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九条の選択  作者: 日野森
14/21

14 存在の意味


朝起きると、知らない天井が目に入った。


ここどこだろう、あー変な世界来ちゃったんだっけー

と思いながら、志乃は寝ぼけた頭で寝返りを打ったら…隣には何だか知らない温もり。


「…は?」


まじまじと隣を見ると、綺麗な黒の瞳と目があった。

うーん、夢だ。何もかも夢だ。

そう自分に言い聞かせ、志乃はもう一度眠ろうと目を瞑った。


そんな志乃の額を、隣で眠っていた人物・透がベチッと叩いた。


「……は?」

「朝だ。起きろ」

「……え、っと、なんで……」


昨日会ったばかりの男と同衾なんて!

志乃は勢い良く布団から飛び出した。


「あ、あんた……まさか私の寝込みを……!」

「安心しろ。お前には興味が無い」


貧相な子供だからな、なんて付け加えられ、志乃は目の前の人物に向かって枕元に転がっていた本を投げつけた。

別世界思想、なんて書かれた本は目の前の人物、透に当たる前に、その手で振り払われた。


「どこででも寝るヤツだな。中庭の岩の上で眠ったままお前を放っておけば良かったか」

「え、岩の上!?」


確か、夜風が心地良くて……目を閉じてしまったんだっけ。

まあ、その後の記憶は一切無い。


「今度からはお前が岩の上で寝ようが、砂利の上で寝ようが放っておく」


うーん。

我ながら情けない。

志乃は暫く唸ってから、小さく頭を下げた。


「ご、ごめん」

「分かればいい」


何だか気まずいな、と思いながら志乃は布団からのそのそと抜け出した。


「……ところで、ここって」

「俺の部屋だ」


志乃は自分が今いる部屋をぐるりと一回り眺めてみた。


志乃に宛がわれた部屋と同じぐらいの広さの部屋の壁には、本や地図、そして刀などの武器が並べられている。

枕元に近い壁には、一面に大きな地図が貼り付けられており、その周囲にも幾つかの小さな地図が不規則に貼り付けられている。

その隣の壁には刀や薙刀、槍や弓矢が一面に並べられている。

足元の壁には天井まで続く本棚が壁を覆うようにびっしりと置かれている。


部屋の入口は、一面が障子になっているのだが、その手前に今は隠されている鉄製の内扉まで取り付けられるようになっている。


何だか異様な雰囲気の部屋だった。

綺麗な装飾品などどこにも見当たらない。

布団を敷いて寝るような場所でもないように思う。


「……殺し屋のアジトみたいなのね。もっとこう…落ち着く部屋にすればいいのに」

「これが落ち着くんだ」


気になることがあればすぐ調べられる、何かあればすぐに武器を手に取ることも出来る。

透にとって、この部屋は心落ち着く場所だった。

それが志乃にとっては、異常にしか思えなかった。


「…なんこう、他に趣味とか無いの?」

「無いな」

「でもさ…こんな、毎日武器とかに囲まれてたら、疲れないの?」


まるで戦うことだけが生活のような、そんな様子を呈している部屋だ。

それだけの毎日だと、とてもじゃないけれど志乃は耐えれない。


暫くの沈黙の後、透は自分の手元を見ながら、ぽつりと呟いた。


「それ以外に生きる道は無い。戦わなければ、存在意味など無い」


随分なことを言う。

志乃は眉間に皺を寄せ、透の肩を叩いた。


「何で……そんなこと……」

「決められたことだからだ」


決められたこと……

この国の軍隊的存在だから、だろうか。

帝の直系の一族だというのに。皆から傅かれているような家柄だと言うのに。

透の物言いは、その為だけに存在し、生きているかのようだ。

この「九条家」は、透をどういう風に扱っているのだろう。

一応、跡取り息子ではないのか。


「……分からないこと、言うのね」


大切な跡取り息子を戦いに出すのが、この世界の普通なのだろうか。

獅子は子を谷底へ突き落とすということわざがある。

そういう類の話なのだろうか。


一体、誰がそれを決め、透に課したのだろう。

透の親だろうか。それとも、帝という存在だろうか。


志乃自身にも、戦うことを課してきた透だが。

今の透の言葉には、それよりもずっと重たい意味があるのだろう。

志乃は、売り言葉に買い言葉で、勢いのまま、怒りの赴くままにそれを受けた。

だが、機会があれば逃げ出してやろうかなとも思っている。

ある程度自活出来る知識と、お金さえあれば、早々にそんな危ない仕事からは足を洗ってやるつもりだ。

それに、帰る方法が見つかったら、すぐにでも帰るつもりでいる。


そんな自分と比べ、透は決められて、それ以外の道を選ぶことなど出来なかったのだろう。


「分かりやすい話だ。決められたことをしていればいいだけだ」

「……そう、かな。それは、なんていうか…苦になったりは?」

「しない」

「…そっか。なら、まあいいや」


苦にならないと即答したのであれば、まあ心配する必要も無いだろう。

志乃は少し安堵した。

色々な考えが頭に巡って、もしやこれって虐待の類でこうなったの?などと思うようになっていたので…

透の「しない」という即答っぷりに余計な想像や心配が無くなった。


「俺はお前の方が分からない」

「会話が成り立たないってやつ?」

「それもだが……」


何かを言いかけた所で、透は黙り込んでしまった。

前に言われた「会話が成り立たない」ということ。

まだ今日は成り立っているはずだ。

それ以外にも分からないことがある……岩の上で寝るとか、そういう話ならもう掘り返さないで欲しい。

何が分からないのだろう、と志乃はただじっと透の言葉を待った。


だが、透はそれ以上、その話を語ることは無かった。


「お前に言っても、理解出来ないと思うからな」


代わりにさらっと馬鹿にされ、志乃は近くにあった枕を透に投げつけた。

もちろん、枕は軽く跳ね返され、志乃の顔面に直撃することとなった。



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