第十一章:お披露目
お待たせいたしました!
第十一章:お披露目
『長らくお待たせいたしました。我が国にお招きした騎士殿のご登場ですっ』
ドアの向こうのホール、だろうか。何にせよ、扉を挟んでもしっかり聞こえた。
というか、司会だけではなく、ホール全体から歓声と拍手まで響き始めました。
「えっ? そんな目立つ事しちゃうの……?」
「目立つも何も、お披露目ですからね、貴方の」
とルージュ。
「げっ、言うの忘れてたわ。わりー」
とブロウ……
「って、えぇ!? は、早く言ってよ!」
「だから、悪いっつの」
「反省してないなー、たぶんっ。いや、絶対!」
全く悪びれもせずに言うブロウに突っ込む。
(おい、まだかよ。騎士っつーのは)
(もう来てんだろ。黙って待ってろよ)
((ざわざわ……))
中からは、待ちくたびれたように囁き声が漏れる。そんな状況はやはりよろしくないようで。スタッフらしい人がホールから出てきて急かす。
「ブロウ隊長っ、騎士殿の準備は?!」
「んー、ああ。済んでる済んでる。もう準備万端って息巻いてるぞー」
「うおいっ!」
『お、お待たせしました! 少し手間取りましたが、ついに騎士殿の準備が整ったそうです。それではっ、ご入場いただきましょう!!』
さっきと同様に、歓声や拍手が起こる。
なんかもう、逃げ道は無いような。
そう悟った空は、早くも諦め、ホールのドアを勢いよく開け放つ。
そこはとても広く、いくつものテーブルをそれぞれびっちり人が埋め尽くしている。辺りの照明はかなり暗く調節されているらしく、やや離れた舞台らしき段差に光が集まっていて……いや、今、舞台を照らしていた明りのほとんどが自分に向いた。
辺りは急な沈黙に包まれた。
観客の拍手喝采がすっかり止み、その場の人間の視線が自分に集まるのを感じる。ただ、その視線は『騎士』という、言ってしまえば英雄に集まる憧れなどの類の物とは違った。そして、誰かが声を漏らした。
(おいおい……。あんなガキが俺らを救うっての?)
(バカッ。姫様や本人もいるんだぞ!)
息苦しいほど静かなその空間には、そんな小さなやりとりが嫌と言うほど響いてしまった。
「おいっ、誰だ! この騎士殿は姫様が直々にお選びになったんだぞ! 今の発言は姫様の選択が間違っているという申し出かっ?!」
いつからか、気づけば横に立っているブロウが声を荒げて庇ってくれた。
だが、彼の声が響いた途端に自分から血の気が引けていくのがわかった。
(姫様が? でも、あんなのじゃ……)
(こら、そんな事言わないでよっ)
(でもよ、姫様って言ったって、全王に比べたら――――――)
「姫様をバカにするなっ」
ブロウやルージュ達が口を開くより数秒前に、やっと空が口を開く。
「あっ、いや……。確かに、僕はまだ子供ですっ。自分がいた世界じゃフツーの学生でした。それでも、僕は姫様に呼ばれてここにいる。姫様や、この国の人達のために、修練を積んできました! まだまだ青二才かもしれない。ここにいる人たちに鼻で笑われても仕方がないかもしれない―――――」
息を吸う。
「でもっ……ブロウやルージュには敵わなくても、ここにいる人たちに負けるつもりはないっ!」
辺りが再びざわめき始める。まあ、当然だが。
それでも、ブロウは口元を歪めて空の肩に手を置き、こう言い放った。
『あながち否定はできないなー! 青空は強いぞっ。俺が思うに、この国の騎士団に敵う奴は、俺と……ルージュがいい勝負かっ!!』
(ちょっ、ブロウッ。僕はこの場を凌ぐためにハッタリを……。本気にしないでよ! 見て、あそこの人達。真に受けてガンガン睨んでくるよっ)
ひそひそ声の空である。
「おーい、騎士ィ! だったらその減らず口、俺に掻っ切らせてくれよぉ!」
ほら、いかにもそれっぽい人が突っ込んできました。
「よーし、青空。かましてこいっ」
『待ってください! 何事ですか、この騒ぎは!』
凛とした声の方に目をやると、いつもよりも豪勢と言うかそんなドレスを着ている姫様がホールに入ってきたところだった。
「少し遅れて来てみれば、なんの騒ぎですか?!」
「ひ、姫様っ……」
明らかにそれっぽい人がそれっぽくたじろぐ。
「ブロウ?」
「はっ。この者達が騎士を侮辱する事ばかり口にした故に、今ちょうど私の公言の元、騎士が宣戦布告を」
「なっ……ブロウッ! す、すみません、姫様……。ついカッとなって」
「……他にも、騎士様に不服な人達が、いるのですね」
何度目の沈黙だろうか。再び会場が静まり返る。
「わかりました。それも仕方が無いでしょう。意見があるものは前に申し出なさい。これから、騎士様と軽く一戦交えてもらいましょう」
(うおっ、マジでか)
(おもしろそうだなっ)
「ただし、宴の時間もあります。そもそもハンデが欲しいでしょう。なので、手っ取り早く騎士様には全員をさっくり相手してもらいます」
「ええっ」
そりゃ、驚く。
「い、いいんですか、姫様」
ルージュが驚いた表情のままローザに話しかける。
「はい、構いません。余興には丁度いいでしょう。さあ、こちらの騎士様に文句がある方は全員申し出てください」
「なんか、すごいことになっちゃったな~~~」
独り、後悔全開の空でした。