五万ゴールド
強斬りは非常に良い技だが、使用は容易ではない。
発動までのディレー時間があるので、相手が避けることもあり、
敵のカウンターによって、発動がキャンセルされることもある。
特にマニーアイのように正面の目を見ることになる敵を相手にする時は
封印される技と言っても過言ではない。
しかし、メルティックが隙を作ったおかげでレイは安心して強斬りを使えた。
そうだ。
全てはメルティックのおかげだ。
天才というのは前から知っていた。
しかし、これほどとは。
レベルアップの速さが常識を超えたのはともかく、
あの戦闘センスは何なんだろう?
スポンジが水を吸い込むようだと言った方がいいかな。
最初は粗雑で危なっかしかったのがレイと一緒に戦闘をし続けると
あっという間に熟練された戦士みたいに戦えるようになった。
ただ単純によく当てて避けるのではない。
もしかして、未来を予測し、動くのではないかと思われる時もある。
攻撃をただ一度で終らせるのではなく、次回の攻撃まで繋げるように動き、
避けに移ると相手が防御しにくくなることまで読んで動く。
そういうのを一瞬で判断し、最適なパータンを常に選択しているのだ。
その上に自分にだけ最善ではなく、レイにとっても‘最善’になることを。
将棋でいう原田泰夫さんの三手の読み(こうやる、こう来る、そこでこう指す)を常に実行すると言えばいいだろうか。
メルティクは本当にレベルを超越した能力を持っている。
レイは、どうやって彼がレイノスとその仲間たちを
一人で相手できるのか身を持って知った。
‘この剣がなかったら俺は恥をかいたかも知れないな’
レイは自分の剣をちらっと見た。
この壊れない剣は強化を繰り返し、今はそこそこいい魔法剣をはるかに上回る
攻撃力と付加効果を有している。
刃が光る等のエフェクトがないのは他人の視線を引きたくないからだ。
それで別の処理をし、最初の古い剣の姿を維持している。
卓越した剣の基礎能力のおかげで、瀕死状態ではないマニーアイを
強斬り一発で倒す、偉業を達成したのだ。
少なくとも攻撃力の面だけはレイもまた自分のレベルをはるかに超えていた。
「レベルが結構上がりましたが、思ったより簡単に倒しましたね。
俺たち、すごくないですか?」
「ハハ、そうだな」
マニーアイは冒険者たちがチームを組んで相手するモンスターである。
ちゃんと準備をしないといけないのだ。
実は今回、初めてマニーアイと戦ったのでない。
最初は思いもしなかったところで会い、隙を見て逃げるつもりで戦った。
しかし、苦戦する中で結局メルティックが目の封印を解け、
何とかマニーアイを倒したのだ。
レベルが一気に上がったことは嬉しかったが、
もう一度マニーアイと戦うつもりはなかった。
ところがある事情で、再び戦うことになった。
けど、そんなに心配はしなかった。
徹底的な準備もし、前に戦ったこともあるので、
前ほど苦戦はしなさそうだったからだ。
それに本当に危なくなったら逃げればいい。
マニーアイを倒したり、そのまま逃げたりを何度も繰り返し、
もうこのように簡単にマニーアイを倒せるようになった。
レベルも結構上がり、よりいい装備を身に着けた。
それで、もうマニーアイ一匹や2匹ではレベルアップを期待できない
段階になってしまった。
「早くアイテムを回収しましょう」
「うん。そうしよう」
二人はマニーアイが落としたアイテムを拾い確認した。
特に珍しいアイテムはなかった。
しかし、嬉しいことがあった。
今回の戦闘で二人の持ち金が五万ゴールドを超えることになったのだ。
メルティクは歓呼しながら
「おお。これで五万ゴールド達成!」
「ああ、長かった。実に長かった」
レイは長いため息をついた。
このダンジョンでずっとモンスター狩りをしていたのは
レベルアップよりお金のためだった。
レベルももちろん目的ではあるが、
ここは今の二人にとっていい狩り場ではない。
マニーアイを除くとレベルが高い敵はいないので、
もっと高レベルのモンスターが出てくるところへ行かねばならない。
しかし、あえてここを選んだ理由は安全にお金を稼げるところで、
拠点からも近かいからだ。
「ふふ」
レイは自分が言った‘長かった’という言葉に笑ってしまった。
五万ゴールドは現実で五千万円。
このダンジョンで狩りをし始めたのもそろそろ一ヶ月になる。
なのに五万ゴールドとは。
あんなに大金を稼ぐのに一ヶ月は決して長くない。
冒険者が高危険、高収益を得る羨望の職業なのを実感する瞬間だった。
「ところであいつは何で俺たちに五万ゴールドを集めてくださいと
言ったんでしょうか」
「さあ。何かいい考えがあるからだろうな」
「そうですね。あいつのことだからきっとそうでしょうね」
メルティックはぶつぶつ言いながらもレイの話に首を縦に振った。
メルティックも合流してから、ペイロンの名探偵並みの洞察力を何回も見てきた。
彼が二人に無駄なことをさせるはずがないのは知っていたのだ。
「とにかくレベルももうちょっとで三十ですね!」
「うん。同レベルになる日も遠くはないな」
メルティックが元気いっぱいで話した声にレイはそう呟いた。
彼の成長が早いとは思ったが、もうすぐで三十とは。
どうやらメルティックは成長のための必要経験値が
レイや他のNPCよりはるかに低いようだ。
それも一種の才能でもあるだろうが、レイには悔しい気持ちもある。
もっともレイはいくら強くなってもレベル制限によって50が限界なので、
それを突破する方法を見つけないと特に意味はない。
五万ゴールドを集めた理由、
そして、ベイロンの考えは明日連載します!