大規模の戦闘
エルナークというゲームがある。
LAST TRAVELシリーズ、RED SWORDシリーズで有名なRPGゲームデザイナー
松井悠人が、世界最高のMMORPG製作会社であるナークに入社し、
製作を務めたこのゲームは、会社初のVRMMORPGにも拘らず世界的に大ヒットした。
ゲームのバランスが神がかっており、
強キャラ、弱キャラの差はほとんどなく、
多くのプレイヤーが戦略的に動くリアルタイムの共闘バトルは
非常に好評であったからだ。
それだけではなかった。
運営がクリアに1ヶ月はかかるだろうと思ったボスを、
たった一日倒すこともざらであるこの時代であるだけに
無意味な開発時間稼ぎ用または、強化クエストが多い中、
エルナークは正反対の道を歩んだのである。
三ヶ月に一回の大規模アップデートと
数百回に及ぶ小規模アップデートによるコンテンツの提供。
これにより、パワーインフレのことも多く修正し、
プレイヤーたちは飽きることなく、ゲームをやり続けた。
そして、このゲームの特徴は何といっても世界観を背景に成り立つ
壮大な叙事詩である。
最初はいいけど、5回ぐらい大規模アップデートされると
ダメになるゲームが多いが、
エルナークは珍しく支離滅裂荷にならず、最後に向かって走っている。
これは既存のゲームと違い、シナリオライターを多く取り入れ、
その中で会社がいいと思ったシナリオ、クエストだけ選択するシステム
のおかげである。
このゲームを奇跡的だと表現する批評家たちも少なくなかった。
日本だけではなく、アメリカ、ヨーロッパ、中国、韓国などで
二次創作のブームが起こったのも頷ける。
このエルナークもこの前のアップデートで最後の戦争まであと少しということ
を意味する様々なクエスト、新しいモンスターが登場することによって、
プレイヤーたちをワクワクさせた。
そして、新規プレイヤーたちを誘う様々な企画により、
新規の人も増える好循環が続いていた。
***
巨大な獣が毛をぎりぎり立てて、周辺を包囲した人間を睨んでいる。
真っ白に表わした鋭い牙。それはジャイアンツウルフだった。
レベル25ぐらいのこのモンスターは、
そこそこの実力を持つ人が一人で相手できることはできない。
ベアがレベル10ぐらいなのを思うと本当に恐ろしいモンスターである。
特に敏捷性が優秀で、攻撃が当てにくく、敵の攻撃を避けるのも大変だ。
最近、村の家畜の被害が多く、森に採集を行くことも危険になったので
退治してくれと村長から依頼があったのだ。
傭兵団はその依頼を受け、
このようにジャイアンツウルフと全面対決することになった。
包囲している傭兵団の隊長シェールは
ロングソードを握った手から力を抜かないまま右のほうにいる者に命令した。
「ベル、今だ!」
ベルと呼ばれた指揮官が剣を抜き突撃し、
彼について多くの部下が突進した。
ジャイアンツウルフは彼らを迎え、巨大な前足を振り回しながら攻撃した。
それをベルは防いだ。キカーンという音が出て、ベルの攻撃が弾かれた。
しかし、この攻撃のおかげでジャイアンツウルフの動きに隙間ができた。
その時、ベルの部下たちが自らの武器を敵に向かって深く刺した。
ぶすっ、ぶすっ!
ジャイアンツ ウルフはその攻撃に何の抵抗もできないまま悲鳴を上げだった。
しかし、傷から血は出なかった。
シェールがまた叫んだ。
「レイ!」
「はい!」
左側に剣を握って待機していたレイが、返事をしながら剣を持ちあげ、
彼が隣にいる弓部隊がジャイアンツウルフに向かって矢を撃ちはじめた。
飛んで行く矢が敵の厚い皮を突き抜け刺され、
ジャイアンツウルフはより一層苦痛にもがいていた。
そこで終わらなかった。
傭兵団の二人の魔術師が魔法を完成させ、火口が空に浮び上がったのである。
熱が周りを覆い、ジャイアンツウルフに向かって伸びていく。
ドカンという爆発と共にジャイアンツウルフがまた苦しんでいた。
毛に火がついたのである。
レイは心の底から喜んだ。
これであのモンスターは数十秒、
魔法の付加効果による追加ダメージを受けることになる。
しかし、それが終る前に死にそうだった。
すでに息が上がりそうだったためだ。
最後の一撃を加えると得られる追加経験値を逃したくなかったレイは、
ジャイアンツウルフに向かって走り、勇敢に剣を突き刺す。
ぶすり! という感触が手の中から感じられ、
剣がジャイアンツウルフの体の中へ深く入り込む。
皮膚が裂け、中が表れたが、血は噴き出さなかった。
それでも十分に大きい傷であった。
それが致命打になったようでジャイアンツウルフは
呻く音を出しながら倒れてしまった。
レイの耳元でピンポンという音が聞こえた。
レイにだけ聞こえる音だった。