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09 魔獣被害とその対策

 私とリーフェルトくんの生活はそれからも続く。

 日々の生活は充実していると思う。

 とくに実家であるリンドブルム公爵家からの追手はなく、ローデン家からの干渉もない。

 もう私のことなんて忘れられていそうだ。


 私が村に来てから三ヶ月ほどが過ぎた。

 ……その間も、ヘレーネ叔母さんは家に帰ってこなかった。

 私はそのことには触れないまま、リーフェルトくんと家族として仲よくなった。


 畑の方だけど、麦、芋、豆、薬草をそれぞれ収穫できた。

 二人が食べられる分は確保ね。

 村の人たちともそれなりの関係を築くことができている。

 リーフェルトくんも特別に親しい友人などはいない様子だけど……。

 それでも村の子供と打ち解けて遊ぶことができるようになった。

 どうも、あの日のチャンバラがよかったらしい。

 遠巻きに私とリーフェルトくんがチャンバラするのを見ていた子供たちに誘われたようだ。

 ちゃんと男の子と遊べるようになったのはホッとした。

 リーフェルトくんってこう、お顔が整っている方で、あのまま私だけで育てるとよくない育ち方をしそうで心配だったのよ。

 やっぱりヤンチャに笑って、走り回って元気なぐらいでいてほしい。


 村での日々は順調で平穏だった。

 だけど、不穏な噂が聞こえてくる。


「魔獣被害ですか?」


 神父様が私を含めた複数人の村人を集めて注意事項を広めてくれている。


「そうなのです。この村から東の森の向こう、アラド地方でどうも深刻化しているようで」

「その噂、市場で耳にしたことがあります。村に来たばかりの頃ですが」

「そうですね。以前から話はあったのですが、それが今も続いているらしい」


 あの噂は、まだ解決していなかったのか。


「ということは……採取でよく行く東の森に被害が?」

「その危険が増しました」


 村の東側には森がある。これは大人だけではなく子供も行く森よ。

 暖炉や竈に使うための薪拾いや、木の実、それからキノコを採ってくるの。山菜もそうね。

 よくない草やらキノコもあるので採取してきたものは大人が確かめる。

 ちなみに私の【植物魔法】、キノコは生成できないようだ。まぁ、植物ではないわよね。


「暑い時期が終わって森に入りたい時期になりました。困ったことですが……」


 実りの季節だ。森に入れないとなると、この村にとって貴重な資源採取の機会が大きく減る。

 それは冬支度にも影響が出るということ。

 獣害は現代日本でさえ克服できていない問題だ。とても大変なことである。

 でも、この国には今のところ銃器はない。

 対応は前世より危険になり、できる人間が限られる。


 森での狩猟自体が基本、貴族の(たしな)みだ。

 彼らは攻撃的な魔法が使えるからね。

 農村に暮らす人々にとって、できるのはせいぜい兎を狩るぐらい。

 がんばっても猪の撃退ね。

 魔獣被害なんて大事になった場合に農村の人間が取れる手段は限られる。


 領主に頼んでお抱えの『騎士』を派遣してもらうか。

 近くの都市部、街を管理している管理者に、街の『衛兵』を派遣してもらうか。

 街の管理者もだいたい下位貴族が基本だ。彼らは地域一帯の代官を兼ねている。

 代官とは領主に任命され、領地の一部の管理・運営を領主の代わりにする者たちのこと。


「近隣の村と情報交換をしつつ、まずは代官殿にこの旨をお伝えすることになりますね」


