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九条の選択  作者: 日野森
19/21

19 孤独な将軍



門の外には、同じように馬に乗った兵たちが待ち構えていた。


簡易な皮の鎧を纏っている兵たちは、透が現れたのを見るなり、一斉に姿勢を正した。


「常磐」

「は!」


透が名を呼んだ人物が、一歩馬を進めて透の前に出てきた。

常磐、と呼ばれたその人は、焦げ茶色の短髪に、右眉の上にある大きな傷跡を持っている若者だった。

年の頃は透と同じか…少し上だろうか。


この世界に初めて来た時、志乃を取り囲んでいた男たちよりも、ずっと兵らしい体格をしている。

持っている槍も長く、兵として実践を積み重ねてきただろう、そんな威厳があった。


「今日は、朝霧の宝刀を使える者を連れて行く。討伐に慣れていない者だ、支援を頼む」

「分かりました」

「加古と松島も頼んだ」


常磐の後ろに控えるようにして馬を連ねていた二人の人物が透の言葉に頭を下げた。


「あの、志乃です。よろしくね」


透の後ろからひょこ、っと顔を出し、志乃は自分の名を名乗った。

軽い自己紹介のつもりだったのだが…周囲が一斉にびしっと姿勢を正した。


「誠心誠意、お仕え致します」


一斉に堅苦しい挨拶で返され、志乃は何とも言えない表情で乾いた笑いを浮かべるしかなかった。




総勢二十人にも及ぶ兵たちに囲まれ、志乃と透は街の中心からは外れた道をどこかに向かって淡々と進んでいく。

目の前に小さな山が見え、その周囲に森が広がっている。

また、ここに来た日のように森へ行くのか…と思いつつ、志乃はぎゅっと透の服を掴んだ。


「あ、そういえば……森で初めて透に会った時は常磐さんたち、いなかったよね?」


ここに来た日のことを思い浮かべながら、志乃はふと疑問に思ったことを口にした。

数人の兵がいたが、どの人物もそれほど腕が立つような印象は受けなかった。

あの時に比べ、今回は随分と仰々しい団体編成だ。


「あの時は、大した討伐じゃなかったからな」

「え?今回はそんな大掛かりな……」

「いや、手のかかる新人がいるからだ」

「へー……それ、まさか私?」

「そうだ」


迷うことも、やんわりと伝えるでも無く、透はあっさりと肯定した。

相変わらず、直球で物事を言ってくるな…とふて腐れると同時に、志乃は、透がそれなりに考えて、自分が危険な目に合わないようにしてくれているのか、と少しだけ…今回の討伐に対する不安な気持ちが和らいだ気がした。


「そういえば、さっき言ってた加古さんと松島さん…どっちが加古さんか、松島さんかまだ聞いてない」


出発前に透が軽く名を呼んだだけの存在だった加古と松島。

どちらが誰かということを志乃はまだ知らなかった。


「あの長刀を持っているのが加古だ」

「加古さんね」


ちら、と後ろを見ると、長刀を腰から差した加古の姿が見えた。

志乃と同じくらいの長さの黒髪を一つに束ねている加古は、透よりも少し年下に見えた。

どこか幼さの残る顔立ちをしている…もしかしたら、志乃と同じぐらいかもしれない。


「加古さんの年齢って、私と同じぐらいなの?」

「加古はああ見えて俺より年上だぞ」

「え!っていうか、透って幾つなの?」

「俺は25だ」


へー、と志乃はまじまじと透を見た。

まあ、透の年齢は見た目からしても、妥当なところだろう。

加古が透より年上ということが、どうにも驚きだった。


「加古は28だ」

「え、見えない!」


もしかしたら同い年ぐらいかな、と思っていた志乃にとって、その年齢は予想外だった。


「年上と知らずに失礼な態度取らなくて良かったー」

「お前は俺に対しても同じ気持ちを持てないのか?」

「え?そんな失礼なことした?」

「…いや、もういい」


呆れる透に対し、志乃は何か失礼なことしたっけーと記憶を掘り返してみた。

だが、特に何も思いつかなかった。

むしろ、透の方がよっぽど失礼なヤツだった。そんな記憶しか無い。

というより、透は年上だろうけれど、そんな態度を改めるような相手では無い気がした。

それは悪い意味ではなく、良い意味で。

何だかんだで志乃は透に言いたいことを言える。透も言いたいことを言ってくる。

お互いに気を遣うような相手では無い、と思っていた。


「加古の隣が松島だ。弓矢の名手だから、何かあれば遠方から支援してくれる」

「松島さんね」


志乃は再び後ろを振り返った。

常磐や加古と比べ、少しだけ華奢な印象を受ける松島は、長く美しい髪を高い位置で一つに束ねていた。

見目も麗しく、この軍隊の中では少し異質な気もした。


「…なんか、中性的な人だねー」

「松島は女だ」

「…女の人なの!?」


弓矢を持って、馬を駆けて戦場に赴く…女性。

凛々しく、堂々としている姿に憧れもするが、志乃には到底、真似出来そうにない。


「こっちの世界では女の人も普通に討伐に出たりするの?」

「才能があればな。松島は弓矢の腕を認められて入った」

「ふーん…試験とか、そういうのがあるの?」

「常磐が有能な人物を見つけてくる。討伐に連れていって、使えるなら使う」


常磐という人物がこの軍の参謀のような存在なのだろうか。

槍を構えたいかつい兄ちゃんぐらいにしか思っていなかったが…

色々と九条軍の為に奔走しているのだろう。


「…透は将軍なんでしょ?この九条軍の」

「そうだ」

「将軍ってどんな仕事なの?」

「…俺は九条軍を纏めたり、そういうことをしていない。ただ戦っているだけだな」


後ろからついてくる総勢二十名にも及ぶ兵たち。

透はその者たちを纏めることをしていないのだと言う。

そういう仕事は常磐に任せている、と透は続けた。


「…ただ戦うだけって…なに?」

「結界の修復や、ちょっとした後方支援は兵にも任せるが…怪と戦うのは俺だけで十分だ」

「どうして?皆で力を合わせる方が心強いんじゃないの?」

「一番安全で手っ取り早い方法だ」


一番安全な方法…

透が一人で戦うというのが、一番安全なのだろうか。


戦わなければ、存在意味が無い。


透が言っていた言葉を思い出し、志乃はもやもやした言いようの無い感情に襲われた。

戦わなければならない。

それを苦に思っていないと言っていたが…

戦うのは、これだけ大勢の仲間がいるというのに…透一人だと言う。


広い屋敷でも、大勢の仲間の中でも…透が一人ぼっちに思えて仕方が無い。


怪と戦うなんて嫌だし、逃げたい気持ちもある。

それでも、透を助けてあげたいという気持ちが少し湧いてきた。

大きな屋敷でも、この討伐軍の中でも…周りにどれだけ仲間と呼べる存在がいても。

志乃は透が孤独に思えてしかたなかった。



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