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九条の選択  作者: 日野森
13/21

13 意識の彼方に


静かな部屋の中……

そっと瞳を閉じて、志乃は今日あった出来事を思い出した。



帰りたくないなーなんて思って、引き返した途端に世界がぐにゃりと歪んだこと。

そして意識が飛んでいって、気が付いたら知らない森の中にいて、知らない人たちに囲まれていたこと。


あの偉そうな透に会って、腹を立てて……

森の奥で化物に襲われた、こと。


今更ながら、志乃はあの化物の姿が目の裏に浮かんできた。

いくら意識を他へやろうとしても、化物の牙や爪が襲い掛かってくるイメージが拭えない。


その牙と爪が、いつの間にか人の手にすり替わる。


その手を払いのけ、目の前の顔を平手で殴った。

目の前の顔は下品な笑いを浮かべた後、同じように頬を殴りにくる。


許さない、こんな男、許さない。



志乃は悪夢から覚めるかのように、ハッと意識を戻した。

燭台の蝋燭が先ほどよりずっと短くなっている。

いつの間にか眠ってしまっていたらしい。


「……最悪」


なんて酷い夢を見たんだろう。

志乃は頭を掻きながら、ゆっくりと布団から抜け出した。



無駄に広い部屋を出ると、そこには廊下を挟んで、これまた無駄に広い中庭が広がっていた。

月夜に照らされた中庭は、砂利がキラキラと淡い光を放っていた。


ゆっくりと中庭に降り、志乃は近くにあった岩の上に腰掛けた。

肌の上を滑る夜風が気持ちいい。

さわさわと草木が擦れる音も、とても心を穏やかにさせた。



「……帰りたいのに」


帰りたい。

母に会いたい。

友達だって会いたい、部活にだって出たい。


だけれど、帰りたく無い理由もある。


「おかあさん……」


助けて、お母さん。

志乃は膝を抱えて蹲り、溢れてくる涙を肩で拭った。



いつ帰れるか分からない恐怖。

化物と戦わなくてはならない恐怖。


そして、帰っても待ち受けているだろう……恐怖。


帰りたい。

帰りたくない。


そんなことを頭の中で繰り返していると、ガタ、と物音が聞こえてきた。



「……透」


音の方を見ると、中庭に降り、こちらに向かってくる透の姿が目に入った。


「また泣いているのか」

「……悪かったわね」


ふい、と顔を背けてみたが、透はそんなことを気にかける様子も無く。

黙って志乃の隣に腰掛けた。


「恐いのか」

「……恐いわよ」


ぐす、と鼻を吸いながら、志乃は顎を抱え込んでいた膝の上に乗せた。


「九条の家に伝わる宝刀の一本、朝霧の宝刀は、俺の曾祖母が作ったそうだ。曾祖母は、神族との間に成された子だったそうだ」


ぽつり、と透が空を眺めながら話し始めた。


「曾祖母は、受け継いだ神族としての力と命を使って刀を生み出した。九条の名を持つ者が扱える刀と言われていたが……今まであれを扱えた人間は誰もいない。志乃、お前以外に」

「なんで私なの」

「何故だろうな。あれはもう一本の九条の宝刀よりずっと強力な武器だ」


たった一太刀で怪を砂に変えてしまった。

曾祖母がその力を全て注いで作っただけのことはある。


「だから……手助けして欲しい。お前のことは必ず守る。傷つけさせない」


真っ直ぐな目で、透が志乃を見つめた。

漆黒の瞳には、確固たる信念が宿っており、その言葉が嘘では無いことがすぐに分かった。


「……ありがとう」


悪態ばっかりついてしまったけれど、透はそれなりに考えてくれていたのだろうか。

そう思うと、少しだけ気持ちが軽くなった。


この世界での恐怖から守ってくれる、そんな存在がいる。

偉そうで傲慢なヤツで、嫌いだなんて思ってた。

でも、今はとても頼れる存在な気がする。


夜風の気持ちよさに、志乃はゆっくりと瞼を閉じた。





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