paradox〜理から外れた力〜
「まずは僕ら矛盾者が使う異能力、矛盾について説明しようかな……よっ」
蒼也はそう言うと右手を前に突き出して槍を生成する。
石突から赤い炎を灯すその槍は爆発の槍と呼ばれる蒼也の得意とする矛盾の一つだ。
「矛盾は使用者が強くイメージすることで生成することができるんだ。もちろん生成にも条件があって、人によって作れる矛盾の種類が決まっているんだよ」
「……私は盾、蒼也は槍ってとこかしら。でもあのツンツン頭は弓と剣を使ってたわよ?」
「それは輝明の生成条件が《勇者》だからだよ」
紅音は“勇者”というにわかには信じられない生成条件に眉をひそめる。
「勇者? そんな意味不明な生成条件アリなの?」
「輝明はまだまともな方だよ……生成条件は“思考回路”の形で決まってくるんだ」
紅音は聞きなれない言葉に疑問を浮かべる。
「思考、回路……? 考え方って事かしら。具体的にはどんなものなの?」
「う〜ん。例えば、僕と紅音さんじゃ同じ事を考えていてもたどり着く答えは全く違うと思うんだ」
蒼也は辺りを見渡し、公園にある六面体のオブジェを指差す。
「あれを見て、紅音さんはどう感じる?」
「分けのわからない謎のオブジェだなって思うわ」
「なるほど、僕は作るのが大変だっただろうな、と思ったよ」
蒼也は紅音に向き直ると説明を続ける。
「こんな風に考える内容は同じでも、考え方が違えば導き出す答えも違ってくる」
「なるほどね」
「もちろん、たどりついた答えが同じでも考え方が違う場合もある」
蒼也は突然カバンからリンゴを取り出して紅音に差し出す。
「例えば、リンゴが好きな人物が二人いたとして、一方は食感が好きで、もう一方は味が好き、といった具合にね。リンゴが好きという答えは同じでも考え方が違ってくるってこと」
「……言いたいことは分かるけどなんでリンゴなんかカバンに入れてるのよ」
「説明に使うと思って買っておいたんだ」
「マメね」
そう言うと紅音はリンゴを蒼也に投げ返し、自分なりの解釈を蒼也に説明してみる。
「数式で例えると、1+1と1×2の答えが同じ二である、といった具合かしら。つまり答えが同じでも同一の思考回路を持ち合わせているとは限らない、という事ね」
「……その通りだよ。まぁとにかく人それぞれの考え方が“思考回路”ってことだね」
蒼也はせっかくリンゴを用意したのに全く違う例えを(それも自分より上手い)出されて少し虚しさを感じた。
くだらないことで悲しんでいても仕方が無いのでリンゴをカバンにしまうとそのまま説明を続ける。
「以前、《変革》した時に身体中から火花が散る音がしたと思うんだ」
紅音は初めて矛盾を発動させた時のことを思い出す。
「……ええ、あったわ」
「僕ら矛盾者は思考回路に流れた何かによって人体が《変革》した存在なんだ。そして、その何かが流れた時、思考回路が導き出した答え、それこそが矛盾だ」
蒼也の言葉に紅音は不安を押し殺すような小さな声で問いかけた。
「私たちは、もう人間ではないのね?」
「……話を続けるよ」
蒼也には紅音の問いに答えることはできなかった。いずれ嫌でも理解することだった、そう心中で言い訳をした自分が腹立たしかった。
「ここまで話したら分かると思うけど、生成条件が限られているのは当然のことなんだ。何せ、自分の思考回路で導き出した答えが矛盾だ。その思考回路が出せない答えを発動させることは出来ない」
「……まぁ、1+1が3になっても困るわよね」
「そうゆうこと。当然、僕は盾を作ることも剣を作ることもできないんだ」
先ほどのリンゴでたとえるならリンゴの食感が好きなのに梨が好きですと答えるようなものだ。
蒼也は数式の例え方が分かりやすいな、とリンゴを買ったことを後悔した。
「ついでに生成条件はそのまま矛盾の能力名になってるんだ。僕は槍。輝明は勇者……って具合かな」
「私のは盾って感じかしら」
「そうだね。次は《精神負荷》と《暴走》についても説明しておこう」
蒼也はそう言うと爆発の槍を消して、新たに三方向にヤイバの分かれた槍、蒼刃の十字槍を右手に生成する。
「そのためにまずは矛盾発動の原理を説明しよう。小学校の理科で豆電球を電池で点灯させる実験をやったことある?」
「もちろん」
「なら話が早い。今回は電池の代わりに発電機で電球を点灯すると考えてくれ」
蒼也はそう言うと地面を蒼刃の十字槍で削り、発電機と電球、その二つをつなげる電線と電線の途中にスイッチを書いた。
「そもそも矛盾は何をエネルギーとして発動してると思う?」
「感情……かしら」
蒼也は答えが出てくると思っていなかったのか少し驚く。
「よくわかったね」
「使った時の感覚でなんとなくだけど」
「いやいや、すごいよ。そのエネルギー、つまり感情を生み出す“脳”が、この図で言う発電機。そして“感情”が電気だね」
蒼也は次に電球を指差す。
「これはもう分かると思うけど“矛盾”がこの図では電球と考えてくれ」
「……この電線は?」
「電線は“思考回路”。残りのスイッチが“イメージする”事って感じ」
蒼也は蒼刃の十字槍で地面の回路図を指すと説明を続ける。
「この回路図をそのまま電気的に説明すると、《“スイッチをオンする”事で“発電機”で発電された“電気”が“電線”を通り、“電球”が点灯する》って感じなんだ」
紅音はその説明で矛盾発動の原理が理解ができたようだった。
「つまり《矛盾の発動を“イメージする”事で、“脳”内の“感情”が“思考回路”を通り、“矛盾”が発動する》って事ね……どう?」
「正解……紅音さんは理解力が高いな」
蒼也は紅音の学校の成績が気になったが、とにかく今は説明しなくてはと頭を切り替える。
「矛盾発動の原理が分かったところで、次は《精神負荷》について説明をしよう」
あと一話か二話は説明が続きます……
今回は色々と設定が出てきましたが、完璧に覚えなくても全然問題ないです。




