01 小さな干渉
何かを選ぶ時、
その選択肢の数だけ異なる世界が存在する。
それは小さな選択の中にも存在する。
朝、牛乳を飲むか、コーヒーを飲むか。
その単純な選択にも、選ばなかった方の世界というものが存在する。
だが、そんな小さな選択で世界は大きく異なる訳では無い。
大差無い違いの世界は別れた後、再びぶつかり、もう一度一つになる。
そしてまた、次の選択の時に別れる。
それは全ての物の全ての選択に起こる「並行世界」
しかし、もし……
世界が生まれた時の小さな選択が大きな違いを生んだら?
世界が形成される時の選択、
進化の選択、
それらはやがて大きな違いを生み、世界を全く違えてしまった。
こちらでは当たり前のものが、あちら側には存在しない。
こちらでは有り得ないことが、あちら側の日常なのだ。
それは幾つもある、全く違う道を辿った並行世界たちの姿。
何もこの世界の常識だけが、全てでは無い。
そんな元は同じ星屑だった世界たちは、ふとした選択の時に繋がることがある。
大差ない違いで生まれた並行世界がぶつかって一つになるように、少しだけ互いにぶつかり合う。
もう全く異なってしまった世界は一つになることなど出来ない。
だが、繋がった時に互いの世界に少しだけ、干渉すること出来る。
それはほんの少しの干渉。
世界にとっては何の変化ももたらさない、小さな干渉。
例え、誰かの人生を大きく変える干渉になっても、世界にとっては何ら変化をもたらさないのだ。
はあ、と溜息が静かな夜道に響いた。
部活からの帰り道、その足取りはとても重い。
部活で疲れているせいでは無い。持っている防具や竹刀のせいでは無い。ただ、家に帰りたくないからだ。
はあ、と彼女は再び溜息をついた。
肩まで伸びた真っ直ぐで癖の無い黒髪、それと同じような黒い瞳。あまり日焼けしていない色白な肌はそれでいて健康的だ。
膝より拳二つ分は短い濃紺のスカートに、濃紺の襟の白いセーラー服。胸元のリボンは赤で、それだけが地味な制服の中で主張している色だった。
曲がり角を曲がれば、すぐ家だ。
彼女はその曲がり角の手前で立ち止まった。
帰りたくない。
時間でも潰そう。
彼女は、家に帰る道では無く、元来た道に足を向けた。
それが彼女の明暗を分けた選択だった。
普通ならぶつかり合って無くなるような、そんな並行世界のはずだった。だが、彼女の選択は、全く異なる世界同士がぶつかりあう引き金となった。
来た道を引き返そうと一歩を踏み出した彼女の耳に大きな爆発音が響いた。驚いて辺りを見回してみるものの、何ら変わりは無い。何かが燃えているとか、事故が起こった…なんてことは無かった。
ただ、静かな住宅街が広がっていた。
静か過ぎる住宅街が。
「……え?」
ぐにゃりと世界が歪み、それと同時に、目を開けていられないような突風が吹いた。まるで重力が無くなったかのように体がどちらを向いているのか分からなくなった。
突風に耐えて薄っすらと目を開けると、そこには真っ黒な世界が広がっていた。
「う、そ……」
その言葉を最後に、彼女の意識は遠ざかっていった。