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「無価値」と捨てるのは結構ですが、私の力は「本物」だったようですよ? ~離縁された転生令嬢、実は希少魔法の使い手でした~  作者: 川崎悠


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08 二人暮らし

 新しい服をリーフェルトくんに着てもらったり、私も着替えたり、これで完璧な村人ね。

 体調も快復して血色がよくなり、衣服も整えたリーフェルトくんは健康的でとてもいい。

 今までは心配が先にきてしまう様子だったけど、今は持ち前のかわいさが前面に出ている。

 この子、とってもかわいいわねぇ。

 年齢相応のかわいさというより彼個人のかわいさのようだ。


「リーフェルトくん、この村に友達は居る?」

「……ううん」


 え、友達いないの。どういう環境だったのだろう。

 突然押しかけた私を受け入れてくれた村なのだけど、リーフェルトくんには厳しい?


「じゃあ、私と遊ぶ?」

「……遊ぶ?」

「この前見せた『手品』もいいけど、今日は何か別のことをしましょうか。何がいいかなー」


 男の子だから男の子らしい遊びが望ましいか。単純なことで遊ぼう。

 なぁに、私はこれでも現代日本、田舎育ちの転生者。今世だって庶民出身。

 お淑やかな遊び以外だってこなしてみせる。なので。


「では、チャンバラで!」

「ちゃん?」


 コテンと首を傾げたリーフェルトくん。仕草がかわいい。

 くー、こんなかわいい子は、このままかわいく育ててしまいたい。

 でも、それが本人のためとは限らないのだ。

 ここは雄々しさを学んでもらおう。


「ふふ、見ていなさい」


 以前は使いもしなかった【植物魔法】の使い方、その二。

 私は初日に薪のための『枝』を用意してみせた。ならばできるはずよ。

 そう、『いい感じの枝』の生成を!


 私は手元に意識を集中する。

 イメージするのは、ただの小さな枝だ。

 成長過程で葉っぱも生えてしまうし、根っこもある。

 末端を多少、調整して。手頃な太さ・長さにまで成長させる。

 多少は曲がっているものの、基本はまっすぐな一本の木の生成。

 うん。葉っぱがちょっと茂ってしまっているが、幹自体は『いい感じ』だ。


「これで葉は枯らして……一部分だけ枯らせるとかできるかな」

「んー」


 リーフェルトくんは私のすることをとなしく見てくれている。

 その他、危なそうな尖りは失くす。全部を魔法でやらなくていいか。

 その辺の石をヤスリ代わりにして、と。できたわ!


「いい感じの枝よ!」


 シャキーン! という擬音を出したいぐらいの出来栄えを天に掲げる。


「わー!」


 パチパチと手を叩くリーフェルトくん。反応がかわいらしい。


「これは当然、リーフェルトくん用」

「わ!」


 長さとか、重さとか、適度な感じに仕上がったと思うわ!


「周りに人がいないところで振り回していいよ。周りの人にあてちゃだめだからね」

「うん!」


 よしよし。

 〝いい感じの枝〟は古今東西、どこの国の少年の心をも掴むらしい。

 元気に振り回して遊んでくれる。


 私は私でリーフェルトくんに意識を向けつつ、手元に魔法行使。

 同じことを繰り返すだけなので、さほど手間にはならない。二本目の枝を用意する。

 気持ち長めにして杖代わりにもできるシロモノよ。

 石に擦り付けて細部を削ぎ落しつつ……。できあがり!


