プロローグ(4/1から加筆、修正して再連載)
「ついにこの時が来た!」
彼はずっとやりたかったゲームをプレイできることに興奮していた。
PX5で4万円、バーチャルリアリティゲーム向けの大型のヘッドギアで2万円、
プレミアムパッケージで9,000円。
校則によってアルバイトが禁止な学生にとっては大きな出費である。
「三国誌並みの設定ついにプレイできるんだ!」
それはエルナークというVRMMORPGだった。
「特典のコードはこれだったよな」
PX5を初めて起動すると新規加入者限定でネットワーク3ヶ月利用権が
自動で発動するので、今すぐネットワーク利用権を買う必要はない。
彼はコード入力欄でオフィシャルコンプリートガイドに収録されている
16字のコードを打ち続けた。
プレミアムパッケージには赤い武具セットをプレゼントします。
(赤いショットソード、赤い盾、赤い兜、赤いアーマー、赤いグローブ、
赤いズボン、赤いスカート、赤いブーツ)
「おお、これが噂のプレミアムパッケージ限定セットか。すごいな。
よし。次はこれだ」
今度はゲームショップで買ったカードに書かれているコードを打ち続けた。
これはネットワーク向けのカードで、
ここに書いている購入金額分だけネットワークで買い物ができる。
プレイヤーは服を買ったり、アイテム課金をしたりする。
「まず、5,000ポイントにしようかな。
ちょうど3,000円で3,500ポイントを5,000ポイントにアップする
期間限定のキャンペーン中だしな」
エルナークは最初にソフトを一本買わないといけないゲームで、
月額料金はないが、PC専用のVRMMORPGと比べて課金システムは酷くない。
月1,500ポイント使うとプレイには何の支障もないのも人気要素の一つである。
ガチャで多くのポイントを使う人もいるにはいるが、そんな人はごくわずかだ。
「よし、もう下準備はOK!
じゃ、インストールして、プレイするか!」
彼はPX5にディスクを入れ、インストールを始めた。
インストールが終わり、アップデートの画面が出たので、
それに同意し、また画面を見続けたら
突然、画面が真っ黒になった。
「うん? 何だこれは。
アップデートに何か問題でもあるのかな?」
彼が疑問に思ったのもほんの一瞬。
今度はその画面から眩しい光が出るのだった。
「うあああ!」
彼の悲鳴と共に彼の姿が消えてしまった。
***
レイはある草原の上に立っていた。着ている服は赤だらけだった。
変わっているのは腰につけたショットソードぐらいだった。
「な、何だ!こりゃ!」
彼はきょろきょろ見ましながら何かおかしいところが無いのが確認してみた。
その瞬間、彼の目の前には目で見る世界とは信じ難い
ディスプレイが浮び上がった。
それはゲームで出そうなホログラム窓だ。
そのホログラム窓はホログラムやレーザーによるものではなかった。
一体どこから来たのかは分からないが、その窓には、
名前 ツルギ レイ
レベル1 (限界50)
知能11
体力10
力9
敏捷性10
カリスマ10
職業なし
というもの以外に様々な情報が記入されていた。
少年は目を狭め、その窓をあれこれ調べた。
しかし、今の状況を説明できるものは何も出なかった。
「一体何なんだよ!」
彼はついに諦めたようにため息をついて、床に横になった。
ふわりと浮び上がっていたステータス窓は
彼の視線が遠ざかるとすぐに消えた。
草原の草が襟首をくすぐる感触が鮮明だった。
「ゲームの中とは…」
しかし、考える暇もなかった。
モンスターが近づいてきた。
その姿はウルフ。
ファンタジーを元にしたゲームによく出るモンスターだが、
レベル1の彼にとっては侮れない相手である。
「どう戦えばいいのか分からないよ!」
そうだ。
彼はコンプリートガイドやネットのサイトで戦闘に関する部分は
まったく読んでいなかった。
ストーリや設定が好きなこともあり、
ゲームのガイドブックはどうしても進まない時だけ読むほうだったのである。
それになぜか普通はプレイの始めに出るチュートリアルが出ないのだ。
「とにかく剣を抜こう!」
その瞬間、鋭いウルフの牙が彼を襲う。
「うぉー」
「うああ」
彼は悲鳴を上げながら赤いショットソードを振り回した。
そうするとウルフの牙は赤いアーマーを掠り、剣に殴られ、倒れてしまった。
「え」
彼は状況を理解できないままぼっとしていた。
「そうか。限定セットは強いのか。
とにかく助かった」
彼はため息を吐きながら頭を掻く。
とにかく今起きていることは自分が知っている言葉では
説明できないほどおかしい。
こんなのは漫画や映画の中であることだと思ったのに、
それを経験することになるとは。
表現できない感情や感覚を驚異の瞬間に話す時、よく使われる言葉がある。
彼の口からもその言葉が出てしまった。
「これが夢なら覚めてくれ!」
レイ、17歳の春の時だった。
はじめまして。既存のエルナークを加筆、修正して、4/1から再連載いたします。
よろしくお願いします。