せるわけにはいかない』
紅音はそう心中で呟いた。
勘違いに気がつかないまま、黙っていた。
その後、数秒間睨み合っていた二人だが、蒼也は根負けしてしまったようで、ため息をつくと話を続ける。
「……次は《暴走》の説明をするよ」
「ご自由に」
「なぜか対応がひどいな……《暴走》はこの図で言うと発電機がエレルギーを過多に作り収まり切らずに溢れ出してるんだ。精神を制御ができていない状態、早い話は乱心してる状態だね」
「……」
紅音は自分が《暴走》した自覚があったようで何も言わなかった。
何を言っても自分を追い詰めるだけだと理解していたのだろう。
「原因は怒りや悲しみ、負の感情で起こる事が多い。一応喜びで《暴走》した例も少なくは無いんだけど、喜びでの《暴走》は割と納めやすいから気にしなくてもいいかな」
「そいつは相当幸せ者なのね」
呆れたように紅音が言うと蒼也が否定する。
「そう言わないでよ。紅音さんは知らなくて当然だけど、苦労してなんとか矛盾獣を倒して大喜びして、それが元手で《暴走》……そのまま思考回路が焼き切れて脳死、なんて事が一度あったんだ」
「………おめでたいやつね」
その言葉とは裏腹に、紅音の表情は沈んでいた。
脳死。
死という言葉に、この戦いがゲームでもなければスポーツでもない事を紅音は再び実感した。
これは、自分の巻き込まれたこの戦いは、紛れもなく────
命をかけたやり取りなのだ、と。
いつか巻き込まれてしまう親友のことを思うと、紅音の拳は反射的に強く握られた。
蒼也は紅音の表情を見て、先ほどの言葉が本心ではないことに気がついたので特に言及しなかった。
『まったく……紅音さんはもっと素直になってもいいと思うんだけど。まぁ、態度や表情は割と素直だけど』
「なにか言いたげね」
「……別に、なんでもないよ」
そう言うと蒼也はまた話を続ける。
「《暴走》は普段とは比べ物にならないほどの圧倒的な感情を思考回路に流し込む。その結果、思考回路には強大な精神負荷がかかり、最悪の場合は脳死する」
「………私も危なかったのね」
「ソーダネ」
蒼也の顔には『そりゃあもうギリギリでした! その後に戦闘なんて本当はさせたくありませんでした!』と太文字マジックペンで書かれており、それを見た紅音は珍しくギョッと驚く。
蒼也や輝明に迷惑をかけてしまった事に責任を感じた紅音は素直に謝る事にした。
「わ、悪かったわ……暴走しちゃって」
「まったく、反省するのはそっちじゃないよ……」
「え……?」
「なんでもないよ」
そう言った蒼也の表情は、素直になれない少女と完全に重なった。
蒼也は紅音に聞こえないようにため息を吐くと、何もなかったかのように言った。
「さて、矛盾の事は粗方話したし、次は戦闘の説明をしていこうかな」
タイトルのoverloadの意味は過負荷、ここでは精神負荷のことを指してます。




