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神の座に至りしもの  作者: 冬斗
第一部 転光編
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第一話 律を持つ少女

創律典 第一章

──『かの声より万象は揺れた。』

 まだ世界が、旋律と沈黙の交差に眠っていた頃。万象は無音の中に在り、理なき混沌に身を委ねていた。


 火はただ燃え、風はただ流れ、命はただ芽吹く。名はなく、意味もなく、すべてはただ、そこにあった。


 その時——“声”が落ちた。


 それは音とも言えぬ響き。意味すら持たぬ波。だが、それは“律”を生み、形を持ち、境界を定めた。


 空は空となり、大地は大地となり、命に名が宿った。人々はその“声”を神と呼び、神々すらそれに従った。


 そして今、また“声”が降る。

かの始まりの音に酷似した、“調律されざる響き”。


 神ですら知らぬその音律。

だがそれは、世界をもう一度創り変えるだろう。


 我らはその名をこう記す

——「ソナス」と。







 私は学校からの帰り道を歩いていた。少し遅くなってしまい、既に日は傾き始め、辺りは薄暗くなってきていた。

横断歩道に差し掛かり、赤だったので一度歩みを止めた。そして信号が青になったのを確認して渡り始め、中間に差し差し掛かったときだった。


「危ない!」


 どこからか聞こえてきた声に導かれて右側を振り向くと物凄い勢いで向かってくるトラックが見えた。その瞬間、身体は宙を舞い、そして意識は途絶えたのだった。


 一瞬で意識が刈り取られたため、それに痛みはなかったが何かが無理やり引き剥がされたような不快感を感じた。


………え?不快感?死んだはずなのに不快感?

意識が刈り取らたという割に今考えられていることにビックリし、目を覚ました。


 意識が浮かび上がり、目を開けるとそこは病院の診察室のような空間でそのヘッドの上に寝かされていた。違うのはパソコンがなく、何やら近未来的な半透明な板が浮かんでいた。

 もしかして生き延びたのだろうか。でも、そんな場合は病室じゃないかと考えていたときだった。


「ようこそー、魂処理管理局へー。一名様入りまーす!」

 軽い声が空側に響いた。


 その声にハッとするとさっきまで確かに誰もいなかったはずの椅子の上に白衣を着た中年の男がいた。そして私は問いかけた。


「あの…、ここどこですか?私、確かに死んだと思ったのですけど…。」


「え、ここ?言ったじゃん。ここは魂処理管理局。分かるように言うなら天国?に近いかな。あと、死んでるよ君。確かに死んでる。定番もド定番の死に方。トラックにドーンと突っ込まれて即死よ。よくラノベとかである死に方だよね。あ、なんか言いたげだね。でも残念。僕に文句を言ってもしょうがないので言うならトラックに言ってね。」


「ええ…。」

 その怒涛の返しに私は戸惑ってしまった。死んだのは分かったけどこの人は一体なんなのだろう。天国って言ってたし神なのだろうか。



「あ、ごめんね。挨拶を忘れてたよ。僕は転生担当の神さ。あ、信じてないでしょ?それでもいいよ別に。関係なく進めるから。じゃあえーっと、君の魂コードは……あったあった。」

 

 その自称神は空中に浮かぶ半透明なパネルを操作しながら、頬杖をついていた。


「……死んだって、本当なんですか?」

 トラックに突っ込まれたこともあり、余り疑っていないがもう一度確認した。


「うん、そうだよ。断言するよ。たまに死んでないのに来る人がいるけど君の肉体は完全にトラックにグチャって潰されてるから生き返ることはないね。」


 断言された事にはやっぱりかと思ったが、あまりにも軽い物言いに少しイラってきた。


「ちょっと待ってくださいよ! 私、まだなにも出来ていないんですよ! 家族も、友達も、目標だって!」


「うんうん、気持ちはわかる。けど、そういうのはさ、全部置いてきちゃったから。それに君の不注意がいけないんでしょ?」


 言葉が出なかった。恐怖とも、混乱とも違う、現実味のなさが脳を麻痺させる。大体、赤信号だったのは突っ込んできたトラックの方だし。


「……」


「で、まぁ転生の話ね。死んじゃったことはもうしょうがないから。それでなんでこんなところに来たかというと君は魂の質が特殊だから、通常処理じゃなくて直接選定に回されたの。」


