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28 トマト祭り

 収穫したトマトやトウガラシは、領民たちに広まっている。

 畑で栽培していたぶん、領民に行き渡る量を確保できたわ。

 一応、試食を繰り返してみた。

 たっぷりと日光を浴びて育ったトマトはみずみずしく、甘かった。

 希少な作物として商人経由で領外にも売り出している。


 そこまで広くないバルナーク領。

 というより、領地の大半が森だ。

 開墾も(あわ)せてやっていければ畑も増やせるけど、そこまで手が回っていなかった。

 まだまだ、もっと上を目指せるということだ。


「リーフ、こっちよー!」

「はーい!」


 そんなわけで今日はバルナーク領、名物候補となる施策の一つ。

 トマト祭りの開催日だ。


 領民との距離が近いバルナークでは、領主であるフィン様が何をしていたか知られている。

 特産品開発をしていて、それがうまくいきそうなこと。

 それを領民は知っているのだ。

 目に見えて彼らの生活にもトマトが行き渡った。

 領民にも愛着を持ってもらえると嬉しいな。

 初年度なので、まだまだだとは思う。

 前世のそういうお祭りで用意される量には到底及ばない。

 いつかはテレビの向こうで観たことのあるような、街中がトマトだらけなんてお祭りになったら面白そうだ。


「領主様ぁ!」


 フィン様が領民たちに挨拶を交わしながら、先に街に出ていた私たちのもとへ来る。


 ……私とフィン様は正式に婚約を交わした。

 結婚はまだだけど、今の私はフィン・バルナーク伯爵の婚約者だ。


 服装も少しだけ以前より整えている。

 既製品のドレスに自前で刺繍したものね。

 フィン様を慕う領民には思いのほか受け入れられている。


 これはまぁ、領民も薄々と『領主様、このままじゃ仕事ばかりして、結婚はできないんじゃ?』とか思っていたみたいで、そこにきての領主の浮いた話だったから。

 悪くはなかったらしい。


 また、街で暮らしている前伯爵夫妻にも婚約の手続きをする前に会いに行った。

 フィン様のご両親も私のことを好意的に受け入れてくれていた。

 ……この世界だと、私は実母以外には親に恵まれていない。

 フィン様のご両親は、私にとっても大切な人たちだ。

 これからも大切にしよう。


「アーシェラさん、リーフ」

「フィンお兄ちゃん!」

「よっ! と」


 私の手を離して、近づいてきたフィン様に抱きつくリーフ。

 そうするとフィン様は力強くリーフを抱き上げてみせた。


「わー!」


 男性ならではのパワフルな抱き上げ方だ。

 リーフも楽しそう。


「ふふ、お祭りはやっぱり楽しいものですね」

「ああ。こんな祭りがバルナークで開けるとは思わなかった。アーシェラさんのおかげだ」

「ありがとうございます。でも、私だけの力じゃありませんよ」

「それでも、やっぱりキミには感謝しかないよ」

「はい。嬉しいです。きっと来年は、もっと素晴らしいお祭りにしましょうね」

「ああ! 必ず」


 他愛もないやり取りをしながら、私たち三人はバルナークの街を歩いた。


 真ん中にリーフがいて、フィン様と私はリーフと手をつなぐ。

 領民たちは笑顔だった。

 お祭りだからというのもあるけれど、生活が向上していく予感があるのだろう。

 まだまだこれから。

 でも、バルナークの未来は明るい。


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