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23 面談

「少しは落ち着いてくれたかな」

「……はい。申し訳ございません、何から何まで」


 応接室らしき場所へ案内され、ソファーに座らせてもらう。

 フィン様が机を挟んだ私の正面のソファーに座り、侍女らしき老齢の女性が彼の後ろに控える。


「それで。最初から事情を聞かせてもらえるかい? どうして村を出たのか」


 どこから話すべきだろうか。

 私が村を出なければならなくなった理由は他でもない。

 私がアーシェラ・リンドブルムであり、捜索対象だからだ。

 捜索理由ははっきりしていないけど……。


 フィン様がバルナーク伯爵となると話が変わってくる。

 私をこの家で雇うことは公爵家、いや、この場合はローデン侯爵家の意向に真っ向から歯向かう形になるだろう。


「話しづらいかい? 俺もそこまで詮索したいわけではない。でも、キミの悩み方は……そうだな。ただ話したくないのではなく、話すことで大きな問題が起きるから話すことが難しい。そんな感じだろうか。もしかして俺が伯爵であることも何か問題になる?」

「それは……」


 ここは話すべきだ。

 だって私はこの屋敷で、フィン様に雇ってもらおうとしているのだ。

 もちろん世の中は綺麗事だけでは回らない。

 隠し事をして円滑に回るならそうするべきかもしれない。でも。

 私はフィン様を信じたいと思った。

 信じる根拠があるのではなく信じたい、と。


「実は……」


 私が、本当はリンドブルム公爵令嬢であり、かつてローデン侯爵夫人だったことを話す。

 生い立ちと叔母さんの家に行った過程。

 リーフと出会ってから村で過ごしたこと。

 なぜ、村を出たのかの理由で義妹ミシェルとの確執のことまで。


「リーフはキミの叔母の子であり、キミの子じゃない。だから、別にリーフをローデン家の跡取りとして捜しているワケではないんだね? あくまで捜索対象はキミだと」

「捜索の正確な理由まで掴んではいないのですが、私をわざわざ捜しているのは義妹のミシェルだと思っています。ローデン侯爵と私が離縁した理由は、私の【植物魔法】が『使えない』からでした。今もそれは変わっていません。侯爵にとって私は無価値なままのはずです」

「無価値なんて、そんなことはないと思うがな……」

「私もそう思っています。確かにやれることは限られていますが、十分にギフトとしての恩恵はあります。でも、ローデン侯爵にとってはそうではないのです。彼が望んでいたのはもっと大規模な魔法出力の下で行われる、大々的な成果かと」

「……侯爵家ともなると、それぐらいでないと価値があるとは言えないか」

「そうなんです。一つの農村ならそれなりに有用だったんですけどね。がんばったら畑一面分ぐらいの管理と調整はできていました」

「畑一面」


 微妙か。微妙かも。

 いや、でもまだ十代の私と七歳のリーフ二人で暮らしていける程度の支えにはなっていたのだ。

 まったくの役立たずではない。うん。


「キミの義妹、侯爵夫人となったミシェル夫人は、アーシェラさんへのいやがらせで捜していると。他に理由はなく?」

「おそらく。私が離縁されたローデン侯爵と結婚したので、それで勝ち誇りたいのかと」

「このままキミが見つからなかったら、侯爵夫人はあきらめると思うかい?」

「……どうでしょうか。思い通りにならないことに苛立ちを覚えるタイプだと思っていますが、どこまで私に執着心があるかまでは」


 フィン様は真剣な表情になり、黙り込んでしまった。

 私から聞いた情報を元にどうするのか考えているのだろう。

 私は彼の答えを待つしかない。

 どれだけ時間が経った後か、改めて彼が話し始める。


「シビアな話をしよう。キミをこのままバルナーク家で保護する」

「……!」

「ただし、こちらでもできる限り、なぜキミを捜しているのか調べる。その理由が不当なものではないと判断した場合、キミのことを俺はローデン侯爵家に話すだろう」

「……はい」


 私はギュッとスカートの布を握り込み、うつむく。

 それはきっと当然の答えだ。


「ただ、その時はキミたちが逃げ出せる準備を整えた後だ」

「えっ」


 私は顔を上げてフィン様を見る。彼は困ったような苦笑いをしていた。


「流石に知人となったキミたちを売り渡すほど冷徹ではないよ。ただ、この家では匿えなくなる時があるかもしれない、というだけ。すまないと思うが」

「いえ! すまないなんて、そう言っていただけるだけでありがたいです!」


 フィン様がうなずき、話を続ける。


「キミの価値が現在、どれほどのものかわからない。リンドブルム公爵にとっては、まだ政略の道具なのか、それとも? 公爵がキミの捜索に動いていないなら、もう捨て置かれているのだろうか」

「父は、おそらく私をわざわざ捜しはしていないと思います。心配も嘆きもしていないと」

「よくも悪くも義妹だけが公爵家ではキミに関心を持っていたんだね」

「はい、そうです」

「ローデン侯爵も同じ、なんだな。その……聞きづらいんだが」

「はい」

「結婚していたんだろう? 一年で離縁したというが、ローデン侯爵の子をキミが宿している可能性はないのかい? そのためにキミを捜しているとか、子連れと聞いて確認したがったとか」

「それはありません」

「ないのか?」

「私とウィリアム様は……その、俗にいう『白い結婚』でしたので」


 そう告げるとフィン様は驚く。私もこういうことは言いづらい。

 ただ、ある意味で前世より今世の方がこういう方面に関してシビアだ。

 なにせ家督を相続する子がいるかいないかが関わってくる。


「そうか。あまり詮索していいのかわからないが……、それは何か深いわけでも?」

「いえ、特に深い理由はないかと」

「そうなのか?」

「はい。結婚式も儀礼的で、公爵家と侯爵家の縁付きではあったのですが、私は庶子ですからね。あまり大々的にはされず、初日に『私はお前を抱くつもりはない』と」

「…………」


 あ、フィン様が眉間に手を当てて顔を天井に向けている。

 あきれているのか、嘆いているのか。

 それとも私を心配してくれているのか。


「元々、私との間に子を作るつもりはなかったようでした」

「……そうか。なら、ますますローデン侯爵がキミを求めている線はなさそう、か?」


 そこでどうして私の顔を見ながら疑問に思ったような表情になるのだろう。


「その、別れ(ぎわ)に何かなかっただろうか」

「何かとは?」

「キミに別れを告げたあと、あっさりと別れを受け入れたことで、逆に怒りだしたとか」

「なんですか、それ」

「ローデン侯爵がアーシェラさんに拗らせた執着をしていて、別れ話を持ち出してキミの気を引きたかっただけなのに、すんなりと受け入れられたせいで離縁することになってしまったとか」

「いやいや……ないですよ」


 まさか、そんなことをフィン様の口から聞くとは。

 いやぁ、前世ではあったよね、そういう拗らせ男の物語。

 後で『もう遅いわ』と言われて、女性に追いすがってもフラれてしまうのだ。

 でも残念ながらウィリアム様はその手の人間ではなかった。


「むしろ、ほとんどいきなり追い出されたので、私はすがるように訴えたぐらいですから。取りつく島もなく部屋から追い出されたうえ、翌日には手切れ金を渡されて屋敷からも追い出されました」

「……そうか」


 哀れみを向けられている気がするのがいたたまれない。

 別にもうそのことを私は気にしていないのだけど。


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