第一章:声の主
第一章:声の主
「……こんなに早く着くなんて。到着予定より八日と十三時間三十二分二秒も早
いですネ」
また声か。
少年、空は知らない声にうんざりしたような声でたずねる。
「あ~もう。何?僕が何かしました?」
急に声を出したからか、驚いたような声が聞こえた。
目を開けて目を擦る。
自分が横たわっている所がヒンヤリと冷たい。
「おい、イニ。もう目が覚めたのか?にしても、コイツ。ケガしてんじゃんかよ。
早いとこ城に運ぼうぜ」
また別の男の声が、さっきの声の男に話しかけているらしい。
体を起こして頭をかく。
前を見るが、辺りがひどく暗いせいで、よく見えない。
「ってコラ。寝てろ。運んでってやるからさ」
二人目の男が自分に話しかけてくる。
運ぶ?何言ってんだろ。それに、ここは?
空を置き去りにして話が進んでいく。
少しずつ周りが見えてくる。
「おい、イニ。タンカ取ってくれ。手伝ってくれよ?」
頭がひどく混乱している。
待てよ。思い出せ。何があった?ここはどこだ?
イニと呼ばれている男がタンカを持ってきた。黒髪の背が低い青年だった。
「ファイン隊長。そう急かさないでくれないでもらえるカナ」
記憶を探る。
確か、影が……。門に吸い込まれて、それで?
その時、誰かがこっちに走ってくる足音が聞こえる。
暗いな。明かりもあるみたいだけど、よく見えないや。
音の方向を見て思う。
「ファイン隊長!イリーニ博士!待ってください!!」
走ってきたと思われる人が大声で二人の男を呼び止める。
今度の声は女の子らしい。
「隊長、博士。もう少しで姫様が到着します。それまで、しばらくここで待機との
伝令です」
いまだに空を置いて話が進められていく。
何なんだ、この人たち。
「おぉっ。ルージュ。ご苦労」
目を凝らして見ると、ルージュと呼ばれる女の子は、赤髪のショートだった。
タンカを運んでいた方の黒髪の男が言う。
「姫様がわざわざ来られるのカイ?それはそれハ」
勝手に話が進んでいく事に、だんだん苛立ちがつのる。
目が慣れてくると、ここがどんな場所かがわかってくる。
そこは、暗くて、じめついている。多少の灯りが灯っているくらいで、まるで、洞
窟の奥深くのような。ゲームのダンジョンのような場所だった。
そこには、博士と呼ばれる黒髪の青年と、ルージュと呼ばれる赤髪の女の子、そし
て、隊長と呼ばれる青髪の、男がいた。
「悪いな。場所移動と、ケガの手当てはちっと延期だ」
青髪の男が空に言う。
女の子がこっちに歩み寄ってくる。
その瞬間、その女の子の腰のベルトの辺りが、薄っすらとついている灯りが反射し
て鈍く光る。
「け、剣!?なんでそんな物を!」
驚きのあまり、大声を出してしまう。
女の子も逆に驚いたのか、「わっ!驚かせないでください」と空に言う。
剣って、こんな女の子が?僕だって人の事言えないけど……。
その時、はっとなり、辺りをあやふやと見渡して、手をジタバタさせて手探りで自
分の荷物を探す。
その様子お察したからか、青髪の男が空を止める。
「おいっ。動くな。ケガ人なんだしよ。どうした?探し物か?」
息が上がって、肩が上下に動く。
また動こうとした空を青髪の男が押さえ込む。
「放してあげてください!どうしましたか?」
さっきまで聞こえた声と違う。
なのにどこかで聞き覚えがある声を聞いてピタリと体を止める。
頭の奥底のどこかで聞いた気がする声を聞いて、今まで混乱していた記憶を、一気
に思い出す。
その声の主は、ピンク色の髪の、見覚えのある、キレイな女の子だった。