參 ~悲観視と楽観視の投影→裏~
「・・・それはどうかと思うぞ。」
「え?かわいくない?」
不思議そうに俺を見る。
「可愛いかもしれないけど、それ。誰のだ。」
「もちろんあんただけど。」
「俺になぜ、”可愛い”携帯を・・!?」
ものすごく女性向けの携帯じゃないか!
「えー・・いいと思うんだけどな~」
「で、でも・・さすがに、男性に・・そ、それはちょっと・・」
よ、よし、頑張れ!お前なら・・!
「でも可愛くない?」
「う・・うん。可愛い・・けど・・」
ダメか・・。
やってきたのは家電量販店。
1Fから5Fまである、どこにでもありそうな店。
大量の携帯機器や、その周辺機器が立ちならぶ。
「とにかく!俺のは、俺で決める。」
「いや、私が決める。」
なんでだよ
「俺が決める。」
「私が決める!」
なんで自分の携帯を人に決めてもらわなければならないんだ?
元からおかしいだろ!
「あ・・えと・・その、喧嘩は・・・」
「お前は黙ってろ。」
「ちょっと黙ってて。」
「あ・・えと・・はい・・。」
なにかでありそうなシュチュエーションの中。俺たちは少しのあいだにらみ合う。
いい加減、諦めろよ・・!
「ま、別にいいけど。でも、黒だけはやめなよ?」
よかった・・。
「あぁ。わかってるよ。」
「じゃぁ、私たちはこっちで見てるから。ほら、行ってきなよ。」
ここにはデザイン物しかないしな・・しかも派手なもの。
こんな携帯は似合わないどころか、恥ずかしい。
実を言うと、在り来りなことをしたまでのこと。
あいつとの掛け合いはいつもこんなかんじだ。
結局のところ、どちらも“わかっていながら”やるのだ。
つまり何の意味もなく、にらみ合うんだけど・・。
恒例の掛け合いってことで、あいつもやったんだろう。
少し歩くと、無地のデザインの携帯が並んでいるところに来た。
たしかに、黒の携帯はもうやめよう。
そのために来た・・という意味もあるのだから。
それにしても、明るい色もやだな・・。
無難に迷わず、ブライトグリーンの携帯を取った。
あまり明るくなく・・それでいて、暗くなく。
薄緑と言えるその色は、ちょうどよかった。
そのまま一直線にレジまで行くと、さっきの女の子を見た。
あいつの隣にいた、挙動不審の子。
焦るようにして、走ってどこかに向かう。
それを、目で追いながら、買い物を済ませて彼女に会う。
「お、早いね。何色にしたの?」
「緑。」
言うのも面倒だったから、単色で答えた。
「へぇ、確かにあんたにお似合いね。」
若干、ニヤッとした表情をする。
「それより、さっきの子どうした?走ってどっかいったようだけど。」
「あいつならトイレだよ。」
「・・・そうか。」
深く考え過ぎ・・・か。
「なに、あの子気に入った?だめだよ、男性恐怖症もひどいから」
「はぁ?あいつ、男性恐怖症なのか?」
「そこまでひどくはないけど、ただでさえ挙動不審なのにまいったよね。」
呆れた顔で答える。
「じゃぁ、俺がいるのはまずかったんじゃぁ・・。」
すると、彼女は何かに気づいたように顔を上げる。
・・・少しの間、俺を見て答える。
「・・・別に大丈夫じゃない?」
なんだ今の間は。
少し気になったけど・・
「それより、私の携帯はどうしようかなぁ・・」
「まだ決まってないのか。」
「あんたみたいにすぐ決まるわけじゃないの。」
・・・よく見れば、こいつが見てるのって、カバーか。
こいつ、俺が携帯買う前にカバーの方を勧めてたのか!?
「つまり、俺が決めても、カバーは私が・・ってことだったのか・・」
「ん?どした?」
「あ、いや。なんでもない。」
今頃、気づいたんじゃぁ。もう遅いな。
それから、20分くらいだろうか。ぶらぶら歩きながら、ずっと悩む。
にしても、種類がたくさんあるもんなんだな・・。
こんだけ歩いて、見ていってもまだ終わらないのか。
実際「これは?」「じゃぁ、これは?」と聞きながら回ってるから遅いんだけど。
「そういえば、あの子遅いな。」
「デリカシーないなぁ・・女の子は遅いもんだよ。」
「そうかもしれないけど・・」
にしても、20分たってるぞ?
明らかにおかしくないか・・。
嫌な予感がした。
・・・・逃げられたか・・!?
いや、まさか。そんなはずはない。
あっちが気づくことなんて、ないはずだ。
深く考え過ぎか・・?
だけど、“今回のターゲットはあいつだ”
少し、探しに行ってみよう。
「ごめん、俺、他の家電用品見たいから、行くわ。」
「そう。じゃぁ、決まったらメールするから。」
「あぁ。」
それから、いろんなところを探し回ったがいる気配がない。
あれから、1時間たつか・・!
そろそろ、あいつからメール・・って・・!
携帯変えたばっかじゃねぇかよ!
赤の携帯も捨てたし、黒の携帯も、もちろん捨てた。
完全新規のこの携帯だけ。
メールアドレスも変えたから・・メールが来るはずがない。
「しまった・・!」
携帯危機が立ち並ぶコーナー。
そこに彼女の人影は見えない。
たぶんもう。この店の中にあのふたりはいないだろう。
そんな気がした。
「あの野郎・・!人質があいつだっていうから電話はしたが・・」
彼女は電話に出た。
そして、彼女はさっきまで一緒にいた。
しかし、彼女は消えた。あの子を探した挙句。
罠・・?
「まさかあいつ・・!あの子に教えてんじゃねぇだろうな・・!?」
“殺しに来る奴がいるぞ・・”とか言って・・!
ふざけんな・・遊びじゃねぇんだぞ・・!
すると、完全新規の携帯が鳴った。
初期の携帯の着信音。ごく普通の一定音が鳴り響く。
・・・非通知電話。