「……転生?」


 なんとも心踊る言葉。誰だって一度は想像したことがあるだろう転生。死んでしまったことはもうしょうがないし、切り替えて次を楽しむことが大切かもしれない。


「そそ。異世界にポンって送られるやつ。いわゆる“なろう”的なアレ。死に方もテンプレだったし転生もテンプレだよね。ほら転生って最近流行ってるから。」


 私が想像している転生であってるらしい。喜んで受け入れる気でいたが、一応他に選択肢がないか聞いておくにした。


「あの、私に選択肢はないんですか?」


「あるよ。」


「え、あるんですか!」


「ある。魂を真っ白にして完全に記憶を消し去り通常の魂の循環に戻すかの選択肢がたる。ほかの選択肢はこれくらいしかないかな。逆に何であると思ったのかな?気に食わないならここで魂を消滅させるよ。嫌でしょ?はい、次行くよー。」


 彼はデータを操作しながら私に説明を始めた。


「転生先は……『エルティア・グランデ』っていう惑星だよ。なんと地球の130万倍もの面積があるよ。多文明、多神制、になっていて面白いよ。重力とかは気にしなくてもいいよ。詳しく言うと小難しくなるから言わないけど地球と変わらないから。」


「面白い?まあ、それは置いといて。私、どうなるんですか?」


「うーん、辺境の村の近くに落とされるよ。最初は厳しいかもだけど、まぁ大丈夫。よくある転生特典っていうものがあるから。」


 やっぱり転生特典というものがあるらしい。それに内心喜んでいると自称神はさらに何かを確認するようにパネルを睨み、急に眉をひそめた。


「……ん? なんだこれ?」


彼の指が止まり、口元が引き締まる。


「コードが……未登録……? 波形がおかしい。干渉率が、神域を超えてる?なんでこんな……」


「え? それってどういうことですか?」


「いや、うん、大丈夫。たぶん」


「たぶん!?」

 どうやら問題が起こってしまったらしい。私は無事に転生出来るのだろうか。


「いやいや、大丈夫大丈夫! 転生特典を与えるにあたって魂に合わせたスキルにする必要があるんだけど君って音系の魂らしくて、“調律属性”がすごく強くなっているのね。それで……あれ? 制御が、効かない……?」


 神はそう言って説明と中断し、めんどくさくなったのか無理やりデータにロックをかけて、強制的に処理を終わらせた。


「とにかく! 転生処理、完了! 君には“声”に関する力を付与しておいたよ。まぁ、なんとかなるっしょ? がんばって!

たぶん、世界をちょっと良くすることができるよ?まあ、何かの“調律”とか“創造とか破壊とか”……そのへん得意になるから頑張って!」


「本当にそれ大丈夫なんですか!?」

 不安でしょうがない。せっかくの転生特典がそんなに怪しくて大丈夫なんだろうか。


「……わかんない。でも、君ならいけるって信じてるよ!」


「でも…!」

 私は食い下がった。次の人生を棒に振るわけにはいかないのだ。


「オレはめんどくさいの!転生の定番セットもつけるからいいでしょ!はい、もういってらっしゃい!」


 その瞬間、空間が崩れ、視界が黒に染まる。視界が暗転し、意識が闇に吸い込まれる寸前、あの自称神の声がした。


「あ、ステータスオープンって言えば自身のステータスが確認出来るからね!」


 そうして私が次に目を開いたのは、静かな森の中だった…







 空は高く、風が木々を揺らし、遠くに小さな村の煙が見えた。


――その魂が、いずれ「神」と呼ばれることなど、まだ誰も知らない。


――その声が、「世界を揺るがす律」となることなど、まだ誰も知らない。


けれど、この世界はすでに聴いていた。


あの“創律”の残響を——


【創律詠・第一調 抜粋】

『我が声に耳を傾けよ。

 混沌を裂き、沈黙を破り、響け、世界。

 我が名はまだ知られず、

 されど律はすでに始まりに在り。

 天地の理、我が喉元に宿るが故に』

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