 領主に動いてもらうとなると一つの村の問題では済まない。

 近隣の村が、同時にこの件で困っているような事態でないと対応は遅くなるだろう。

 最悪は何も動いてくれない事態になる。

 そうならないように近隣の村々で情報を集めて、村の連合で代官に嘆願するのが基本だ。

 村が個々に危機感を訴えても、そう簡単には動いてくれないのよ。


 残念ながら、私も魔獣を退治する戦闘能力はない。

 植物を操って武器にする! とか、前世のイメージ頼りにやろうとしたことはある。

 でも、生やした植物をそのまま自在にコントロールするとかは無理だった。くそぅ。

 成長過程で『形』はある程度どうにかできるみたいだけど、自在には動かせないのだ。

 私の【植物魔法】が出来ることは〝生成〟〝成長促進〟〝枯らす〟のみ。

 操作ができたら労働力代わりになったのになぁ。


「村の皆さんはこの事を広め、森に入る際には十分に注意するように」


 神父様がそう締めくくった。



 私は家に戻るとリーフェルトくんに魔獣のことを教える。


「森に入っちゃダメ?」

「問題が解決したって話が伝わるまでは森に入ってほしくないかな」

「そうなんだ……」


 しゅんとするリーフェルトくん。

 どうしてこんなにへこんでいるかというと、わりとリーフェルトくんも森に入るのだ。


 例の薪や木の実、キノコ、山菜の採取ね。

 一人ではなく村の子供たちと一緒が基本。

 『役目がある』ということは彼の自尊心につながっていると思う。

 リーフェルトくんが家のためにできることが減ってしまう。

 それはきっと彼にとってよくないことだ。

 リーフェルトくんは『楽ができるならそれでいい』というタイプじゃない。

 どちらかというと役割を与えられた方が安心して、真面目にこなすタイプなのだ。


「魔獣ってそんなに怖いの?」

「そうね。私は幸い、直接の被害に遭ったことはないけれど。その被害はひどいものらしいわ」


 でも、仮に日々の充実が失われたとしても、私は安全を第一にしてほしい。


 森へ採取に行く以外に何か別の役割を与えておけば森に行こうとはしないかしら。

 一応、文字の読み書きは教えているのだけど、その勉強に集中させて、とか?

 あー、でも、こういうのって『こうしておけば安心!』と思った時こそ危険な気がする。

 ここで厳しく言えば、リーフェルトくんは素直に聞いてくれるかもしれない。

 だけど、そうした場合に起きそうなことは……村の男の子たちが、からかいに来るとか?

 大人の言いなりになるなんて情けないな! 冒険に行こう! とか言い出して。

 それで子供たちだけで大人の目を盗んで出かけてしまうの。

 そんな日に限って魔獣はすぐ近くまで迫っていて……。


「ありそう!」

「?」


 思い至ったことに頭を抱える。リーフェルトくんは首をかしげるばかりだ。


「村の人と一緒に対策を考えるから、それまで待ってほしいな。どの道、森の資源は必要になるから絶対に森に入るなとは言えないと思う。だから、せめて対策をさせて」


 私がそう提案するとリーフェルトくんは頷いてくれた。

 さて、どうしようかしら。

 私はああでもない、こうでもないと考え始めた。


「変に森へ行くのに制限を掛けると、子供たちは逆に親や大人に逆らって森へ入りそうな気がするんです。或いは安全な今、森へ行くことに味をしめて本当に危険な時に同じことをしてしまうとか。そうして油断して森に入って、そういう時に限って本当に魔獣が来るとかありそうで……。ただの心配し過ぎかもしれないですけど」


