第五章:夢
第五章:夢
「騎士様!」
声が聞こえてパッと目を覚ます。
円形の土地の中央には空洞が在って、そこから煙が上がってきている。
灯りは無くても、空洞からの赤い光が辺りを不気味に微妙な明るさで照らしている。
知らないはずなのに、何故か簡単にここがどんな場所か想像できた。
ここは、火山…?
そう。煙や、この赤い光、つまりマグマが見えて考えたからでは無く、最初からこ
の場所に来た事があるような感じだった。
上を見るとポッカリと穴が開いている。
恐らく火口だろう
雲がすぐそこに見えるようなかなり高い火山みたいだ。
さっき、誰かに呼ばれたような……。
声の主を探す。一つの人影が目に入る。
顔に影がかかっていてわからないはずなのに、これも何故か誰かわかった。
ピンク色の髪!姫様!?
ローザがこちらに向かって何かを言っている。
胸がざわめく。嫌な予感がして、ローザに空が駆け寄る。
思い切り手を伸ばす。届きそうで届かない。
その瞬間、ローザの腹に一本の剣が突き刺さる。
目の前が真っ赤に染まる。
姫様!姫様!姫様!姫様!姫様!
声の限り叫ぶのに、声にならない。
倒れた身体からもなお鮮血がほとばしる。
姫様!姫様っ!姫様っ!姫様っ!!
声は届かない。
視界がどんどん狭まる。ローザを刺した剣が自分に向く。
姫様っ!姫様!ダメだっ!姫様ぁ!ダメだっっ!
「姫様ぁっ!!」
跳ね起きたそこは、自分の部屋だった。
息が上がっている。夜着も汗でビッショリだった。
頭痛に頭を抑え、辺りを見渡す。
シエルが驚いた顔でこちらを見ていた。
彼女が何かを言っているのはわかっていたが、空はちっとも聞いていなかった。
なんだよっ…今のは。夢?
目が回っていて、頭が混乱している。
夢にしてはリアルすぎる悪夢に、ただこだまする言葉。
「姫様が…死んだ。殺された?」
ようやく空が異常なのにシエルが気付く。
「騎士様?どうされましたか?姫様がどうかしましたか!?」
空もようやくシエルに焦点が合う。
何かを考える余裕も無く、空がシエルの肩をつかんで乱暴に揺する。
「シエルっ!姫様は!?姫様は無事なの!!?」
空の状態を見て、ただ事では無い事を察したのか、シエルが何も言わずに部屋を飛
び出して行く。
僕も、僕も行かなきゃだ。
立とうとしてその場に倒れてしまう。
足が震えていて、力が入らなかった。
自分の鼓動がうるさく聞こえる。
『誰か』が部屋に入って来た。
その何者かが空を取り押さえようとする。
考える事も無くジタバタとそれに抵抗する。
その瞬間、頭痛とは違う衝撃を頭に喰らい、空はそのまま気を失う。
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
「トントンッ」
こんな早くに、誰でしょう?
ローザがドアに近づいて耳を澄ます。
「姫様、朝早くに申し訳ありません。午前までにどうしても必要な書類がいくつか
あるんです。今、大丈夫ですか?」
声を聞いて誰なのかすぐにわかった。
ドアを開けて、声の主を部屋に招き入れる。
「ルージュ。朝からご苦労様です。どうぞ。入ってください。今すぐ準備をするの
で、そこの机にでも置いといてください」
急いでペンと印鑑を取ってきて椅子に座る。
数枚の書類をペラペラめくって一通り目を通す。
「えーと。武器補充に、城内食料の予算、人員補充。はい。おしまいです。
これでいいですか?ルージュ」
書類を封筒に戻してルージュに手渡す。
礼を言って封筒を受け取るルージュが思い出したように自分に疑問を投げかける。
「あ、そういえば姫様。今朝、騎士の部屋の方が騒がしかったようですが、何かあ
ったんですか?」
そんな話は聞いていなかった。
「私は何も知りませんけど」
首を横に振りながら正直に答える。
昨日の検査では何も無かったはずですよね?
イリーニのレポートを手に取り、簡単に目を通す。
その時、ノックも無しに急にドアが開け放たれる。
そこには、息が上がっているシエルとイリーニが立っていた。
どうしたんですか?二人してそんなに慌てて。
質問しようとしたローザを、シエルが無視して話し始める。
「姫様!無事ですか!?良かった。話は後です。お叱りは後で受けます。
ですから、早くついて来てください。騎士様が!!」
普通では許されないような取り立て方だが、シエルの顔を見れば、普通では無い事
はわかる。
夜着のままだったが、勢いに流されて連れ去られる。
連れて来られたのは医務室だった。
いくつかある医務室のベッドの一つには、空が横になっていた。
空に駆け寄って顔を覗き込みながらイリーニに聞く。
「騎士様?どうなされたんですか!?
イニ!昨晩の検査では問題なかったはずでしょう?」
イリーニが機械をいじりながら答える。
「確かニ、体調には問題はナイ。
ダガ、今朝、目覚めた途端に姫様が危ない等と言ったソウダ。
その際、多少暴れたらしくてネ。ファイン君がやむなく気絶させたラシイネ」
その場についていたブロウがこちらを向いて低頭する。
空を見てみると、その顔には苦悶の表情が浮かんでいて、汗まみれだった。
無意識にローザが空の頬に手を伸ばして、優しくなでる。
その時、空が目を覚ます。
今回は、騎士様の具合がよろしくないので、
私、ローザが予告をします。
次回、とうとう‘アレ’が開始します。
大変でしょうが、騎士様。がんばってください!
次話 第六章:修練開始!