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13 フィンとリーフェルト

「では……。お言葉に甘えて」

「ああ、夜中に目覚めて腹が空いていたなら、この干し肉を食べてくれ」


 そう言って、フィン様は包み紙に包んでいる干し肉を手渡してくる。

 それを見た私は思わず。


「……ふふ」

「どうした?」

「いえ、何だかおかしくて。干し肉を手渡すやり取りなんて」

「おかしいのかい?」

「いいえ、普通のことですよ。とっても」


 フィン様が美形の男性だと考えたせいか、ちょっと思考が現代チックになってしまった。

 だからこう『イケメンが差し出したプレゼントは干し肉だった』というシチュエーションがなんだかシュールで笑えてしまったのだ。

 彼からの初めてのプレゼントは干し肉。ふふ。

 この国と、この環境だ。干し肉にときめくのも悪くないかもしれない。


「あ、一応。この干し肉、リーフェルトくんが起きたら食べてもいいと伝えてくれますか。もちろんフィン様が起きていた場合に。私もメモを残しますので」

「それはいいが。メモ?」


 リーフェルトくんの前に、小さく、平たい幹の『木』を生やして、そこに刻んでメモを残す。

 採取用の小さなナイフは私も持っているのよ。

 またリーフェルトくんには文字や算術を私が教えている。将来的に役立つはず。

 私はなんの気なしに【植物魔法】を行使した。


「……⁉」


 生やした木の根っこを枯らし、手持ちのナイフで表面を削り取る。

 そこで、ふと思い出した。

 腰につけていたものが、なくなっていることに気づいたのだ。


「あっ」

「何……どうした? それは」

「いえ、その。トウガラシ袋が……」

「トウガラシブクロ?」

「腰につけていた袋を落としてしまったようです。あ、貴重なものではないのですが」


 いや、貴重なのはそうか? この国にはないトウガラシ。まぁ、それはいいか。


「ひょっとして赤い粉の入った袋のことか?」

「そうです。もしかして見ましたか?」

「一応。ただ、あの場では手が回らず、キミたちをこの野営地に運ぶので精いっぱいだった」


 そういえば、フィン様一人で私たち二人を抱えてここに?

 なんてパワフルなのかしら。

 そこまで筋骨隆々の体格には見えないのに力強くて頼もしいわね。


「そうでしたか。いいんです、魔獣対策に用意していたんですけど、結局は使えなかったなと。どの道、魔獣が現れたのなら使うつもりだったので消耗品です」

「……うん? あの赤い粉が魔獣対策?」

「あー、えっと。効くかどうかは実際にはわかりません。ただ魔獣の目つぶしになればいいと思って。刺激物というか、毒ではないんですけど」

「そんなものを用意していたのか。聞いたこともないが……」

「あれは私のオリジナルですので。それに原材料も私の魔法というか」

「それだ。さっきのはいったいなんなんだ? 木が生えたぞ?」

「あ」


 そうだった。村で使うことに慣れていたけど、そもそもギフトはレアなものだ。

 村でも隠していないし、教えてもいいかな?


「私、洗礼でギフトを授かっているんです。【植物魔法】というんですが。といっても、出力が低くて大きなことはできないんですけどね。背の高い木とか生やせませんし、畑全部を一度にどうにかするとかもできません」

「ギフト、なるほど、ギフトか。洗礼を受けている? さっきのは……いや」


 フィン様は首を振って話題を切った。


「すまない。驚いてしまい、話を長引かせた。もう休むところだったな」

「いえ、こちらこそすみません。気を使わせてしまって」

「気にしないでくれ。今日は大変なことがあったんだ。しっかり休むといい」

「ありがとうございます」


 私は彼の言葉に甘えて、簡易の木の板に伝言を掘り、リーフェルトくんの横に置いた。

 もちろん干し肉も一緒にだ。

 夜中に起きずとも明日には目覚めてくれるといい。

 今日の幸運に感謝しよう。

 魔獣と対峙し、それでもなお生き残ることができたのだから。



「……!」

「……?」


 話し声がする。

 穏やかでいて元気な。リーフェルトくんの声だ。

 一緒に話しているのは昨日出会ったばかりの騎士、フィン様だろう。


「ほら、こうするとうまくいくだろう?」

「わー!」


 目を開けて、寝た姿勢のまま、ぼんやりとその光景を見る。

 どうやらフィン様がリーフェルトくんに何かを教えているらしい。

 手元で……なんだろう? 紐かな。紐を結んでいるみたい。


「ほら、強く引っ張ってもほどけないだろう?」

「うん! すごい!」


 もやい結びかなぁ。この世界にもあるのね、あれ。

 そうか。紐の結び方一つでも、ちょっとした遊びになるのか。

 現代知識があるぶん、それは盲点だった。

 あと、もやい結びの仕方を普通に知らない。

 あやとりとか好きになるかしら。ちょっと男の子には向かないかなぁ。


「あとはこう、ここで枝を十字に結べば……ほら。剣のできあがりだ」

「わぁ!」


 今度は〝いい感じの枝〟を十字に固定して、ちょっとした剣の形にしてみせた。

 木剣もどきね。でも、ああいうのでいいのかもしれない。


 ……リーフェルトくんは楽しそうだ。

 保護者を買って出てから数ヶ月。

 あんなに無邪気に笑う機会がそこまであったかしら。

 男親って、やっぱり男の子には必要なのかな、なんて考えが思い浮かぶ。

 すっかり保護者を通り越して母親の気分だった。

 私は微笑ましい光景を目にしながら、ゆっくりと体を起こす。


「あ! おはよう!」

「おはよう、リーフェルトくん」

「起きたかい。おはよう、アーシェラさん。体調はどうだい」

「ん……。とくに問題ありません」

「それはよかった」


 モソモソと起き出した私のところへ、リーフェルトくんがタタタと駆けてくる。


「これ、ごはん!」

「うん?」


 差し出されたのは木の実の入ったスープ、だろうか。

 素材そのままではなく簡単な調理がされているように見える。


「もしかして、これは……」

「俺とリーフ(・・・)で用意したんだ。アーシェラさんのためにね」


 リーフ。もう愛称で呼ぶ仲になったのね。


「まぁ、それは。ありがとう、リーフェルトくん。フィン様も」

「うん!」


 ニコニコのリーフェルトくんの笑顔に幸せな気分になる。


「リーフェルトくんはもうフィン様と仲よくなったのね」

「うん! たくさん、教えてもらったー!」

「まぁ、それはよかったわ、ふふ」


 私たちはのんびりと朝食にすることにした。

 アーティファクトで獣や虫が近づかないとはいえ、森の中で朝食なんてね。

 とても得難い経験をさせてもらった。雨が降らなくてよかったわ。


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