「さぁ、リーフェルトくん、チャンバラしましょうか!」


 私たちはその後、ただ枝を振り回して、互いにぶつけるだけの遊びをした。

 まだ七歳の腕力だから、私でも相手ができるレベルよ。

 もっと健康に体ができてきたらパワー負けするでしょうね。


「あはは!」


 リーフェルトくんはチャンバラをしっかり楽しんでくれたみたい。男の子ねぇ。

 この遊びの選択は間違っていなかったわ。

 ちなみに私は別に剣術とか前世でも今世でも習っていないので本格的な棒の振り方は知らない。

 ひとしきり楽しんでくれたリーフェルトくん。よかったわ。



 その日は『お風呂』に入ることにした。

 異世界の入浴の文化だけど、農村の民家それぞれにお風呂は『ある』。

 意外と不潔ではない。ひどい偏見だけど。

 水に困っていない地域だからというのもあるだろう。

 『お風呂屋』というのもあったりする。そう、現代でいう銭湯だ。

 なんと集団浴場と、個別の民家のお風呂、両方ある。


 ある時、衛生的な問題があって集団浴場が廃れることもあったらしく、そこから個人の家にお風呂を導入する流れが始まったみたい。

 でも、農村だとどうしても集団浴場の方が管理しやすいから、その文化は残ったみたいね。

 やっぱり入浴やらの文化は、どの世界であっても人間だから発展するものなのねぇ。


 ただし、民家にある風呂は、立派なものとは言い難い。

 これは今世視点での私が公爵家などで暮らしていたので、ちょっと目が肥えているかもだ。

 強いて言うなら田舎にありそうな、昔ながらのお風呂というべきか。


 形状は小判型の、たしかオーク材だったか。とにかく木製の風呂桶ね。

 個人家庭にあるのはとてもありがたいものの、入浴の準備が相当に手間なシロモノだ。

 貴族家だと使用人が準備してくれたり、アーティファクト頼りだったりする。

 民家の風呂にそういったアーティファクトはない。

 お風呂に入りたければ努力あるのみだ。


 本来は水をくんできて、さらに沸かし、小判型のお風呂に手動でためる。

 残念ながら、水道技術が個人家庭全部には行き渡っておらず、貴族家や教会、公共施設にあるだけだ。

 技術的にはあるにはあるのだけどね、水道。

 実際、以前は私もそれを利用していた。


 水をくんでためるのは重労働そのものだが、それでもお風呂に入りたいのが人情である。

 手間がかかるため、前世のように頻繁に家での入浴ができない。

 そのための集団浴場だろう。


 しかし、ここは魔法のある異世界。

 ただの農村であろうとも生活魔法というものがある。

 そして私は生活魔法を使える側だ。ならば魔法を試すのみ。

 風呂はためた水を熱してから風呂桶に入れる仕様で、浴槽を直接温めるタイプではない。

 要は、お湯を大量に用意できればいいのだ。


「んー……」


 生活魔法は一通り学んでいる。本当に読んで字の如くの魔法だ。

 ライター程度の火、ペットボトルに収まる程度の水、それらを生成することはできる。

 でも、お湯を直接生み出そうとはしてこなかった。

 しなかっただけ。できるかしら。


 一度に出す量には限界がある。それが私の魔法出力の限界だ。

 では、体の内側で〝出す前〟に魔法を混ぜ合わせるような真似はできない?


 こういう使い方も以前までならしようとも思わなかったわけだけど。

 今の私には前世の、それもファンタジーな知識がわんさかあるのだ。

 知識というかアイデアというか。

 低出力魔法も創意工夫でなんとかならないかと思ってしまう。

 火と水の生成を体内で行うイメージ。いや、火だと怖いから『熱』ね。


「あ、わりといけそう?」


 両手を祈るように組み合わせて、その中心に熱と水を混ぜたイメージをする。

 身体の内側で予め二種類の魔法を混ぜ合わせておく。

 出力していないからOKだ。

 そうして、突き出した手から溢れるように『お湯』が出てきた。

 バシャバシャと風呂桶の中に零れ落ちていくお湯。

 出たそばからきちんと湯気が出ている。


「よし、いけそう!」


 魔法使いとしてもレベルが上がったんじゃない?

 戦闘には使えないけど!

 ちょっとしたズル、ちょっとしたチート、の便利魔法だ。

 これぐらいは転生者特権ということで許してもらおう。


 そうして私はバシャバシャとお湯をためていく。

 じ、時間が掛かるぅ……。

 しかも魔法とはいえ人力(じんりき)なので、この時間に他のこともできない。

 でも、お風呂は娯楽だ。日々の活力なのである。

 楽がしたいなら裕福になるか、お風呂屋に行くべきだ。

 実際、村人のお風呂屋利用率はそれなりに多いらしい。


 なんてことを、つらつらと考えているうちに風呂桶にお湯がたまった。

 うん、私には魔力消費による疲れはない。

 やっぱり魔力量だけはあるのは間違いないらしい。


「リーフェルトくん、お風呂、入るよー!」

「はーい!」


 一応はリーフェルトくんに配慮して、布一枚の上着とボクサーパンツのような下着をはく。

 身体にピッチリとしたものではなくて、ゆったりとした着心地だ。

 お寺で滝行ができそうな、水に入るための服って感じよ。


 実は薔薇風呂とかやりたかったけど、さらに時間がかかりそうだったのでやめた。

 アレをやるには、花びらをいちいち落とさないとだめだからね……。

 でも、いつかやりたいので日頃から花びらをためておこう。


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