 私は近所の村人にどうしたものかと相談した。

 私の言い分もまったくの的外れではないようで、一緒になって悩んでくれる。


「私はギフトで普通とは違うことができます。何か子供たちの意識を森から離して、余った元気を村の中で発散出来る場を別に作れないかと思うんですけど」

「でも、貴方の魔法って、そこまで大それたことはできないのよね?」

「はい。できるのは地道なことだけです」


 今あるものの中で、どうやりくりするか。ずっとそればかりだ。


「……魔獣対策が何かできればとも思うんですけど、魔獣といってもどういうものなのか。そういう話って他の村には伝わっているんでしょうか」

「私たちが市場に行った時も具体的な魔獣の姿とかは聞いてないわねぇ」


 対処できる魔獣なんてものがどれぐらいいるのかわからないが……。

 落とし穴でも掘っておけばマシというなら、進んで掘りたい。

 魔獣についての情報収集は続報を待つしかないだろうな。


 じゃあ、子供たちの意識を森からそらすにはどうすればいいか。

 子供たちは大人の仕事の手伝いをしている。

 遊ぶ時もあるにはあるが……。

 森での採取は子供たちの仕事、役割だ。それは彼らのプライドでもある。

 他の子供たちも森に行くなと言われると思うところがあるのだ。

 それは理屈では納得できないかもしれない。


「まだ大丈夫とは思うから、むしろ今のうちに森に入らせておく?」


 逆に? それもありかもしれない。

 でも、私たちが本格的に話を聞いたのが今というだけで『まだ大丈夫』の根拠は薄い気がする。

 だって私がアラド地方の噂を耳にしたのは数ヶ月前だ。

 それが今になって危険として情報が入ってくるなんて、もうすでに深刻な事態なのかも。

 こういうことに正解なんてないか。

 やれることをやれるだけ、できる範囲でやるしかない。



 そんなワケで私たちは魔獣対策をどうにか取り始めた。

 具体的にいうと警報装置の設置だ。といっても当然、機械ではない。

 『鳴子』というわりと原始的な手製道具を森に仕掛けることになった。

 普段は畑の鳥害を防ぐためのもので、音を鳴らすだけの道具だ。


 森に広く仕掛けるために準備は子供たちにも手伝ってもらう。

 私やリーフェルトくんもそれに参加した。

 音が鳴る道具を設置するのは魔獣が来た時の対策でもあるけど、子供たちが『森に行ってしまった時』の対策でもある。


「物を作るのも楽しいね、リーフェルトくん」

「うん!」


 リーフェルトくんと一緒に作業だ。

 こういう機会はもっとあっていいかもしれない。


 ちなみに材料となる木材、竹材は私が提供。

 ちょっとずつ、手頃な大きさになるように生成する。

 といっても私の【植物魔法】で大樹は生やせないので、小さいのを細々と出していくのだけど。


 あとは本当に、ただの慰め程度なのだけど。

 〝いい感じの枝〟の大人バージョンを用意した。木剣の代わりの棍棒ね。

 握りの太さ、頑丈さ、重さをある程度は調整できるし、比較的真っすぐな木の棒を作る。


「殺傷力的には鍬とかの方が高いですよね」


 神父様にそう話を振る。


「木の棒のままではそうですねぇ。ですが、皆さん。木の棒でもまんざらでもないご様子です」

「あはは……。リーフェルトくんと変わりませんね、皆さん」


 いくつになっても、やはり〝いい感じの枝〟は人気が高いらしい。

 大人の男性でさえ気分よく振り回していて楽しそうだ。


チャンバラ(・・・・・)しようぜ、父ちゃん!」

「おう! いいぞ!」


 ⁉ 今、チャンバラって言った?

 私はバッとリーフェルトくんに視線を向ける。


「どうしたの?」

「リ、リーフェルトくん? もしかしてチャンバラって村の子に教えた?」

「うん!」


 くっ。元気よく笑顔で返事をされた。

 もしかして私、変な文化を広めてしまったのではないかしら。

 まったく知識チートにもならない文化だ。なんだか恥ずかしい。

 ちなみに村の男の子たちには騎士の真似事っぽくて好評だとか。

 男性陣にもだ。この国で騎士は結構、男の子の憧れなのよねぇ。


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― 新着の感想 ―
チャンバラ…その単語ごと流行るとはw というかそもそも17歳(の記憶)でチャンバラって知ってるんでしょうか。 七海ちゃん時代、身近に時代劇好きなお年寄りが居たんでしょうかね? ともあれRPGでも最…
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