異変
このゲームをプレイし始めた頃、エルナ-クではイベント中だった。
彼もその期間中に買ったので、
今、彼のステータス窓にはゲーム内の貨幣以外にも5千ポイントがある。
これを使うと大変強力な装備や能力も簡単に手に入れるので、
万一を備え、使わないで惜しんでいるところだった。
違うのはとにかく実際のお金だけは
エルナ-ク内部でどうしても受給することが不可能だと浪費できなかった。
「ふう。終わった」
スキルの選定まで終わらせたレイはため息をつきながら窓を閉じた。
溜まった宿題を片づけたように気分がよかった。
能力値が上がったからか体も軽くなったような気もする。
しかし、かれはまだ何をすべきかわからないままだった。
これがゲームのプレイだったら準備されたクエストに従うといい。
しかし、これはもう現実になったのだ。
また、クエストをクリアしながらチームを作ったり
色んなユーザーとともに力を合わせ、
ボスモンスターを倒さなければならない場合もあるはずだ。
しかし、今は一緒にパーティーを組むユーザーもいなく、
また、ボスモンスターはどうも危険である。
戦闘した場合、レイが死ぬ確率が非常に高い。
特にボスたちは基礎能力値がとても高く、
同じレベルでもNPCやユーザーよりはるかに強い。
10レベルの場合、人間の体力が10なら彼らは100だ。
「まあ、何かいいアイディアが浮び上がるだろう」
レイはまずそのように結論を付けた。
どうせ彼はこの世界で非常に優遇された位置にある。
エルナ-クのNPCより成長もはるかに早く、レベル限界もはるかに高い。
エルナ-クの人々は一所懸命修行しても年に1や2レベル上げるのも難しい。
また、レベル限界も平凡なNPCの場合、10ぐらいだという。
50レベルぐらいがレベル限界な人は十万人に一人いるかどうかだ。
彼らはいわゆる天才である。
だから性急になる必要はない。
「雑誌でも読んでみようかな。どれどれ」
レイはゆったりとした気分で近くのテーブルにある雑誌をつかんで読んでみだ。
このゲームで起きることが載っている週間エルナ-クという週刊誌である。
モンスター対策や過去の英雄である覇王アルサンに対する特集記事とか、
エルナ-クの有名人インタビューのようなものが載っており、
エルナ-クの世界観とシナリオに惹かれてゲームを始めた彼には
とても興味深い内容だった。
しかし、ある記事を読んでいる途中、彼の表情が大きく変わった。
「うそ。レイノスが死んだと!」
彼は大きい声で言った。
「そんなことありえないよ!」
記事によるとレイノスをはじめる剣術学校の生徒たちが召還魔法の途中に
事故で死亡したということだった。
当惑の色がレイの顔に現れた。
レイノスという生徒は、彼が知っている人なら
このエルナ-クという世界観を引っ張っていく英雄的なNPCだったためだ。
***
前述したようにエルナ-クはシナリオの完成度で大変有名なゲームである。
TV、新聞、雑誌を分かたず、
海外での人気状況に対する記事があふれ出るので、
ゲームを全くしない人でもこのゲームの名を知っている人がいるぐらいだ。
それでゲームを知って、プレイし始めた人もいる。
それにこのゲームにはまったゲーマーは、ゲームの公式小説と
アニメーションのDVDやBlu-ray、
フィギュア、音楽CD、また同人誌、同人ゲームまでも購入する人が多い。
このような二次市場の規模はもしかしたらナークが
ゲームで得る売り上げより大きいかもしれない。
レイも初めはテレビの特番を観て興味を持ち、ネットで調べ、
世界観と公式の短編小説を読み、ゲームにまで手を伸ばしたのである。
なので、レイがこのゲームをどうすれば上手く出来るかについては、
制限された情報しか持っていないが、
ゲームの世界観とその世界観をベースに拡張された叙事的な話については、
設定オタクと呼ばれても不思議ではないほど覚えている。
レイが知っているにはレイノスはこの壮大な話の最も核心に近い存在だ。
いわゆる主人公といえる彼は、
本来シースレインの貴族の家の生まれで、
その一族がほかの貴族の謀略により賊名を着きせられ没落することになる。
この過程でレイノスは賎民に格下げされるが、
それさえも奴隷として装ったのでできることだった。
彼は十二歳になった時、命をかけた脱出を敢行、奴隷制度を反対し、
商人が全てのものを支配する都市国家連合であるキャピタルへ行く。
レイノスはキャピタルの士官学校に才能を認められて奨学生に入り、
色んな冒険をしながら英雄として成長していくことになる。
レイが読んだ公式小説でレイノスの最終レベルは何と90を越えた。
これは即ち、人間兵器というほどの強さで、
当時の彼のクラスはグランド マスターであった。
設定上90レベルは10億に一人いるかどうかと思うほどの才能だ。
しかし、この90レベルさえもレイノスの限界レベルではなかった。
だが、レイノスが本当に重要なのは、単純にものすごく強い存在というより、
彼がそのような強い存在になり英雄になる過程で、
