弐 ~向こう側とこちら側の裏表~
よく晴れた日。
朝の光が、窓から差し込む。
目が覚めた俺は、ベッドから起き上がる。
まぶしい。まぶしすぎる。
昨日、一昨日とずっと曇りだったのに。
とんだ不意打ちだ。
「久しぶりの快晴の日です。ですが夜11時あたりから雨が降り出します。」
つけっぱなしのテレビから聞こえてくる声。
今日の天気予報。
夜から雨・・・か。曇りのまま、全然降らなかった雨もついに降り出すか。
・・どちらかというと、悪天候の方が好きだからいいけど。
朝7時。お早い起床なことで。
全ては、この朝の光のせいだ・・!久しぶりの安眠を!!
なんて。俺らしくない。
いや、今は新しい自分を見つけるべきか。
そうやって変わっていかないとな。
もう、あれは終わったわけだし。
「ん・・・・?」
携帯が震えている。マナーモードにしてあったようだ。
手に取ったのは赤の携帯。
携帯を開く。今時、開閉式の携帯は珍しいかもしれない。
どうしても最新式のものは使いづらくてかなわん。
機能が多すぎる。
そもそも、写真機能を特化させただけで最新式っていうのか?
・・そんな、親父臭いこというほどの歳ではない・・が・・。
「着信なし?」
たしかに、携帯が震えていたはず・・。
見れば、マナーモードにもなってない。普通ならなるはず・・。
・・・まさか。
再び、携帯の震えている音。
・・・やめろ。
聞こえる方へ。
・・・そんなわけがない。もう終わったんだ。
それは、黒い携帯。
・・・終わったはずだろ・・!
それは、もう鳴るはずがない携帯。
「・・・・もしもし。」
でも無視することは、できない。
「あぁ~!お久しぶり~!どう?よく眠れた?」
「何の用だ。」
「お早い起床なことで~!」
俺と同じこと言いやがって・・。
「何の用だ!!」
声を張り上げて、叫んだ。
「うっるさいなぁ~、怒らないでよぉ~。」
いつもお気楽口調。そこがムカつく。
「もう終わったはずだ。俺はやめた!」
「誰がやめていいっていった?」
急に冷めた声で言ってきた。
「っ・・!」
「なんてね。そんな怖い顔しないでよ。」
くっそ。遊ばれてる・・・。
「顔は見えないだろ。」
「まぁ、君のことだから少し引いたでしょ?」
完全に遊ばれている。
「否定はできない・・。」
「ははっ・・まぁ、やめていいとは言ってないけど、やめてはだめだとも言ってないからねぇ~」
「俺は、この前の仕事で最後って言った。」
言った筈だっ・・!
「そうだね。君にはよく働いてもらったし、別にやめても構わないけどね。」
「じゃぁ、何の用だ。もうお前の声なんて聴きたくない。」
「だったら、携帯捨てればよかったのに。」
核心を突かれる。
「そんな暇もなかったよ。」
「苦しい言い訳だね。僕の声が聴きたかったんじゃないかな?ん?ん?」
「黙れ。切るぞ。」
すると、大きく息を吸う音が聞こえる。
「あー!君を失うのは惜しいなー!」
「・・・あ?」
馬鹿でかい声で言ってきた。思わせぶりな言い方。
「非常に、嫌だなー!やめるなんてもったいないなー!」
気持ちは全くこもってない。
「・・何が言いたい」
「じゃぁ、これで最後にしてあげるよ。ほんとのホントに最後。」
「やらない。」
「最後の仕事だ。内容と報酬はメールで送る。やるかやらないかは君に任せるよ。」
また冷たい声。その声を聴くと必ず少したじろいでしまう。
己の愚かさ。
「やるわけないだろ。」
「君はやらないといけないことになるよ。大事な仕事だからね。」
「は?」
「この仕事は、君にとって桁外れの報酬と内容だと思うよ。じゃぁね。」
俺にとって・・?
「ちょ・・」
切られた。くそっ・・・。
「なんだよ・・俺にとっての大事な仕事・・?」
メール欄には新着が一通。
・・・・・。
「おいおいおい・・・!!」
は?何が桁外れの報酬と内容だよ!
こんなの・・こんなの・・ありかよ・・!
“誰がやめていいっていった?”
さっきの言葉は本気か・・。俺をやめさせる気はさらさら無いと。
そういいたいんだな・・。そうだろ・・!!
「ふざけんなよっ!!」
しかし、急に怖くなった。怖い。怖い怖い怖い・・!
逆らうことは許されない。逆らうことをしたらどうなるかわかっている。
むしろ、このメールのせいでもっと逆らえないことを悟っている。
「やるしか・・ないのか・・?」
全てを捨てろ・・。悩みも何もすべて。自分を捨てろ・・。
独りを貫け・・。
それが、俺の仕事の基本事項。
・・・殺し屋。
メールの最後に、二行の文が。
“すべてを捨てろ、独りを貫けっていうの忘れちゃった?
君はだれに助けられたか、思い出してみてね。”
「・・・隠すことは無理だったってことか・・・」
これは、あいつなりに優しくしてるんだろうな。
この基本事項を守らなかったら・・・と、毎度脅されていた。
だとしても確かに、こいつには恩があるのは・・。
「もう・・何でいきなりこうなるんだよ・・!訳わかんねぇよ!!」
傍にある机を、力強くたたいた。
だけど、この手で・・・。
それは、たった10分の出来事。




