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「無価値」と捨てるのは結構ですが、私の力は「本物」だったようですよ? ~離縁された転生令嬢、実は希少魔法の使い手でした~  作者: 川崎悠


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01 日本人、明石七海の記憶

 私はひとまず安い宿を探すことにした。

 いったん、頭の整理も兼ねていろいろと考えたい。

 まず休みたかった。

 手切れ金として渡された資金があるから一泊ぐらいなら可能だろう。

 無駄遣いは出来ないが。


「……これからのことを考えなくちゃね」


 すべてに対して前向きな気持ちになっている。

 〝詰んだ人生の建て直し〟というより〝新しい人生への希望〟があるのだ。


 幸い、宿はすぐに見つかった。

 貴族令嬢のままの私だったらもっと困ったかもしれないが、この身に宿った〝一般人根性〟のおかげで、難なく手頃な宿を見つけられた。


 ──明石(あけいし)七海(ななみ)

 それが私の前世での名前だった。

 日本に住んでいた普通の女性。

 時代は令和で、スマホが普及している世代。

 ただし、前世の私が暮らしていたのは田舎だった。

 歩いていける近所に森、山、川がある田舎育ちで、日頃の遊びといえば自然との戯れ。

 家や近所での農作業だって余裕で手伝う、そんな土地柄で生まれ育った。


 高校に上がる時、都会の学校へ通うために一人暮らしを始めた。

 無事に高校を卒業して、一度は実家に帰って家族と暮らして。

 そこから実家の手伝いをしつつ、仕事を探して。


 たしか二十代の後半までは生きていたと思う。

 仕事は……何をしていたっけ?

 忘れちゃった。どう死んだのかも。

 これは『覚えていない方がいい』記憶なのかなぁ。

 何せ、明らかに生まれ変わっているもんね。

 自分の死の記憶なんてない方がいい。


 今の私が思い出した〝七海〟の記憶は、それなりの年齢までのふわっとした記憶だけだった。

 これで何をどうしろってこともない。

 ただ、もしかしたら『今は必要だった』のかもしれない。


 だって『七海』の記憶を思い出さなかったら、この国だと絶望的な状況だったから。

 絶望して死ぬか、教会の世話になるか、酷い結婚を押し付けられるか。

 今世のこの国、私の状況だと、そういう未来だけが待っていた。

 でも今は違う。


「何はともあれ、住むところよね。定番だと住み込みで働くとか? 今の私なら接客業だって苦にはならないわ。貴族のプライドだってない。なんだってやれそう」


 宿暮らしを続けていては早晩、手持ちの資金が尽きてしまうだろう。

 そうなる前に手を打たないとならない。

 では、王都で住み込みの働き口を探すのか。


 結婚についての契約内容を私は知らなかった。

 ウィリアム様と公爵の間でなんらかの取り決めを交わしていたのだろう。

 しかし、今回の離縁によってそれは反故になったワケだ。

 公爵側は黙って私を放置してくれるだろうか。

 見つかりやすい場所にいて、連れ戻される危険はないか。

 そもそも住み込みで働く場所をそう都合よく探せるのか。


「今の私にある武器は……職業を選ばずに働ける根性?」


 前世一般人で貴族令嬢としてのプライドはないが、かといってそれだけですべては解決できない。

 嫁ぐまでに学んだ淑女教育はどれだけ役に立つか。

 市井の民より教養があるといっても偏った教養に過ぎないだろう。

〝つぶし〟が効く知識ではないように思う。


「……あとは魔法が使えるわね」


 そう、魔法だ。

 固有(ユニーク)ギフトである【植物魔法】の方だけじゃない。

 通称、〝生活魔法〟と呼ばれる低出力の各種魔法を私もまた使えるのだ。

 たとえば。


「──浄化(ピュアリファイ)


 衣服に向かって魔法を行使してみる。

 すると汚れていた衣服が綺麗になっていった。

 これは魔法で洗濯をしたようなもの。

 この世界ではたいした魔法ではなく、出力も大きくはない。

 でも、これが使えれば衛生問題はある程度カバーできる優れものだ。


 この世界では、こういった生活魔法や、それを元に作られたアーティファクトが生活基盤を支えている。

 おそらく地球の同程度の文明の時代より、幾分か現代寄りの社会だと思う。


「……魔法が使えるのにちょっと感動するなんてね」


 本当に今さらな話だけれど、ごくごくあたり前に魔法を行使出来たわ。ふふ。

 まぁ、しょせんは生活魔法というか、ありふれた魔法ではあるのだが。

 生活魔法を使える人間もそれなりに限られる。

 貴族に近い血筋だとあたり前で、市井の民だとチラホラいるだけ。

 そういう世界で、国なので、貴族と市民、都市部と農村では、かなり文化的差異がある。


「やっぱり私のアピールポイント、今後の生活を支えてくれるものがあるとすれば」


 十歳で貴族令嬢になってから、洗礼を受けて初めて授かったギフト、【植物魔法】。

 これこそが私の、今後の人生における重要な鍵ではないか。

 確かに結婚生活一年で【植物魔法】について様々な試行錯誤をしてきた。

 その上で結果を出せなかったからこそ、ウィリアム様に『使えない』と言われ、離縁されてしまったのは事実だ。


 でも、それは……今までの私だから、では?


 まず、ローデン家で【植物魔法】をいかそうと研究していた時。

 基本的には〝大規模な事象〟を求められていた。

 私もそちら方面に役立てられないかと模索していたのよ。

 それが前提だった。


 でも、これからはどうだろう?

 私は、ひとまず私個人の生活さえどうにかできればそれでいい。

 そうすると、もっと小規模な事象を起こせて、それが私の生活の支えになるなら、それで十分じゃないだろうか。


 今まで成果が出なかったのは低出力なことが問題だったのだ。

 そう考えると今までとは違った見方、運用方法、目的でこのギフトを使える。

 最悪、『食べられる野菜』なんかを魔法で生成できれば、食べていくのに困らない。


 だって【植物魔法】だよ?

 仮に出力が低くても、腐っても木火土金水の五行の一角!

 元日本人なら決してバカにはしない能力だろう。

 田舎育ちならなおさらである。


 ウィリアム様が求めたような大規模農業への利用なんかを考えなければ、いけそうじゃない?


「……うん。やってみよう」


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