エルナ-クの国際情勢を完全にひっくり返してしまうためだ。
詳しい過程は非常に複雑だが、簡単に説明すると
彼は互いに反目していた五つの国を和解させて一つにまとめ、
人類大同盟を作り出すのに成功する。
このことがなぜ重要なのかというとこの同盟をベースとして人は
魔界と大決戦ができるようになるためだ。
プレイヤーがエルナ-クというゲームをしながら体験することになる
数多くのクエストは、
この大同盟を結成するまでの悪魔や人たちの妨害を防ぐことがほとんどだ。
それでエルナ-クのプレイヤーにとってレイノスは非常にお馴染みのNPCである。
そして、このようなキャラクターであるだけに、
製作スタッフ側も非常に力を入れて作ったので、
クエストで一緒に戦う場合、その強さに対する演出が戦慄させるほどかっこいい。
こういうストーリや演出などで人気も多いキャラだった。
「俺はあまり好きじゃないがな…」
レイはエルナ-クがとても正しい英雄でそんなに魅力を感じられなかった。
それよりレイノスの師匠、
レイノスと同じく世界最強の武人シルバーマスターウィ、
レイノスのライバルとしてよく登場していた特異なキャラであるメルティックの
ほうが好きだった。
もちろん女のキャラがもっと好きだったが。
エルナ-クも男のプレイヤーが多いゲームなので、
キャラクターデザインをはじめとして様々な面で
男のキャラより女のキャラが優れている。
それも仕方ないことだった。男のプレイヤーは女のキャラを選択したがり、
女のプレイヤーは女のキャラを選択する傾向が高いので、
こういうゲームはプレイヤーの性別によりアバターの性別を固定させない限り、
普通は女のキャラが圧倒的に多い。
「こんなに重要なキャラが本当に死んだと?」
レイはやはり信じられなくて週刊誌を持って記事を事細かに読んだ。
レイノスが死んだことは間違いないようだった。
ところがいったいなんで死んだのか?
「これ、元々はプレイヤーが解決する最初のメインクエストじゃん!」
再び記事を読んだレイの瞳が大きくなった。
どうやって死んだのかわかりそうだった。
記事によると士官学校でのある事故で生徒たちが
死んだと曖昧に表記されていたが、
公式の小説まで読んだことがある彼は分かる。
これが単純な事故ではないということを。
キャピタルの巨商の中の一人が学校に寄贈した物の中に呪われた武具があった。
学校はこのような武具を封印しておいて、ひょっとしたら起きるかもしれない
呪いを解ける用途で使うために保管しておくが、
この中には非常に特殊なものも時々ある。
魔界との通路になる触媒の役割ができるものなどもこれに含まれる。
ところが鑑定官がミスでその武具をまともに調査もしないで学校に搬入し、
その武具が学校で作動した。
そして、魔界で強力な悪魔が登場し、士官学校をはき捨てる。
ここでプレイヤーはレイノスと協力して、この悪魔を打ち倒す。
本来この武具は寄贈した巨商が政敵を処理するため使おうとした暗殺武器で、
何かのミスがあって学校に搬入された。
巨商がこの事態を急いで収拾しようとプレイヤーに秘密裏に依頼することが
士官学校に行くことになる経路だった。
これがレイノスとの初めての共闘で話の発端ともできる戦闘である。
しかし、この世界ではプレイヤーがレイ一人しかないゆえ、
誰もクエストを遂行しなくなり、
レイノスは一人でロルロヌと戦うことになったようだった。
「如何に英雄剣 レイノスでも青二才ではロルロヌを倒すことはできないよな」
ロルロヌは腕と脚を合わせて八つもある巨大な虫のような形のモンスターだ。
背は3mぐらいで、幅は5mの象をもっと醜く丸くした感じの
魔界でも最も恐ろしいほうに入るこのモンスターは、
楕円形の体の前後で虫のような口と目が付いており、
その八つの腕と脚を使って三人を同時に攻撃できる。
もちろん一人を三回連続で攻撃することも可能だ。
平均レベルが40に達するが、単純にレベルだけ高いことではない。
体力と力の基礎能力値も非常に高くて、
一発殴られただけで、大体の敵は死亡か瀕死になる。
当時のレイノスのレベルは20ぐらいだったから
勝つことができないのは当然である。
レイはこのゲームのもっとも重要なキャラである
レイノスが死んだことを知るとすぐ脳裏に疑問が浮び上がった。
‘本当に死んだなら…これからどうなる?’
レイノスの死は以後、
彼を中心に起きる数多くの事件が消えるということを意味する。
これは彼個人の問題ではない。
レイノスという個人によって成り立った
様々な国家間の同盟も消えるということであり、
その他にも彼が活躍して、
倒した無数の悪党と悪魔が生き残ってこの世界を闊歩するということだ。
「……!」
不吉な予感にレイは背筋がぞっとするのを感じた。
「世界連合が、崩壊される? いや、最初から存在さえしなくなる?」
それは本当に困ることだった。
万が一そうなると…。
彼の顔が真っ青になった。
「これじゃ世界は滅びる!」
すみません。遅くなって、前より量を増やしました。