陸 ~思惑と絶望の路地裏~
雨が降ってきた。
気づいたら、すでに8時を回っていた。
彼に誘われたのは、午前中。
集まる約束した時間は3時。
それから、5時間もたったんだ。
まず、この地図に記載されているところ自体、遠い。
ここまで来るだけで、一時間はかかっている。
でも、やっとたどり着いた。
初めて来たけど、全く人気がないところ。
さっきまでいたお店の街は、発展途上でビルが立ち並ぶけど
今いるこの町は、まるで人と活気すべてが先ほどの街に吸収されたみたい。
少し歩くと、曲がり角が見えた。
「ここね・・。」
雨が激しくなってきた。
レインコート越しに伝わる冷たさ。
人気もない路地裏に、雨の音で悍ましい活気が出る。
もう雨の音しか聞こえない。
夜から降る雨は、予想を早め、予想を上回る激しさで降っている。
それはつまり、“紛らわしい音が消える”ということ。
人を殺すには絶好のチャンス。
体を打つ雨は、寒さと共に恐怖を落とす。
だが、最初からその恐怖もない。今、銃を握り締める。
もう慣れたことだから。
携帯を取り出す。
雨で濡れながらも、確認する。
この曲がり角を曲がったところに、バツ印がある。
少し入り組んだ路地裏。真夜中に行ったら怖そう。
人気もないし、ちょうどよさそう。
・・・この地図の指示が、本物かどうかはわからないけど。
この曲がり角を曲がれば・・曲がれば・・!
自然と息が荒くなる。彼女を助けるため。殺すことは簡単。
だけど今回は相手が違う。
私情は捨てたはず。だけど、少し引っかかる部分がある。
「仲良くなりすぎたかな。」
元々、仲良くする気もなかったのに。フリをしてたら、いつのまにか本物になりかけてた。
独りを貫く。それが私の本職。
殺し屋としての。
銃を構えた男。
寒いのか、それとも怖いのか、ひどく肩が震えている。
全身があんだけ濡れれば、当たり前かな。
横顔が見える。
自分の存在に気づいていない。
銃を構える。
あとは瞬時に引き金を引くだけ。
そうすれば。彼女は戻ってくる。
そして、私の“仕事”が終わる。
それから。電話口のあいつに。復讐をしよう。
引き金をひく。
・・・・・銃声。
心臓を一発。即死かな。
倒れたあと、私を睨んでたようにも見えたけど。
ごめんなさい。
・・・あなたにはお世話になったわ。
偽物の友情。なかなか良かったわよ。
おかげさまで、私に惚れたようだけど。
残念、そう簡単に落とせない女だから。
それに、私には、かけがえのない唯一の友人がいるの。
あなたと違って。普通の人間。
殺し屋と仲良くやるっていうのも、なかなかスリルあって面白かったけど。
やっぱり、仕事じゃなくても、あなたとは付き合えないわ。
数秒間、男の死体を眺めたあと、もうひとつの曲がり角を曲がる。
そこに彼女が待っている。私の唯一の友人。
彼に、殺させはしない。その一心でここまで来た。
これでもう、殺し屋なんてやらなくていいんだ。
普通の人間として、彼女と話したい。
普通の人間として、彼女と歩きたい。笑いたい。
それが叶えられるんだ。
曲がり角を曲がる。そして、大声で叫ぶ。雨に消されないように。
「大丈っ・・!?」
―――銃口を向けて待っていた、唯一の友人がいた。




